3.敵を知ろう。己を知ろう。
「ねえ、華鳥。君は俺の事‥臣霊の事を知ってる? 」
‥え?
「ごめん。しつこいって思ってるよね。実は聞いてる自分自身が、もう、聞くことに嫌気やさしてきてる。
だから、もう別にいいんだ。もう。みんなが言いたくないことを、聞いてどうするんだろうなって‥。月桂なんて知らないみたいだし」
‥はい。私も知りません。
「そっか。いやね、俺は、‥臣霊の俺なら、今の状況を何とかできるかなって」
‥今の状況? 。
「ん。今も俺、つけられているよね。‥あの人たち、紅葉ちゃんといたときに喧嘩売って来た奴らだ」
といった顔は、ちょっと機嫌が悪そうだ。
「母さんも狙われることはわかってた。一体、何を隠しているんだか、話してくれないと、困るよ」
‥前に襲ってきた奴らと一緒‥
華鳥の気配に、殺気が強くプラスされて思わずぞくっとする。
見たことはないけど、華鳥もそこそこ「デキる」のかな。母さん臣霊にいろいろ教え込んだって言ってたし。
そして、俺にも。
母さんは、俺にも‥臣霊である俺にも教えたのだと言っていた。
もともと、母さんの臣霊は性能がいい。身体能力が元から高い。それに母さんの知識やら術が教え込まれているのだ。自分にその記憶が無いことを四朗がもどかしく思ってもそうおかしいことではないだろう。
「きっと、臣霊の俺は俺より性能がいい。紅葉ちゃんの喧嘩を見てて思った。あれが、西遠寺の力だね。
まるで、水のようだった。相手の動きと合わせて、力をながし、その力を利用して、ここぞというときに相手に押し返す。
練習してどうこうなるもんじゃない。あれはセンスだ。もちろん、センスだけではどうにもならないけどね」
独り言のように話す四朗様。その表情は、どこか愉しそうに見えた。
「奴らは、‥西遠寺の人間なんだね。父さんたちに言われてようやく納得したよ。成程、俺を狙のが西遠寺の人間っていうなら納得できるね。
だって、俺はサラブレットだから。そして、もう一人目をつけていたのが紅葉ちゃんだった。そして、俺たち二人が揃ったとき、奴らは仕掛けてきた。
結果は、あの時の通りさ。奴らの目的は、紅葉ちゃんに変わった。だけど、俺の需要はある。ブランドだ。現当主の血筋というブランド。それも、世間に公にはされていない、しかし、事実は知られているという、ね。
実力としての紅葉ちゃん。お飾りとしての俺。最低だよ」
‥
華鳥は何も言えなかった。
確かに今のままならそうだろう。
「だからあの人数。大半を紅葉ちゃんにあてて、俺にはあの人数。なめられたものだよ」
ちらり、と後ろに目をやる。
「分からせてやる。本当の西遠寺 桜の血筋の力というのを」
「俺の周りに手を出されても困るしね」
目の奥に、ちらり、と火が見えた。
‥他力本願はおやめください。
華鳥はわざと冷たく言い放った。
「ん? 」
‥ご自分でお強くなられなさい。桜様の力よりずっと。桜様を超えてみせられたらどうですか。
「‥そうだね、本当にそうだ。他力本願。全くその通りだね」
四朗は、一瞬はっとした顔をして、そしてふわっと笑った。
‥そうですね。ではまず、敵の事を知らないといけませんね。
‥あの者たちは、多分、裏西遠寺の人たちかと‥
「裏西遠寺? 」
‥西遠寺の能力部門です。
「‥能力部門? 西遠寺は、そういえば陰陽師だっていってたね。‥母さんも陰陽師なの? 」
華鳥が首を振ったのが気配で分かった。
‥いいえ。桜様は違います。お力はおありですが、西遠寺の人間が桜様に望まれているのは、それではない。
‥能力者を管理すること。それが西遠寺の跡継ぎに望まれる能力です。
「じゃあ、どんな能力? 能力部門といわれる、能力って。陰陽師の仕事ってことなんだね? 」
‥陰陽師といいましても、そもそもは占いなんかを含めた相談役ですね。そして、それらは桜様を筆頭とした西遠寺の仕事。でも、そうではなくまれに、生霊やら死霊に悩まされて来られる方もおられます。そんなときに対応するのが、裏西遠寺の人たちです。
「占い。母さんが占いをするの」
なんか、意外だ。手相とか、かな? タロットじゃないだろうし‥。
「しかも、今頃」
‥お偉いさんは、そういうところ古風な人が多いですしね。
「それに、生霊や死霊って。そんな非現実的な‥。いや、俺が十分非現実的だったな」
‥まあ、そうですかね‥
言いにくそうに、言葉を詰まらせる華鳥に、四朗は苦笑する。まあ、これ以上は、華鳥が気の毒だから話を変えようと思う。
「それで、その能力部門が「裏西遠寺」って呼ばれてるの? 」
‥裏西遠寺は、西遠寺以外の能力者です。
「以外? 」
‥西遠寺はとても封建的で半面とても開けているんです。多様化するニーズや呪いに対応するためには、既存の能力者だけでは対応できませんからね。だから、外から能力者をスカウトしてくる。そうして集められた外からの能力者が「裏西遠寺」です。
「多様化」
なんか、コンピュータウイルスとワクチンの戦いみたい。
「でも、色々な人間がいるということは、色々な考えを持つ人間がいるってことか。その中には、本家である西遠寺を出し抜くために動くものが出てきてもおかしくない、と。まあ、西遠寺の人間が裏西遠寺を抱き込んでお家転覆をはかるっていうことも考えられなくもないけど」
敵は内外共に多いってことか。
「つまり俺は、今とても微妙な立場にあるわけだね。‥西遠寺が後継者の一人として認識しているけれど、それを公にしていない」
‥そうです。その「敵」は、四朗様を手に入れて西遠寺に交渉をして来ようとしているのか、あるいは、四朗様を自分の側に立たせた後に、西遠寺の候補者としてたてて、四朗様を先頭にした新しい流派でもつくるつもりかもしれない。
「だから、自分の身ぐらい、自分で守れるほど強くなれ、か。母さんはこのことを知っていたんだね」
四朗は軽くため息をついた。
そして、さっきの華鳥が言ったターゲットは、紅葉ちゃんにも当てはまる‥。




