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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
十一章 それぞれの「幸せ」
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3.可能性がある未来 四朗と紅葉

 子供って‥月桂か鮮花ってこと? 要らない、要らないしそれにそんな未来、考えたくもない‥!

「兄ちゃん、なにかその未来ありだよ! 」

 博史が身を乗り出してくる。おい、身内が最大の敵になってどうする!

「無しだよ! 」

 つい、叫んでしまう。

「四朗君が、私たちの弟。それって、最高ですね‥」

 って、紅葉ちゃんまで! 

 そんな嬉しそうな顔しないで!

「紅葉さん? 」

 ほら、武生もびっくりしてる。そして、武生よ、博史はともかく、お前は菊子ちゃんの暴走を止めろ!

「でしょ! 小舅が武生さんなら、俺も安心だよ! 」

 博史の暴走は、俺が責任もって止める。

 ゆらっと、殺意を纏い、博史を睨む。

「‥博史‥」

 ひっ、と博史が縮み上がる。蒼白な顔をして口を閉じ頭を振って否定する。

 ‥それでいい。危険察知能力は大切だ。

 隣に座っている紅葉は、流石にその殺気にひるむ様子はなくただ、苦笑いをしている。

 流石だ。

「あらあ! 四朗君と武生は昔から兄弟みたいだったから、違和感はないわね」

 そして、目の前であからさまに不審な様子になっている博史を見ても、特に気にしない紘子も流石だ。

 四朗と菊子の結婚。昔から菊子がそれはもう、聞き飽きたってくらい言ってきたことだ。

 でも、紘子にとって四朗は相生家の長男で、そんな簡単なことではないことは、大前提として常にある。

 菊子には可哀そうだが、だ。

 でも、今のこの楽しい雰囲気がそれを言わせている。それは、何の罪もない雑談だ。

 ‥おばさんは、なんだかんだ言っても常識人だし、がっちがっちの昔ながらの四家の人間だ。本気で言っているわけじゃないことはわかるからそのあたりは安心できる。でも、紅葉ちゃんの正体知ったら大変だろうなあ。

 もしかしたら、武生は婿養子ってことになるかも、だし。

 ‥いや、その確率の方が高いなあ。そういうの、おばさんの中ではありなのかな。

 それが分かった時、おばさんは、息子の交際を反対するんだろうか。

 結婚を前提とした、っていう真面目な息子の交際を。

 幸い、武生は長男ではないんだけど。

 結婚は、家と家の話だ。特に、旧家はね。

「お話は伺いました。武生、紅葉さんと観光でもしてきたら? その間にお夕飯の支度をしておくわね。紅葉さん、是非食べていらして? 」

 さっきまでの興奮を、ふっと収めて、紘子が落ち着いた口調で紅葉に言った。その声は、「四朗にはまだ話がある」と告げていた。

「え! そんな‥」

 紅葉が豪快に赤面する。常の紅葉ならあり得ないことだが、四朗に紘子が送った目配せに気付いていないのは、浮かれている所以だろう。

「兄さま、いってらしたら? 今日は朝から珍しく浮かれてらしたじゃない」

 菊子が、武生の腕を引っ張って立たせる。

 武生は、何も言わなかったが、抵抗することもなくその腕で立たされ、紅葉を黙って見つめた。

「‥じゃ、じゃあ‥」

 赤面したままの紅葉が、武生に従って部屋を後にした。

「四朗君‥」

 紘子は、つい、と立ち上がると四朗の前に座り直し、さっきまでと打って変わった改まった口調で、四朗の名を呼んだ。

「え? はい」

 つられて、四朗も姿勢を正す。

「四朗君の従兄妹ってさっき言ったと思ったんだけど‥。相生の方じゃないから、母方なのかしら? 。だけど、相模の方でもない(※今の母親で、博史の母親は父親の再婚相手で、相模の血縁である)。つまり、紅葉さんは、西遠寺の方ですね? 」

「‥はい。苗字は違いますが、桜の母さんの姉妹の子供です」

 四朗が頷く。

「西遠寺? 」

 四朗の横に座っていた菊子が首を傾げる。

「菊子は席を外してちょうだい」

 紘子は、口の端に笑みを張り付けた様な無表情だった。穏やかな声で言ってはいるが、その口調は有無を言わせぬ強さがあった。

「菊子ちゃん、行こ」

 先に席を立ったのは、博史だった。向かい合って座る菊子に、目線を合わせるでもなく促すと、先に立って部屋を出て行った。

「え? ‥はい」

 菊子も、不承不承といった感じでそれに従う。

 菊子が襖を閉めた軽い音がした後は、家の中に今までが嘘だったような静寂が広がった。

 コチコチと時計の針が規則的に時を刻む音だけが聞こえてきた。

 誰もいない。ただ、四朗と紘子だけだ。

 それが気配で分かった。

「それで、四朗君」

 そうなって、はじめて紘子が口を開く。

 それほどの話なのだと、四朗は気を引き締めた。

 でも、先に言いたいことは伝えておきたい。聞いておきたい‥。

「おばさまは、武生の結婚を反対しますか? 紅葉ちゃんの今後によっては‥」

 紘子の言葉を遮って四朗が言った。

 一瞬、武生の母親の表情が固まる。そして、

「あら。まだ何も伺ってない前に、結論を出せるわけがないわ。それに、そんな決断を出すのは、私じゃないわ。あの子の父親と、あの子自身だわ」

 コロコロと笑うと、「結婚を反対」という部分についての答えを出した。

「‥そうですか」

 四朗が、「俺が口を出すことでもないんですけれどもね‥」と、小さく呟き、そのことに対する無礼を詫びる。

 紘子が穏やかに頷き、そして本題に入るために、大きく一つ息をすった。「それで‥」と息を整え

「紅葉さんの今後って? 」

 つっと、膝を少し四朗の方に進めた。

 西遠寺、結婚を反対する可能性がある紅葉の今後。

 どれをとっても、軽い話ではないことが分かる。四朗は、一つ大きく頷いてから口を開いた。

「紅葉ちゃんは、西遠寺の後継者候補です。今のところ最有力候補の」

「‥‥」

 紘子は何も言わなかった。ただ、少し表情を変えただけだった。驚いて固まっているという様子でもない。それはどちらかというと、やっと得心がいったような表情だった。

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