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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
十章 赤い水
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1.相生の年寄り衆、ある憶測

「桜さんの言っている特別な護身術を習う必要のある「普通ではない」ことは、多分西遠寺の後継者問題だろうな」

 あのあと、メロンを食べていたのは、四朗と曾祖母だけで、祖父と曾祖父は向き合って熱燗を呑んでいた。 

 二人とも赤くなるでもなく、すいすいと杯を重ねている。

 この二人は、所謂酒豪だ。最初こそ互いに注ぎあって呑み始めはしたが、今はもう互いに手酌酒だ。

普段は曾祖母の管理のもと一日一合と決められている酒も、こんな折には解禁になる。だから、曾祖父は時々「呑み仲間」を誘って家で酒宴をする。外に呑みに行くことはない。気心の知れた相手と、家でまったり、が曾祖父のお気に入りだ。

 それは曾祖父が若い頃からさして変わらないらしい。

 久し振りの再会を祝した、と銘打ってはじまった酒宴であったが、しかしながら、少しも穏やかなものではなかった。 

 なにも喧嘩をしているわけではない。お互いに難しい顔をして難しい話をしているのである。

「まあ、そうでしょうね。そして、多分それは桜さんの実の息子である四朗を担ぎ上げて西遠寺を乗っ取ろうとしている別の勢力だ」

 勿論(年齢的に)その酒宴に混じれるわけもない四朗は、メロンを食べ終え、今はミカンを食べながら二人の話を聞いていた。

 ‥おじい様たち、やけに西遠寺に詳しいな。実の息子の俺より確実に詳しいんじゃないか?

 自分は、本当に西遠寺の事を知らない。

 知ろうと思わなかったわけではない。ただ、桜に聞いてもまともに答えてくれなかったのだ。

 ‥色々話して、ふと四朗が臣霊時代の記憶思い出したら()だから‥

 ヤだから‥、って子供か!

 思い出して、四朗はちょっとムカッとした。

「間違いないだろうな。さっき、四朗は「西遠寺の跡継ぎ候補」って言っていた。四朗との入れ替えなんていう大掛かりなことをする程だ‥その人を余程信用しているんだろう。ほぼ、その人が後継者になるのは間違いがないな。そして、その「別の勢力」は、それでは不都合というわけだな」

 鏡の秘儀についてはあの後説明した。三人とも、微妙な表情になっていたが、それも自然の事だろう。

 跡継ぎ候補‥。

 ‥成程。確かに現当主の息子である俺はこれ以上にない「サラブレッド」だ。‥実力はあれとして。

 ああそうか、あれ、だから奇襲が一回きりであれ以上俺に接触してこないわけか‥それはそれでショック。‥まあ、いいんだけど。

 「命を狙われている」という桜の妄言は、あながち全くの嘘ではなく、敵は本当にいる。 

 その勢力は、旗頭になるであろう俺が、‥血筋は確かだけど、能力は「あれ」だと認識された今、どう動くだろうか?

 背中に嫌な汗をかいたのが分かった。

 無理にでも、拉致する? 寧ろ邪魔者と、排除する? 

 味方にする価値は今一つ。だけど、敵にすると厄介‥。

「西遠寺ってどういう一族なのですか? 」

 話の邪魔をしないタイミングを見計らって四朗は聞いた。

「政府高官専門の影の陰陽師だよ」

 曾祖父が、何でもないという顔でさらりと「とんでもないこと」を言った。

「陰陽師‥」

 四朗は唖然とした。

 陰陽師、なに。今の時代でもそんなのあるの? あるというか、職業になるの? しかも、政府高官専用って‥

 そもそも陰陽師って霊を払ったりするのかな? わからないや。

「‥陰陽師ってなんですか? 」

 分からないままというのも気持ち悪いから、聞いてみたが、

「さあ‥なあ。私たちもイマイチよくは分からん。蛇の道は‥で、何となく聞いたことはあるが、詳しいことはねえ」

 曾祖父も首を傾げるばかりだった。

 相生が、「蛇の道は‥」な一族? ‥確かに普通ではないだろうがそう分類されると、自分たちが気味悪いものに見えて来るな。「特別な」「気味の悪い一族」。意識するっていうのは、いいことではないな。

「でも、まあ、私は初めて桜さんを見たとき驚いたよ」

 曾祖父が、思い出したようにちょっと笑った。

「そうですね」

 肯定したが、祖父の方は笑ってはいない。ただ、淡々と手酌を続けているだけだ。

「驚いた? 」

 四朗が二人を見る。

「顔だよ。いや、桜さんが‥というより、一族の顔合わせ。あれは‥面白かった」

「面白かったって」

 祖父が、面白そうに笑う曾祖父をちらりと睨む。

「どうしたんですか? 」

 四朗には、何が何だかわからない。首をすこし傾げた。

 と、

「相生も含めて、同じような顔ばかりでさ! 」

 曾祖父が、堪えきれない様に大爆笑し始めた。

 まあ、酒が入って機嫌もよくなっていたのだろう。そんな曾祖父を見て、祖父が小さくため息をつく。口には出していないが「全く、この酔っ払いが」というような表情を俯いたままちらり、と見せる。曾祖母も「全く」と呆れた顔をしている。

「‥‥」

 一族。ねえ。

 俺は、そういえば西遠寺の外の家族を見たことがないな。桜の母さんと、女中さんしか見たことがない。居るらしい弟さんは失踪中だし、紅葉ちゃんのお母さんは見たことあるけど‥そんなに、似ていたような気はしないな。どちらかというと、紅葉ちゃんのお父さんの方が(他人なんだけど)紅葉ちゃんに‥似てたな。‥そうか、皆同じ顔なのか。

「それって、つまり、‥相生の血が入っているってことですかね‥」

「そうだろうね! 」

 相生の血は何か余程強いらしく、相生は見まわすとあの手の顔だらけだから。

「護身術を桜の母さんから教わっていて分かったのですが、西遠寺の力は相生の力と少し似ているんです。‥それは、西遠寺が相生に似ているのですかね。それとも、相生が西遠寺に似ているんですかね」

「寧ろ、昔は同じ一族だったと考えられないか? だけど、陰陽師としてまつりごとに関わって来た西遠寺はお上によって保護され、普通に暮らしてきた相生‥もしくは、四家‥は、迫害されてきた」

「大掛かりな仮説ですね‥」

「いい機会だから話しておこうか」

「あの四家は、元々は兄弟だったんだ。あの名前の通り。総一郎の相崎が長男。藤二郎の相模が次男、そして三郎の相馬、四朗の相生」

「それは何となく予想がつきますね。兄弟で助け合って来たんですよね」

 四朗がそう言うと、祖父が「助け合って‥」と呟き、不満げにちょっと首を傾げた。それを、曾祖母が「まあまあ」と苦笑いで宥める。思うところがあるのだろう。

 曾祖父はそんな二人の様子を気にせず話を進める。

「そう。でも、成人して嫁を貰うようになってくると同じ家にいることは無理だった。長男が家を継いで、他の兄弟は家を出た」

「分家ですよね」

 言って、四朗が頷く。

「その時に、苗字も分けられたんだ」

「珍しいですね」

 だけど、確かにそういうこともあったとは聞いたことがある。

「まあ、そのころから、長男と四男の仲は悪かったらしいからな」

 ‥そこまで来ると因縁だな。

 四朗は、相崎の事を思い浮かべ苦笑いした。

 話を変えよう。

「でも、よくビッチリ四家で能力が分かれましたね」

「昔はそうでもなかったらしいよ。相崎の家系で相生っぽい力の子が生まれたり、相模っぽい力が相馬に生まれたり。そうなると、相崎や相馬はその能力の使い方やその子の扱い方が分からない。だから、それぞれの能力を持った家に養子に出したり結婚させたりしていたようだね」

 ああ。それも四家同士の結婚が多い理由か。

 四朗は納得して、大きく頷いた。

 でも、‥頭がパンクしそうだ。

「そういえば、四朗も相馬のお嬢さんから熱烈なアプローチを受けているみたいだな」

 今日一番のいい笑顔を浮かべて曾祖父が四朗の顔を覗き込むように見た。

「あら! 」

 曾祖母も笑顔で四朗を見る。

「たしか、菊子ちゃんだっけ? 」

 と、関心ないような様子で祖父が参戦してくる。

「‥子供の頃の話です」

 居心地の悪くなった四朗は、苦笑いですっと視線を逸らした。

「子供の頃、ねえ。女の子は、そうは思ってないでしょう」

 曾祖父が、くくっと笑う。

 ‥意地が悪い。

「‥‥‥」

 と、逸らした視線の先、祖父のメロンが目の端に入った。

 あ、祖父は大好きな(!)メロンにまだ手を付けていないんだ。

 四朗は無言で、祖父のメロンにスプーンを刺した。

 そのまま掬ってゆっくり咀嚼する。

「ああ! 四朗。お前いつの間にそんな奴になったんだ! 仕返しなんて、子供か! 」

 珍しく祖父が慌てて、声を荒げた。

「俺は、子供ですから」

 落ち着いて言って、そしてまた一口。

「四朗もやるようになったねえ」

 曾祖父がくくっと笑う。

「ホントに」

 曾祖母が穏やかに、そして楽しそうにほほ笑んだ。

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