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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
九章 愛する君に
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2.愛するが故の代わりの情報

「久しぶりね。四朗。覚えていないでしょう? でもそれは無理がないことだわ。だってあの時、あなたはまだ四歳だったから」

 覚えていないだろう。それはわかっている。だって、忘れさせたのは、他の誰でもなく私本人なのだから。

 だけど、こんなことをつい聞いてしまった。それ程私は動揺していたのだ。



 そう。四歳だった。

 だけど、普通の四歳ではない。実体化した臣霊。それも、(自分で言うのもなんだが)そんじょそこらの臣霊ではない。あの頃は、自分の出来のいい「作品」に震えたもんだった。

 それはともかく。

 ああ、なんて四朗様(四朗のお父さんだ)にそっくり! 

 でもそれだけではない、この子は「臣霊」それも、誰よりも優れた臣霊。きっと、四朗様に喜んでいただけるわ。成人したら間違いなく相生家を助ける立場になれる。

 この子と別れたとき、あの時は、まだ「自分の子供」としてなんて思えなかった。(ひどい話だけどね)

 ただ、臣霊で、「あの子」の産み直しでしかなかった「四朗」の存在。

 私の臣霊だから、仕方がないことだというのに、あの時の私は、私にしか懐かなかった「四朗」が、もどかしくて少し憎らしかった。誇らしいと同時に、だ。

 賢い子だ、と認めてもらいたい。相生の人たちに可愛がってもらいたい。だから、相生の人たちになじんでほしい。

 臣霊である四朗に無茶な願いを抱いた。(しかもあの時は、それがわるいことだとは思わなかった)

 でも、そんな四朗に四朗様が優しく笑いかけるを見るのは嬉しかった。

 私が認められたみたいで嬉しかった。

 あの頃の私は、本当に自分本位だった。

 だから、私はあの子を女の子になんてしたくなかったのよ。

 私は、「四朗」を産んだって。そう思ってもらいたかったの。西遠寺の子供ではなく、ね。

 だから、あの子が「男の子」だって認められるために、西遠寺の目を欺いて、あの子に四朗おじい様の力をコピーさせた。

 できるわ。だって、西遠寺の力は鏡の能力だし、それに元々西遠寺の力と相生の力は似ているから。

 なにより、四朗は私の臣霊だから。能力を覚えこませることくらいなんてことはない。パソコンにプログラムをインストールする位の感覚ね。

 その結果、西遠寺と相生が「四朗」の所有‥親権って言えばいいのかしら、よくわからないわ‥、を巡って争うことだって容易に想像できた。そして、その争いに四朗おじい様が勝つであろうことも。

 そして、四朗は「四朗」になった。

 これでいい。

 そんなことをしているうちに、私は私の目的が「あの子」の産み直しではなく、四朗としてあの子を相生と西遠寺に認識させることに変わっていることに気付いた。

 だけど、それがなんだろう。相生の中で四朗として育つあの子は、もう紛れもなく四朗だ。氏より育ちとはよく言ったものだ。

 だけど、‥離縁されて(西遠寺からの命令で)家に帰されることは、考えていなかったわ。まさか、私しか西遠寺の後継者がいなくなるなんて。‥それもこれも、紫音が勝手に家出なんてしちゃうから。

 紫音が見つかるまで。って言われたけど、あんなに隠れるのが上手い子、絶対見つかりはしないわ‥。あの子に、ホントの姿なんてないようなもんだから。

 ホントはみんな分かってたのよ。無理だって。だから、仮に家に帰るではなく、離婚して家に帰れ、と。

 勝手だということはわかっている。だから、子供はそちら(相生)に譲る。

 本当に勝手な話。私の意志なんてないんだから。

 そして、相生の家を出る私に、もちろん当たり前のように四朗はついてこようとした。

 ダメだ。貴方は「相生 四朗」なのよ。

 だから、私は、あの子の中の「自分が臣霊である」という記憶‥あの子の「本名」の記憶を消した。

 楓

 妹の名前であり、あの子の臣霊としての名前を。

 これからは、貴方は四朗。四朗以外の何者でもない。何なら私の息子であることも忘れてしまっても、いい。

 ああ、だから、セットとなっていたらしい、私の記憶も消えたのね。‥でも、その時私はそのことに気付かなかったの。

 ぽっかりと穴が開いた貴方は、少々性格に異常をきたしてしまったようだった。

 他人に対して、何の興味も持たない。

 ‥そして、そんな自分がおかしいと‥。悩んで、周りに気を遣って、もっと閉じこもって‥。



 そのことに気付いたのは、小菊だった。例のホテルに泊まり、時々四朗の様子を見に行っていたのだ。

 子供の頃の四朗は、ただ寂しそうだった。

 母親がいなくなったのだから寂しいのも仕方ない。皆はそう思った。ただ、小菊だけは少し納得がいかないようだった。私もそうだった。

 だって、四朗は普通の子供じゃないのだもの。

 違和感になれないだけだわ。そう思った。

 もう少し大きくなった四朗はあまり話さなくなった。

 反抗期だろう。子供じみたところがない聡い子だから、同級生と話してもつまらないのかもしれないな。

 小菊がそう報告してきたわけではなかったかもしれない。(実際、小菊はそう報告はしていない。小菊は客観的事実だけを報告していたから)だけど、みんなそう思っているようだと。だけ。

 それには私も納得したわ。あの子は普通の子じゃないから、他の子と話してもつまらないことは安易に想像できるじゃない?

 そうして、みんなは四朗の変化を見過ごし続けた。

 そして、十歳になった四朗は、だけど、反抗期で片づけるのは、無理があるほど無表情な子供になっていた。

 正確には、常に微笑を浮かべている。だけど、その瞳には誰も映っていなかった。

 小菊の報告を受けて見に行った時には、正直ぞっとしたわ。

 ‥こんなに四朗は追い詰められていたのか。と。

 ‥だから、私は自分の手でメンテナンスする意味で、四朗を呼んだ。



「私は、西遠寺 桜。貴方を産んだ‥貴方の産みの親よ」

「母さん‥? 」

 姉ではなく、母。

 楓の名前は思い出させてはいけない。だから、新しい知識を教え込む。

 私は貴方を愛しているの。貴方は一人ではないの。

 わかってもらおうと、必死で心に訴えた。

「俺を産んだ? 」

 シトリントパーズの瞳が真っ直ぐに私を睨んだ。

 ホントに、反抗期もあるかもしれないわねえ。似合いもしないのに、自分の事を俺だとか言っちゃって私を睨み付けて。

 ‥それにしても、ホント似合わないわね。

 黙ってたら、天使みたいだのに。

 漆黒の短髪は、サラサラで天使の輪ができる位。そして、前髪を眉毛の上くらいまで伸ばして額に散らしていた。シトリントパーズの大きな目を覆う睫毛は長くて、きめ細かいすべすべした肌は、病的なくらい真っ白だった。

 四朗は思った以上に綺麗な子供に成長していた。

 ホントに、四朗様にそっくり‥。

 遺伝子の代わりの設計図は臣霊で、その情報に基づいて形作られているとはいえ、実際の容姿は多少なり四朗様の要素も含まれるのだろう。

 遺伝って神秘だ。

「そうよ」

 ちょっと見惚れてしまって答えが遅れたのも無理はないだろう。

「どうして今頃? 」

 シトリントパーズの瞳は尚も睨んだままだった。

「あなたに、教えておかなきゃならないことがたくさんあるからよ」

「教えておかなきゃならない‥俺は貴女に教わらなくちゃならないことがあるの? 」

「何を? なぜ? 」

 睨んだ目に、「不信感」がプラスされた。

 ‥最悪だ。

「‥ええと、命を‥命を狙われているからよ」

「ええ!? 」

「だから、自分で自分の身は守れるようにならないと! 」

 咄嗟だったの。あんまりにも無計画に入れ替えをしてしまったから。

 だけど、なんでだか四朗は信じた。

 そして、あの子たちの入れ替わり生活が始まったのだ。

 ‥あの子、本当はちょっと残念な頭なんじゃないかしら‥。

 桜は真剣に四朗を心配したのだった。



「ふう。懐かしいこと思い出したわ。‥そういえば、あの頃の四朗はアホだったわね。今は大丈夫なのかしら。この頃は物騒だというのに、あんなにアホで暮らしていけてるのかしら」

 頭の出来云々の話ではない。

「そういえば、あの子は、臣霊だから、やっぱり世間知らずなとこあるのかもしれない」

 と、自分も十分世間知らずな桜が心配する辺り‥。

 結局、世間知らずな桜が作ったから、臣霊である四朗が世間知らずなのだといえるのだが、そんなことに気付かない辺りもまた世間知らずなんだろう。

 そして、多分世間に出て暮らしている四朗の方が桜より世間を知っているのも確か。

 この誤解が決して解けないであろうことも、確か。

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