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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
十章 赤い水
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2.四朗君朝帰り疑惑

 あんな濃いい夜が明け、悲しいかな今日は平日だった。眠ったのに疲れがとれた気がしない。枕元にたたんであるカッターシャツは、昨日曾祖母が洗って乾燥機にかけてくれたので、昨日と同じカッターではあったが清潔だ。キチンとアイロンもかけてある。制服は鴨居にハンガーでつってあった。

 この制服を着て、登校しても誰も普段と違うとは思わないだろう。

 ただ、それは見た目だけの問題だ。

 四朗は、アラーム代わりにしていた携帯電話の音を止めながら、暫くぼーと布団の上で動けなかった。

 眠い。

 元来夜更かしの習慣はない。

 寝る前に日課となっている素振りをしていないのも、少々気持ち悪い。寝る前にメロンを食べすぎたのもいけなかった。

 ダメだ。気持ちを入れ替えよう。

 顔をパンパンと叩いて気合を入れて起き上がる。

 昨夜は祖父も酒が過ぎたのか、隣の布団でまだ眠っている。

 静かな寝顔が聞こえるが、全く表情がなく、薄暗い部屋の中真っ白な肌が浮かび上がり、もうまさに人形のようで気味悪かった。

「起きよ‥」

 祖父を起こさない様に、静かに布団をたたむ。服を着替えると、借りていた曾祖父のものらしい浴衣もたたむ。

「おはよう。四朗。起きたのね。今起こしに行こうと思っていたところよ」

 襖をしめたところで、曾祖母が出迎えてくれた。

「おはようございます。すみません。布団と浴衣‥」

「洗濯しとくわね。布団も。今日はいいお天気になりそうでよかったわ」

 居間には、広縁を通っていく。掃き出し窓から入ってくる朝の光が眩しい。

 広縁の向こうが物干しスペースになっているようだ。日当たりも良いこの場所なら、洗濯物もよく乾くだろう。

「ありがとうございます。それに、制服もありがとうございます」

「いえいえ。大きいから、おばあちゃんびっくりしちゃたわ。本当に四朗は背が伸びたのね」

 ふふっと曾祖父が笑う。それにつられて四朗も笑顔を向けた。

「眠くない? 昨日は随分と遅かったけれども」

 食卓の上には、味噌汁と焼き鮭、白米。いつもの相生家と変わらない和食の朝食。

 ご飯をよそいながら曾祖母が四朗の顔を見た。

「眠いです。ひいじいちゃんは? 」

「まだ寝てるわ」

 曾祖母はまた、ふふっと笑う。

「昨日は、久しぶりに会えて嬉しかったわ。‥おじいさんも、あんなに楽しそうにしているの久しぶり」

 かたり、と箸置きに箸をおいて、四朗が曾祖母に頭を下げる。

「いえ、ほんとうにお世話になりました」

「今度は、四朗のお箸も買っておかないとね」

 曾祖母は、四朗の割りばしを見ながら微笑んだ。



「またいらっしゃいね」

 門まで曾祖母が送ってくれたとき、起きたばかりらしい、まだ寝ぼけ眼の曾祖父が横に立って無言で手を振ってくれた。

 ‥本当に、ここに来てよかった。



 さて、電車に乗り駅の方向から登校してきた四朗を見て、学校はちょっとした騒ぎになった。

 ええ! 四朗様のお家ってあっちじゃなかったですよね?!

 思っても、誰もそんなこと聞けない。

 場合によっては聞きたくない事だったらどうしようって奴だ。

 そんな空気を破ったのは、この頃よく話に上る

 彼だった。

「おはよ~。四朗君。今日は駅から来たんだね。そういえば、あの後、ひいじいちゃん家いったの? 」

 田中! また田中!

「行った」

 四朗がにっこりと微笑んで答える。今日はやけに機嫌がよさそうだ。

 ええ? ひいじいちゃんの家??

 驚いたものの、明らかに安心した四朗様のファン。耳をダンボにして田中と四朗の話に聞き入る。

「お元気そうだった? 」

 とは、テンプレートな質問。知り合いではないが、礼儀として聞いておくべきもの、かなあ?

 四朗は笑顔で頷く。

「うん」

 そして「そういえばさ」と話を続けた。

「子供の頃はもっと遠いと思ってたんだ、ひいじいちゃんの家。でも、実は昨日気付いたんだけど、従兄弟もあの辺りに住んでて、そこには車で連れて行ってもらったりしてたんだ。でも、ついでにひいじいちゃんの家にはいくことはあんまりなくって、何となく別のものって意識してた」

「ああ、そういうのあるかもねえ」

 あるかな?

 田中が首を傾げながら言った。

 四朗は一人納得したように頷く。

「だけど昨日行ってみて、そうか、こんなに近かったかって思った」

「子供の時と今と感じ方が違って、へえって思うことあるよね」

「従兄弟いるんだ」

 急に話に入って来たのは佐藤だった。

「そうそう。俺より二つ年下の双子」

 ちょっと驚きはしたが、この前もあったことで、四朗は若干慣れたようだった。田中は、ほっと安心した。

「似てるの? 」

 へえ! っと驚きの声を上げて、佐藤が言葉を続けた。

「お姉ちゃんの方が、ね。俺に似ているっていうか、叔父さんに似てる。叔父さんは父さんの弟なんだ」

 うわあ。見てみたい。

 ‥って、四朗君に似ている女の子って、あの子かな? 校門前で四朗君を殴って(!)拉致した、「元気のいい」従兄弟‥。

 それだ! ‥年下だったんだ?

 さっきから、じっと動かず聞き耳を立てている女子の皆さんだった。勝手に納得した皆であったが、勿論違う。

 因みに、紅葉ちゃんと「ちえちゃんの娘」は、そっくりではない。お互いそれぞれ、四朗に似ているが、お互いは似ていない。まさに遺伝マジックである。

「女の子が相生君似で、で、弟は? 母親似ってこと? 」

「弟の方はおばさんにそっくりだよ。おばさんって言っても、可愛いの。女の子って感じでさ」

 ふふっと四朗が笑う。それをみて、佐藤が「お? 」という顔をする。

「ん? 四朗君そういうの好きなの」

「別に。っていって、どういうのがタイプっていうのは‥ないんだけど」

 明らかに言いよどむ四朗に、田中はひやひやして佐藤を見た。

 ‥四朗君がちょっと居心地が悪そうだ。こういう話は苦手なのかな? まあ、僕もそんなに得意な方でもないしなあ。「いや、もうやめておいてあげてよ」と言わんばかりの視線を佐藤に向ける。

 しかし、その視線に佐藤、気付かず。

「ないんだ」

「うん」

「じゃあさ‥」

「ええと、俺は一生懸命な子だな」

 田中は、佐藤の更なる追求から四朗を守るために、話を自分に持って行った。四朗が田中を見る。

「あ、それはいいね。あと、イザというときには、落ち着いて行動出来る子とか」

 イザ、て何。そんなによくあることかな。そもそも、イザってどんなことだ? 災害時か? 災害時でも落ち着いて行動。意外と、相手に無茶な要望するな‥。

 佐藤は閉口する。

 しかし、田中は

「う~ん、成程ねえ。でも、僕はちょっとおっちょこちょいくらいでもいいかなあ。なんかかわいい」

 ふふっと笑った。しっかりした姉さんタイプより、ちょっと、ドジっ子。べたである。

 四朗が首を傾げる。

 おっちょこちょいは‥ちょっと、心配でしょ。敵に襲われたとき、一発で人質でしょう。自分で自分の身を確保して、安全な場所に逃げる位じゃないと‥。

「それは‥ちょっと、わかんない」

 首を捻りながら四朗が言った。

 三人三様、自分の設定があって話しているから、話は勿論ちぐはぐだ。

 苦笑いして田中は、

「まあ、しっかりしてる人ってことだよね。肝っ玉母ちゃんだね。つまり」

 と、この話を〆にかかり

「髪の毛は? 長いの短いの? 」

 という佐藤の質問は、視線で強制終了させた。

 この話は、もう、ええっちゅうの!

 まあ、ちょうどそんな感じだ。

 関西人の血なんてまるではいっていない田中の考える「ザ・突っ込み」のテンプレートである。



 聞きたかったような、全然聞きたくないような! いや、四朗様明らかに居心地悪そうだし、無理強いは良くないわ。でも、佐藤が自爆する位‥

 もんもんとする女子の皆さんだった。

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