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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
十一章 それぞれの「幸せ」
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7.ホームタウン

「喫茶店には行きましたよ。コーヒーを飲みました」

 武生について部屋に入って来た紅葉がゆったりとした笑顔で言う。

「あの店? 」

 座ったまま、四朗が紅葉に笑顔を向ける。紅葉が微笑んで頷くのを見て、菊子が拗ねた様な顔をして黙って四朗の横に座った。

 紅葉は兄と恋愛中で、自分のライバルにはなりはしないとわかってはいるが、自分以外に四朗の笑顔が向けられるのは嫌だ。

 イタイ。

 彼氏じゃないのに、そんな独占欲。いや、彼女でも、ちょっと嫉妬深すぎる。

 分かってはいるのだが‥。

 不安で堪らなくなる。

 私は醜い。

「いいところでした。大学生の方が沢山いらっしゃってましたよ」

 そんな菊子の行動を気にすることもなく、紅葉は機嫌のいい声で言った。武生がちょっと微笑んだ(気がした)

「この辺りは、地方から来た大学生が沢山下宿してるからね」

 ふふ、と四朗が紅葉に笑いかける。

 ここには、そんなに若い子はいないからねえ。と、四朗が付け加える。

「私の実家の方もそうです」

 と、紅葉。

 ああ、と紘子が納得したように頷く。

「でも、あちらに下宿されている方だったら、もっとおしゃれなんじゃないかしら? あの辺りだったら、私立の有名大学の学生さんでしょ? 」

「こっちは、地方の国立だからね。毛色は違うよね。悲しいかな、一流って程でもないし」

 紘子の言葉に四朗が同意して言葉を続ける。

「変な人が全国から集まる程の人気はありますわよ」

 菊子がちょっとお道化た様な口調で『反論』する。

「そうだよな」

 四朗の隣。つまり菊子とは反対隣りに座りながら博史が同意する。

「なに。中学生二人。席は他も空いてると思うけど」

 四朗が苦笑いで博史を見る。

 博史が「空いてる? 」と菊子に聞き、菊子が笑顔で首を傾げる。「あちらは、お邪魔しちゃ悪い気がしますし」あちらに立つ兄の武生にちらっと視線を寄こす。

「さあさ、もう一杯お茶を飲みましょ? お饅頭もあることだし」

 席を立ちながら紘子がにっこりと笑う。しかしすぐ、「しまった」と肩をすくめる。

「‥ごめんなさい。お夕飯用意してないわ」

 紅葉が慌てたように首を振る。

「あ、いいですよ」

 そして、「お茶を入れるの手伝いますね」と紘子の横に立つ。

「そういうわけにはいかないわ! 武生なんかを選んでくれたお嬢さんなのよ! 」

 紘子は力いっぱい、紅葉の辞退を拒否する。

「そうよ。母さま。兄さまを選んでくださる方なんてこの先、もう一生現れないかも、ですわよ」

 菊子も力いっぱい肯定する。

「そんな‥」

 紅葉が苦笑いで否定する。

 何ていったらいいのかわからない。

「武生。大変だな」

 四朗も苦笑いで幼馴染に同情的な視線を送った。

「武生さん。ご家族に心配されてますね。ご家族ってありがたいですね」

 にやり、とこちらは面白そうにしている博史。武生が相生兄弟を静かに睨んだ。

 そんな子供たちを見ながら、紘子は機嫌よさげに笑顔を浮かべた。

「食べに行きましょう。中華‥は。紅葉さんの雰囲気じゃないわね‥」

 思いついた考えに、ぱっと表情を明るくする。

「鍋はどう? 」

 ぼそり、と四朗が提案した。

 食べに行くなんて言ったら、また紅葉は気を遣うだろう。まあ、相馬父・兄と鍋を囲むのも大概だが。

 ちょっとハードル高い。

 言って、「やっぱり、ないな」と言い直そうとした四朗の言葉を紘子の楽しそうな声が遮った。

「それよ! 今からすぐ買い物に行ってくるわ! 」

 言うが早いが、自動車のカギを持って出掛けてしまった。

 相変わらず、行動が早い。

 ‥ごめん‥紅葉ちゃん。

 ちらり、と紅葉に視線を向けると、紅葉は「お家に電話しておきますね」と楽しそうに武生と話している。

 気にしてるの、俺だけかな? ‥いや、博史も「あ~あ」って顔してる。

 ‥いや。気にしないでおこう。鉄の心臓、鉄の心臓。

「あ、そうそう。豚の鍋になると思うけど、豚は嫌いじゃなかった? こっちの方は、豚が主流だよ。関西は牛が多いよね。すき焼きとか、しゃぶしゃぶとか」

 関西というか、柊のお父さんが牛が好きで、焼きそばも牛肉だった。

 四朗はそんなことをふと思い出し、ちょっと可笑しくなった。

 懐かしいなあ。お二人と、千佳ちゃんは元気かなあ。

 まるで、ホームステイ先の第二の家族だ。

「嫌いなものはないです。でも、こっちの方が豚が主流っていうのは初めて知りました」

「うん。スーパーマーケットでも、豚肉のコーナーががん、とあって、羊があって、馬がある」

「羊? 馬? 私の実家の方ではそれは‥ない気がします。よくわからないですが。‥そんなにスーパーマーケットにはいったことがないです」

 恥ずかしそうな紅葉に、他の者たちが「そんな、当たり前だよ」と掛けた声がハモった。

 言っても紅葉はまだ高校生だし、いつも忙しい。

「スーパーで買い物をする若奥様な紅葉ちゃん! いいわあ。それで、私も「姉さま今日は私たちと一緒に鍋にしませんか」って‥ いいわあ」

 菊子が目をキラキラさせながら、妄想モードに入る。

「私たちって誰だよ」

 博史が悪い顔をして、からかう。

「菊子ちゃんの家族だろ」

 対する四朗はしれっとしたもんだ。

「四朗様と私ですわ」

 ふふ、と笑い菊子も負けない。

「もれなく俺もついてきます」

 悪い顔をしたままの博史がまた口をはさむ。

「何で博史が‥」

 菊子は、そういえば博史のことを呼び捨てするなあ、と四朗はふ、と思った。

 幼馴染だしな。

 なんか、こういうの自然でいい。健全な感じがする。

 恋愛未満友達以上。‥いや、恋愛はこの二人にとってないか。

 悪友って感じか。親友未満友達以上かな?

 俺と武生の関係に似てるんだろうな。

「さて、お母さまが帰る前に、お鍋の用意をしておきましょう。具以外のものを揃えとけばすぐに食べられますものね。四朗様と博史も一緒にいかがですか」

 腕まくりをして、菊子が台所に向かう。その後を紅葉がついて行く。

「いや、家で清さんが用意してくれてるから」

 席を立ちながら、四朗と博史が辞退した。「そうですかあ‥」と菊子は残念そうだ。

「清さん」

 と、懐かしそうにつぶやいた紅葉の声が台所から聞こえた。

 四朗と博史がちょっと顔を見合わせてふふ、と笑う。

 そして

「紅葉ちゃん。今度は家にも寄って行って? 母さん喜ぶから」

 と言ったのは四朗で、

「がっかりもするけどね。お嫁さんに来てくれると思ってたお嬢さんがお隣の武生さんのところに取られてしまった‥」

 と言ったのは、博史だ。

「言いそうだね」

 苦笑いして四朗がちいさくため息をつく。

「ええ? 」

 お嫁さんって‥と菊子がちょっとむくれた顔をする。

「まあ、それはあれとして。今度来るときはちょっと遠出して武生とお城を見て来るといいよ。紅葉ちゃんが興味あれば、だけど」

 もうすっかり帰り支度をして、四朗が台所に顔を出す。

「行きたいです! 電車に乗るんですか? 今日見た電車に乗るんですね」

 借りたエプロンをして、コップを手にした紅葉が明るい声をだす。そんな姿に一緒についてきた武生の表情が緩む。

 このリア充め。

 四朗と博史は苦笑して、しかし、幼馴染の常にない姿をほえましくも思った。

「電車とバスかな」

 にやり、と笑って博史が四朗にパスを送る。

「デートにバスって、なんか無くない? 」

 ふふ、と四朗がパスを受ける。

「‥そうよ。馬鹿じゃないの。博史。バス特有のにおいとか、無いわ」

「そこは、ほら‥」

 お話ししながら歩きでしょ。と言って、恥ずかしがり屋の幼馴染=武生をからかおうとした博史の言葉を菊子がバッサリと切る。

「あははははは」

 そのちぐはぐな漫才を見て、紅葉は笑い、武生は馬鹿にしたような顔をする。

 この楽しい時が、ずっと続けばいいのに

 って、四朗は思った。

「四朗様? 」

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