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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
十一章 それぞれの「幸せ」
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9.可能性のある未来と菊子の意志(千佳の意志は無視)

 跡継ぎは、嫌なものなのか。

 責任重大だから? それは、そもそも嫌な物だろうか? 寧ろ、当たり前だ。責任って、嫌な物かな。

 四朗には、それが分からない。

 無理に、「欠点」を考えてみて、なんとか浮かんだ考えで、本当に博史や武生がいう「イヤ」の理由として合っているのかは分からない。

 自分には、当たり前で、選択肢以前の問題だった。

 そして、それを嫌だと思う自分は、どんなに考えてもいない。

 四朗=自分。

 相生の意志は自分の意志だった。

 そして、相生を継ぐことは自分の誇りだった。

 だから、相生をつないでいけないならば、何とかしなければな、と思う。これも当たり前の選択。

「イヤ、かなあ」

 博史が自分に遠慮しているってことも、考えられるけど、あの顔はホントにイヤなのだろう。

 博史は、感情が総て顔に出るから。

 武生も、嫌なんだ。

 そっか、武生は長男でなくて、よかったんだ。そっか‥。

 じゃあ、武生は紅葉ちゃんと結婚して、西遠寺の跡取り争いに巻き込まれるのはやっぱり嫌かな。

 あんなに仲良さそうだったのに、仲がぎくしゃくしちゃったら、嫌だな。

 ちらりと紅葉を盗み見したら、目が合った。

 紅葉も自分を見ていた。

 不安そうに。

 どうするべきか。わからない。

 だから、四朗に助けを求めた。

 もう、既に跡取りで、生まれながらの跡取りである臣霊を。

 紅葉から求められた救助要請を、四朗は無下には出来ない。出来ないが‥。

「‥まあ、博史じゃ正直心配だしね」

 仕方ないなあと、「兄の」笑顔。

「そりゃそうだよ」

 博史が、ちょっとむくれた顔で言うと、四朗はふふ、と目を細める。

 ふわり、と華が咲くような笑顔。

 華やかさはない。甘さもない。ただ、繊細で静かで美しい。月下美人の華。

 ‥あ。ホントに月下美人だ。

 紅葉はぼんやりと思った。以前、桜様の女中さんが言っていたなあ。そんなことを思い出したのだ。

 ‥相生は、月下美人の様な美しさだったって。魔性の美しさだったって。

 闇夜にぼんやりと光る。月の光を集めてぼんやりと光る月下美人の白くて薄い花びら。

 魔性って。

 考えて、ちょっと可笑しかったけど、確かに四朗の笑顔は健康的なものではない気もする。それを考えてまた可笑しくなった。

「私はどうでもいいですけど、四朗様がそう言われるなら」

 菊子が今日何度目かの「貴方の為なら」発言をする。

 この子、自分の意志がないのかな。貴方について行きますって感じの子なのかな。

 最初はそう思ったけど‥。違うらしいって今はわかる。

 支えていく覚悟。信じていく覚悟。どんな時でも、味方で‥傍にいる覚悟。

 それを彼女は選んだ。彼女の意志で。

 ただその相手である四朗君が、あんな調子で‥。

 菊子ちゃんの恋は前途多難だろう。

「強いなあ」

 つい口に出してしまう。

「男だからね」

 その「強い」が自分に向けられたと思ったらしい四朗が、ふふっと笑ってちょっと誇らしそうな顔をした。

 ‥四朗君じゃないよ。しかも、女の人の方がいざとなると強いよ。

 とは、言わないでおいてあげる。

「さあさ! 何四朗君たち立ってるの? 座って座って! 鍋にするわよ! 」

 障子を勢いよく開けて、紘子が明るい声を出した。

 ほら。これ。場をぱっと明るく変えてしまう、絶対的なパワー。やっぱり、女の人は強い。

 紘子さんは、ひまわりみたいです。

「え? あ、俺たちはもう帰りますって」

 博史君も四朗君もたじたじだ。見ていて、ちょっと笑ってしまった。

「もう、清さんには電話しといたわよ♪ 「じゃあ、今日は久し振りに女同士でウナギでも頼もうかしら」って大奥様もおっしゃってたわよ? 」

「ばあ様‥酷い‥」

 博史がげんなりした顔をする。

「じゃあ、コップと取り皿追加しますわね! 」

「‥手伝うよ」

 菊子がうきうきとした声を出し、博史がその後ろについて台所に向かう。その様子は、なんとなくほほえましくって、その場にいた皆の顔が自然と綻ぶ。

 四朗君の相手は、明るい子がいいね。四朗君の闇を四朗君ごと包み込んでくれるくらい、明るくて強い子。

 ひっそりと四朗君の横で四朗君に守ってもらいながら微笑んでいる様な綺麗なお花じゃなくって。(‥そういう方が、四朗君は好きそうだけど)

 強引で、優しくって、強くって明るい人。

 そう、千佳みたいな! 

 ぴん、ときたスペシャルな考えについ目が輝いてしまう。

 千佳と四朗君! なんてピッタリなんだ!

 千佳と四朗君の恋愛だって、前途多難さは変わらない。むしろ、千佳の性格からして菊子ちゃんと四朗君の恋愛以上に困難だろう。だけど、どうせなら、‥私は千佳に幸せになってもらいたい。だって、私は千佳のお姉さんだから。

 千佳は、あの通りの性格だから、自分から幸せを掴もうとはしないだろう。いつも姉である私の為、母親の為家族の為。それは彼女の優しさだ。でもそれだけではない。それは恋を知らないからだ。

 恋をすれば、きっと変わる。

 だけど、きっととびっきり不器用な愛情表現をしてしまう。

 その彼女の性格を認め、「そんな君が好き」って人でなければ。

 その点は四朗君で問題はない。

 ちょっと、「姉さん風」を吹かせたがる千佳の要望もあっさりクリアできる。四朗君なら性格もいい。信頼も出来る。今まで気付かなかったが、なんてぴったりなコンビなんだろう! 

 菊子ちゃんには、‥博史君がいるし。

 ふふ。

 悪い笑顔がつい出そうになる紅葉だった。

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