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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
十二章 固執する理由
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3.願い

「四朗君には‥幸せになってほしい。あんなに頑張ってるんだもの‥。勿論、千佳にもね」

 紅葉は小さく微笑むと、目を軽く伏せて静かに呟いた。

「千佳は妹だから、幸せになるのを見届けられるけど、傍で手伝ったりできるけど‥。四朗君はそうはいかない。でも気になる‥」

「なんか考えてることが読めてきた」

 ふ、と笑うと、千佳が顔を上げる。「考えてること当ててあげましょうか? 」

 と、悪戯そうな表情。

「じゃあ、四朗君が千佳と結婚して弟になったらいいんじゃないって思ったんでしょ」

 紅葉が、図星だったのか、目をちょっと逸らす。千佳はにやりと笑う。

「言うと思った。でも、無いわよ」

 ほら、当たりだ。の勝ち誇ったような顔だった。

「ないかあ」

 紅葉が肩をすくめてちょっと笑った。

「四朗さんていうんだっけ? あの根暗。その四朗さんに失礼だよ。‥信頼してないの? 心配して見てなきゃダメな人だって思ってるの? 」

 千佳の真っ直ぐな瞳に射抜かれた。

 顔がかっと赤くなるのが分かった。(多分)

 顔が熱い。

「そんなことは‥」

「じゃあ、信頼してあげて。あの人だって、頑張って悩んでるんでしょ? 今はまだ答えが出なくて、ただの根暗な人だけど、自分で何とか出来る人‥なんじゃないかな? 誰かが力を貸さなくたって」

「千佳‥」

 もう、言葉も出ない。

 もっともだ。ごめん。四朗君。

「私もそうだよ。支え合って‥とか、傷の舐めあい的なこと、私はしたくないの」

 そうだね、ごめん、千佳。千佳のことは千佳がちゃんと決められるよね。

 でも、それってちょっと違う。

「支えあうってことは、傷の舐めあいとは違うよ」

 それだけは言わせてもらう。

 断固、否定する。その間違えだけは正すべきだ。

「私にとっては‥そうだよ」

 千佳がさも、面白くなさそうな顔をする。

 そうそう。千佳は割とこんな顔をする。

 もっとも、こんな顔するのは、まだいい方だ。

 こんな顔「出来なくても」千佳は(きっと)こんな気持ちでいることが多い。

 テストで成績が良くて先生に褒められた時、部活でいい成績が出せて皆が喜んでいた時。いつも決まって千佳は、照れて困ったような顔で笑う。

 だけど、そんなときの千佳の目は、いつも今みたいに「面白くなさそう」なんだ。

 人の顔を見るときに、先ず目を見る癖がついてる私だから気が付くようなこと、なんだけどね。(きっとそれは、四朗君も一緒だと思う)

 表情は作れても、視線までは作れない。

 だから、(人の目を見てしまう私たちは)人の気持ちに人よりも敏感で、そして、人より傷つく。

「私はね、思うんだ。お互いの弱さをお互いで補うのは、一人じゃだめだから二人でいるっていう意味じゃない。二人で一つ分、じゃないんだよ。二人で三つだよ」

 うまく言えない。

 伝わるかな。でも、何度言い直しても伝えたい。

「三つって何それ」

 苦笑する千佳の顔は‥やっぱり伝わってなさそうだ。

「えと‥。つまり、一つのことを二人でするんじゃなくって‥。二人ですることによってより多くのことが出来るってこと」

「うん」

 と、その部分には千佳の納得が得れたようで、紅葉はひとまず安心する。

 しかし。

「で? 」

 千佳が続きを要求してきた。

 そうそう。二人で一つの話してるわけじゃなかったね。「支えあう」って話だったね。

「つまり‥。支え合うってのは、高めあうってことだ、って話」

 そう、これ! 

 紅葉がどや顔をして言った。

「高めあう‥」

 千佳が、「まあ‥そういうこと言いたいんだろうとは思ったけど」という顔をしている。

 納得したかどうかは、別として、言いたいことは理解してもらえたようだ。

「そっか、くれちゃんは‥成長したね」

 千佳は、どや顔をする紅葉にふっと口の端だけで微笑んで、言った。

「もう、なにそれ‥」

 そう言う千佳の、どこか不安げな瞳の奥が気になって仕方がない。

 何か、どうにかして千佳を助けたい。

 ねえ、四朗君。四朗君なら、‥どうにか出来ない? 

 私と同じように千佳を知っていて、でも私とは違う四朗君。

 きっと、君にしか千佳の事助けられない気がするんだ‥。

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