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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
十章 赤い水
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8.四朗の変化・武生の暴走

「あの時のこと、覚えてるけど、椿さんのこと、自分の一部とは思えるけど、不思議と自分そのものだとは思えないんだ」

 あの時のことを、少したってから四朗が紅葉に話した。あの時は、ちょっとあってから、そのまま別れたから、四朗がこのことを紅葉に話したのは後日電話で、だった。

 あの時、とは四朗が椿に戻った(なった?)時のことだと、紅葉にもすぐに通じた。

「あの姿が、本当の自分だってわかっているのに、頭では‥ね」

 でも、と四朗の言葉が途切れる。

「‥何となく、その気持ちわかります。私も四朗君として長い間暮らしてきて、その間はずっと自分の四朗君だと思ってたけど、でも今は‥他人だとは思えないけど、自分本人だとは思えないもの。それと同じだよね? 」

 かって、自分は四朗として暮らして来た。その時、自分は自分が四朗だということを疑いもしなかった。そして、まわりもそうだった。だって、疑いようがない。お互いにとってそれは、当然だった。

 だけど、今は、自分が四朗でないことはわかる。(当たり前のことだ)

「‥。多分そう、かな」

 納得したわけではないのだろう。歯切れの悪い四朗の言葉に、

 ‥でも、確かにちょっと、違うかな。

 言った本人の紅葉も少し考え込んでしまう。

「自分が何者かわかって、それはいいことだと思う。わからなかった時よりずっと。だけど、あれが自分で、今の自分は違うかと言われるとそうではない。今は、二人分の記憶を持っているみたいで、だから‥それについては満足しているんだ。思い出せないっていうのは、やっぱり凄いストレスだったから。

‥どれか一つではなく二つとも。そして、でもどちらも自分かというと‥、自分でどちらかを選べると言われると、俺は四朗を選ぶ」

 電話の向こうからぽつり、ぽつりと聞こえてくる独り言のような四朗の言葉。言葉を選ぶように、慎重に発せられる言葉は、最後には決意を持った強い声になっていた。

「‥そうだね。四朗君は四朗君だ。それでいいと思う」

 ふふ、と紅葉が笑う。慈しむ様に、包み込むように‥その声はどこまでも優しかった。四朗も、ちょっと照れたように笑った。

「ありがとう」

 俯いて、ぼそり、と聞こえるか聞こえないかってくらいの小声でつぶやく。

「四朗君、変わったね」

 また紅葉が、ふふと笑った。四朗は、ちょっと「そんなこと言われるのは心外」って顔をする。

「皆変わるでしょう。変わるといえば、武生が一番変わったと思う。あんなこと、いう奴だと思わなかったから」

「武生さん」

 紅葉の顔があからさまに、ぼぼっと赤くなる。動揺が電話口からも伝わって来た。

 そんな紅葉を思って、四朗は苦笑いをする。

「驚いた。相崎にあんなこと言うとは思わなかった」

 今でもちょっと信じられない。

 あんなこと、とは。

 あの後、例のごとく紅葉ちゃんにちょっかい出そうとした相崎(あいつは、何故だか紅葉ちゃんが来てることを敏感に察知して現れるんだ。女好きには、そういうセンサーでもついているんだろうか。ある意味尊敬する)に武生が言った言葉のことだ。

「その人は俺の運命の人だから、遊びでちょっかいをださないでくれ。なんて」

 あれを実際に目の前で聞いた時には、固まった。「空耳か? 」って思った。

 しみじみという四朗に、紅葉はもっと真っ赤になって、もう何も話せない。

 で、その後、(やっぱり)驚いた相崎が一瞬固まってから、苦笑いして

「‥痛い。だけど、武生が珍しいこと言うからあきらめてあげるよ」

 って言ったんだ。

 ‥何様だ‥。

 固まったまま、四朗は心の中で相崎に突っ込みを入れたことをセットで思い出す。

「まさか武生がねえ‥」

 もう一度、四朗がしみじみと言った。

「そ‥そうですね」

 紅葉が、真っ赤な顔のままで相槌を打った。電話でよかった。こんな顔、誰にも見せたくない。

 熱くなる位、もう耳まで真っ赤。でもその顔は、凄く嬉しそうだった。

「でも、ま、武生ってあんなだから。もう真っ直ぐでさ、紅葉ちゃんの気持ちも聞かずによくあんなこと言い切ったよね。ありゃ、紅葉ちゃんが心変わりとか出来ないね」

 四朗がちょっとからかうような声で言う。

「大丈夫です! 」

 慌てて紅葉がちょっと叫ぶ。

「私にとっても、‥あの‥う、運命の人なんで‥」

 と、その声に力がこもる。

 それには、つい、四朗まで赤面してしまう。

 ‥恥ずかしい、俺、これ聞いてるの嫌だわ~。話題を出したの自分だけど‥。

 の心境だ。

「こっちには、またくるんでしょ? 今度はいつ? 」

 で、つい話を変えてしまう。

 紅葉も、ほっとしたとばかりにその言葉に頷く。しかし

「週末にまた。その時に、武生さんのお母さまと会うことになってます」

 結局話はちょっと元に戻ってしまうのだが。

 それにしても、この二人は一体どこまで話が進んでいるんだろうか。 

 ‥二人とも真面目だから、思い立ったら真っ直ぐだな。今時の人間だとは思えない。

 恋愛も出来ないヘタレな四朗が、人様の恋愛についてとやかく思う不思議。‥なのに‥。

「あの人は、‥お母さまって感じじゃない。母ちゃんって感じ。どっちかというと」

 心は、二人の保護者です。

「そうなんですか? お会いするの楽しみです」

 紅葉がいい笑顔で答える。

「泊ってけ、って言われるよ、きっと。武生の妹にも捕まるだろうし」

 あ~あ、もう目に見えてるよ。

 と、四朗が大げさにため息をつく。

「妹さんおられるんですか? 」

 紅葉が「へえ」と目をちょっと見開く。

 確かに、妹がいる雰囲気じゃない、かな?

 俺が弟しかいなかったから、そんなイメージがあるのかもしれない。

「うん。兄と妹の三人兄弟だよ」

「楽しそうですね」

 紅葉がちょっと頬を染めて、幸せそうに微笑む。

 電話越しにも、紅葉のそんな顔がそれこそ見ているようにわかるのは、見えないつながりがあるからか? 。電話をしているのに、まるで目の前にいるみたいな気すらする。

 紅葉のその顔を思って、そんな顔させてるのが自分のことじゃないのに、なんだか嬉しくなる。

「兄は、一つ違いなんだ。相馬先輩。青竹みたいにかっこいい人だよ」

「へえ‥。妹さんは? 」

 紅葉の目がキラキラしている。声がうきうきしている。ホントに武生のこと知りたいんだってわかる。

 でも、こんな紅葉ちゃんの姿見たら、武生は嫉妬しちゃうかな? なんて考えるとちょっと気分がいい。

 それで

「‥実際に見たらわかるよ」

 にやり、とちょっと意地の悪い笑いを浮かべて見ると、紅葉がちょっと拗ねた様な顔をする。

「‥そう、ですよね‥」

「お前は何、俺の家族紹介してるんだ? 」

 そんな四朗の背中から、呆れた様な幼馴染の聞きなれた声が聞こえた。

「武生さん! 」

 電話の向こうから、紅葉の声。言って、絶句したのか、次の言葉が出ない。

 その結果の、盛大な赤面、だ。(そんなの、見なくても分かるよ)

「青春だねえ」

 苦笑いで、四朗は肩をすくめてスマホを武生に渡すのだった。

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