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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
九章 愛する君に
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3.まさか、本気で信じてたっておもってませんよね?

 ここで、この人にまで見放されたら、行くところがない。

 あの頃四朗には、実は常に危機感があった。

 なんでだか、祖父が時々「あれ? あの時は出来たのに」と首を傾げることがあった。それを見ると、やたら不安になった。

 駄目だ、この人実力主義者だから、「出来なかったら」捨てられる。

 ちょっと、真剣に思っていた。だけど、その「あの時は出来たこと」が何を指しているのかもわからない。

 そんなときに、また俺を取り巻く状況の変化があった。

 新しいお母さんが来たこと。そして、周りが「慣れてくれるかしら」と心配していること。その前に、どうやら、自分を産んだ母親は自分を置いて出て行ったらしいこと(何故かそのことはよく覚えていない)。そして自分が「(自分の本当の母親の事を)よく覚えていない」というと、周りが同情したような顔で「よほどショックだったのね」ということ。

 いろいろあって、ちょっと煩わしいのとめんどくさいので、俺は聞かれないように余り皆に近づかないことにしていた。

 それが、もう少し大きくなると、「さすがにそれは、まずいな愛想よくしよう」と自分なりに処世術を身につけたり。(つまり、それが常に微笑だ。当時の四朗は愛想がいいといえばスマイルだ、と思っていたらしい)

 だけど

 周りの俺を見る目はやっぱり「可哀そうな子」で、そして、みんなよそよそしかった。

 実際には、何でもやたらよくできて顔もいい四朗は、ちょっと「近寄りがたい」雰囲気が当時からあって、同級生が近寄ってこれなかっただけなのだが、そんなこと四朗が知る由もなかった。(未だにわかっていない)


 それに、お母さんって言った‥。俺の産みの親だと。

 俺は、あの頃の俺は、多分母親ってものの存在に憧れていたんだ。新しい母さんに不満があったわけではない。すごくいい人だ。一年後に生まれた弟も可愛い。けど、だけど、ね。なにか、あるじゃない? 『本当の母さん』に対する憧れ。

 だから、言うことを聞いたまでなんだ。

 まさか、‥本気で「命を狙われている」って信じたとか思ってませんよね?



 それは今だに聞きたいことだけど、なんだか聞けずにいる。だって、あの母さんだ。あの人、世間知らずだから、俺の気持ちを語ったところで理解できないかもしれない。

 だけど、今考えてもあれは、騙されたふりするのも大変だった。

「ああ、四朗。貴方は、ここで私が何かと教えるわけだけど、ここで住むわけじゃないの。ここに住んでたら、貴方が私の息子ってバレるでしょ? 」

 と、これは納得だ。

「貴方の身代わりとして、貴方より喧嘩やらなんやらが強い人に貴方の代わりに貴方の家で住んでもらうわ。だから、貴方は、その子の代わりにその子の家で暮らしてね」

 なるほど。

「その子は、柊 紅葉ちゃんっていうの。紅葉と書いて「くれは」ってよむの」

「え! 女の子なんですか?! 」

 俺はつい驚いて叫んじゃったんだけど、それは仕方が無いだろう。

 なんで、女の子。しかもその女の子、俺より喧嘩やらその他いろいろ強いの?!

 いろいろわかんなくなった。

「誰でもいいってわけでもないから、紅葉が適任者なのよ」

「はあ」

 ちょっとくじけそうになった当時の俺の気持ちは、誰にも非難されたくない。

「そんな小さいこと言ってられないの。命を狙われているんだから」

 まだ言うか。

 俺は、女の子の振りして、その子の家で住まなくちゃいけないのか‥。

 がっくりと力が抜けた。

「さ、鏡の秘術をしてあげるから。いいこと、今から貴方は柊 紅葉よ。これからは、ここに来た時もずっとね。ああ、術は一日位で消えるから、サポートは臣霊がしてくれるわ。消える前の術の更新・延長だけだけどね」

「臣霊? 」

「ええ。見えないでしょうけど、いるの。今も横に」

 こわ‥!

「華鳥という女の子の臣霊よ」

 また女の子‥。

 ‥よろしくお願いいたします。四朗様?

「うわ! なんか声がどっかから聞こえた! 」

「それが臣霊よ。紅葉との情報やら外見データの更新もその華鳥と紅葉につけている臣霊がしてくれるから大丈夫よ」

 何が何やら‥。

「‥はい、できたわ」

「え? 何も変わらないよ」

 あの頃は、紅葉ちゃんと俺は本当にそっくりだったんだ。

 だから、秘術をかけられても、鏡に映る俺は今までとちっとも変わらなかった。だから、なんだか安心したんだ。

 ‥なあんだ。そんなもんか。なんか、凄く心配したよ‥。

「じゃあ、頑張ってね」

 あ、と桜は何かを思い出して振り返った。

「女の子なんだから、その言葉遣いはやめなさいね」

「え! 」

「紅葉は、自分のことは「わたし」」

「え! 」

 無理!!!

「紅葉には妹がいるから。千佳ちゃんっていうの。仲良くしてね」

「え! 」

「‥どういう子か、は、会ったことないから知らないのよ。でも、まあ頑張って」

「え‥? 」

 不安いっぱいで千佳ちゃんに会ったんだけど、弟の博史と同じ歳の千佳ちゃんは本当にいい子だった。

 ‥本当に、お姉ちゃん大好きっ子だった。でもそれはちょっと変わった愛情だった。

 紅葉ちゃんが存在するだけでいい、っていう盲目的な‥なにかちょっと偏った愛情。

 くれちゃん、いつもと違う? でも、いいよいいよ。なんか、心境の変化があったんだね。くれちゃんが泣いていないなら、それでいいよ。

 どっちが妹か姉かわからなね。

 でも、千佳ちゃんはそうするのが好きなんだろう。

 だから、俺は千佳ちゃんのするに任せていた。

 ‥千佳ちゃんの本当の気持ちはいまだにわからない。



 ふと、そんなことを思い出した。ひいじいちゃんのこと思い出したからかな。昔のことを思い出した時に、ついでに思い出しちゃったのかな。

 ‥こんな、昔のことよく覚えてたな。

 あんまりいい思い出じゃないんだけど。

 四朗は、ちょっと苦笑した。

 ‥そういえば、この前千佳ちゃんにバレたな。なんだろ。今までバレなかったのに。何かあったのかな。

 なんてことはない。

 今まで、「まさか自分の姉の中身が他人だなんてそんなことあるはずがない」と当たり前のように思っていたのが、姉によく似た謎の誰かが姉の部屋にいたことによって「もしかしたら」という可能性が千佳の中にできたということ、ただそれだけだ。

 ただ、それだけでもバレるものなんだ。

 桜に対して鋭いところを見せた博史は、だけど、自分の兄が七年間も入れ替わっていたことは気付かなかった。それは、多分、入れ替わり時、博史がわずか6歳位だったことと、そして、さっきの千佳ちゃんと一緒だ。「まさか」だ。

 先入観は、判断能力を鈍らせる。俺も気をつけないといけないな。妙にしみじみと思った。

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