2.前途多難
「誰」
稍あって紅葉が顔を上げた。
「前にくれちゃんの部屋にいた‥。ちょっとくれちゃんと似てて、前髪垂れてる無駄に顔の整った男子」
あんまりな言い草に、がくっと来そうになる。
「‥もしかして、四朗君? 私と四朗君はそんなでは、絶対ないし、根暗で重くて‥ストーカーになりそう、なんて酷いな。あの人は、いい人だよ」
それは、いくら何でも‥。
確かに明るくはない、けど‥。千佳、何気によく分析してるな。
「好きなの? 」
四朗をかばう発言をした紅葉に、千佳はコテンと首を傾げる。
「私には、他に好きな人がいるわ」
思わず「まさか! 」と叫びそうなくらいきっぱりと否定してしまった。
‥ごめん、四朗君。四朗君が嫌、とかじゃ‥ないよ。うん。
「え? 誰? 私の知っている人? 」
千佳にとって、それは余程予想外の答えだったんだろう。驚いた顔で、千佳が紅葉を見た。
紅葉は首を振る。
「知らない人」
「顔がいい人? 」
眉根を寄せて首を傾げる千佳に、紅葉もちょっと首を傾げる。
‥悪くはないと思うけど。四朗君とか、相崎と比べると‥まあ、落ちるよね‥。しゅっとした三郎さん(※武生の兄。相馬の長男)とも武生さんは違った顔だったな。(※あのあと一緒に晩御飯を食べた)。武生さんは、ホントに相馬のお父さんにそっくり、っていうか。見るからに誠実としか言えない‥悪く言えば面白みの無い顔なんだよね‥。
「それは、いいわ。顔のいい人って私苦手。何考えてるかわからないから」
「それは、偏見だわ‥」
何考えてるかわからない美形は、相崎。いや、相崎は単純だから、「ろくなこと考えて無いだろうなあ」とは思うけど、悪いこと考えてるわけでもない。同じ美形でも四朗君の方が、深みがあるけど、「何考えてるかわからない」とかそんな感じじゃない。
悪いこととか考えてないんだろうな、って感じ。
どっちかというと、武生さん寄りの好感度が持てる顔。だけど、美形。好感度が持てる美形だ。
ってナンダソリャ。
‥でも、時々見せる『悪い顔』は、ちょっと‥怖いけど。怖いって言うか、色気半端ないっていうか。(しかもそれを自覚してる)
色々ぐるぐる考えて、無言になる紅葉に、千佳は眉を寄せる。
「まあいいわ。そのくれちゃんの好きな人、どんな人? 優しい人? 」
と。いつも通り保護者の発言。千佳はホントに心配性だ。
「優しいわ。それに頭がよくって、剣術が強いの」
と、紅葉はにっこり断言する。
顔云々は個人の意見だけど、これだけは自信持って言えます。
「何それ。それで顔も良かったら漫画ね」
千佳が、ぷっと吹き出す。
「その漫画なのが四朗君よ」
でも、これも自信持って言えるな。剣術は、武生さんの方が上かも、だけどね。私と手合わせしても、私の方が勝つかも、だけど、私はちょっとズルしてるところがある。単純に技術だけだったら、確実に四朗君の方が上だ。体力もあるし。
体力が一番あるのは、武生さん。剣も重い。速さと技術は、四朗君。センスとリズム感は多分、私が一番だ。それは、絶対譲れない。
「あの根暗な人が? 」
千佳が眉根を寄せる。
何、その嫌そうな顔‥。
「なんでそんなマイナス先入観持っちゃうかなあ‥」
紅葉は、小さくため息をつく。
千佳と四朗をくっつけよう作戦は、前途多難なようです。
「まあ、あの人は顔はいいけど「俺様」タイプではなさそうよね」
うんうん。と頷きながら千佳が言う。
‥ホント、千佳はなんで四朗君の事そんなに知ってるの??
思わず首を傾げそうになるが、ここはスルーの方向で‥。
「そうね。決してそんなタイプではないわね。同じく顔がいい相崎の方がそんな感じはある、かなあ。いや、ちょっと俺様とは違うかな」
「どんなタイプ? 」
興味をひかれたらしい千佳が面白そうに聞き返してくる。
「とにかくタラシ」
と、ここは断言で。
ええ、もう。その一言に尽きます。
「うわ。私はないな」
千佳は目に見えて、ドン引きしている。
ごめんね。相崎。ここは、悪者を一手に引き受けて下さい。
悪い奴じゃ‥ないんだよねえ。ただ、私的に「ない」だけで。
と、それは千佳にも伝わっちゃったみたい。
「悪い奴ではないわよ? 優しいし」
取り敢えず、ちょっとはフォローしとくけど。「女タラシだけど」が消えない程度に。
「下心あるのはちょっとね‥」
そうそう。この反応。正解。
「千佳は、変な男には引っかからない様な気がする。安心したわ」
紅葉が、にっこり笑って言った。
ちょっとお姉ちゃんっぽくない? 心の中はうきうきです。
「変などころか、男になんて引っかからないわよ」
千佳がうんざりした顔をする。
‥そうなんだよねえ、千佳ってそうなんだよねえ‥。
「恋も悪くないわよ」
苦笑いして紅葉が言った。そして、
「『貴方さえいればいいっていう恋』いいと思うけどなあ」
付け加える。
「根暗に聞いたの? うわ、最低。口の軽い男って嫌い」
千佳が、不機嫌な表情になって、紅葉から顔をそむけた。
あああ、また悪印象。違う、そうじゃあ、ない。
口では言い表せないんだよなあ、こう、実際に会って話せばきっとわかってもらえるんだけどなあ。
四朗君が、凄くいい人だって。
本物になりたがってる四朗君の寂しさや、戸惑い。でも、それでも一生懸命自分と向き合ってる。
それだけは‥わかってほしい。
「‥四朗君の事、悪くいわれるのは嫌だな。四朗君は‥頑張ってる」
伝わらないもどかしさで、胸がいっぱいになる。苦しくなる。
「くれちゃん? 」
紅葉を見る千佳の視線に、心配した様な表情が浮かぶ。
「ごめんね。友達の事、悪く言われちゃ嫌だよね。ごめんね。くれちゃん」
ああ、またこんな顔をさせてしまった‥。




