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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
八章 ライバルは「」
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7.どこの誰だか、に激しくライバル心。

「田中君は、ホントにいいやつだから」

「そんなことないと思うけど」

 目の前でニコニコしている四朗に、田中は首を傾げる。

「ただ、さ。じいちゃん‥俺の祖父から、四朗君のおじいさんと知り合いだって聞いてから、なんだか勝手に親近感持っちゃって」

 首の辺りに手をやりながら、田中が苦笑いする。

 何かを考えるとき、答えに困ったとき、首に手をやったり、肩をつかんだりするのは、田中の癖だった。

 照れ隠しをする時も、実はそう。

 つまり、四朗と馴れ馴れしく話している今の状況を考えて、だがしかし、言われた内容はまんざらでもなくって、つい、喜びを隠し得ない、そういったところの表情か。

 ‥いい奴。か。

 結構、普通に人畜無害って言われたに等しい感が‥無きにしも非ず。

「田中君のおじいさん? 」

「うん。なんでも同級生だったらしいよ。僕の集合写真見て、「相生君と同じ顔だ」って言ってた」

「確かにうちの家族はみんな同じ顔してるからね」

 四朗が、ちょっと困ったような顔をする。

 間違いない。うちの一族は、皆同じ顔をしている。それはおじい様もそうだし、父さんもそうだし、博史と自分も彼らに似ている。そういうのって、ザ遺伝って感じで、ちょっと恥ずかしい。

「そうなんだ? 」

 はは、と田中が笑う。

「うん」

 四朗が肩をちょっとすくめる。

「それで、じいちゃんが四朗君のおじいさんとみかんを一緒に食べたみたいな話をしていたことがあったから、四朗君も好きかなあって、何となく思って」

 あの時のミカンの話をしているのだろうか。

 四朗は思い出して、ちょっと苦笑した。

 それにしても、ミカンねえ‥

「ふうん。おじい様、ミカン好きだって聞いたことはないけどなあ。好きなのかな。あんまりおじい様と話すことないからわからないなあ」

 意外な学生時代のエピソードに、あの祖父にも学生時代があったのかと、(当たり前なんだけど)意外な感じがした。

「そうなの? 」

「うん。おじい様の学生時代ってなんか想像つかない‥、ん? ‥というか日本で学生生活送ってたっけか? 田中君のおじいさんのご年齢っておいくつ? いや、ごめん失礼なことを聞いてるね」

 ふと、そんなことに思い当たる。

 たしか、「生の言語が聞きたい」って留学しまくってたって聞いたことが‥。あれは、たしか高校生の時辺りじゃなかったか?

 そんなことを考えていると、ふと、根本的なことに気付いた。

 果たして、本当におじい様なのか、と。

「いや? いいよ。ええと、今年で七十四だっけ? 」

「ああ。そうか。田中君のおじいさんと同級生だったのって、俺の曾祖父だ。ひいじいちゃんか。なるほどなるほど」

「え! ひいじいちゃん!? 」

 それだけ言って、田中は絶句した。

 ‥一体何歳で結婚してるんだ? 

 そんな田中を見て、四朗はふふ、と笑った。

「うちは、みんな結婚がやけに早いから、みんな若いんだ。父さんなんて、まだ三十代だし」

「え‥親父もう四十台後半だよ」

 答えた田中は、まだポカンとしたままだ。

「ふつうはそうだよねえ。江戸時代か! って感じだよねえ」

 四朗は自分で言ったことが気に入ったらしく、一人ふふ、と笑った。

「そ、それはよくわかんないけど」

 田中は、そうとしか言えない。

 早いね、と共感したものだか、いや、この場合は触れないでおくのが正解か?

 しかも、江戸時代って突っ込みが、またよくわからん。

 ヤンキーか? ならまだわかるが。

「そうかそうか。ひいじいちゃんと同級生ねえ。そういうこともあるんだねえ」

 ひいじいちゃんという言葉を話す四朗は、さっき祖父の事を話していた時より優し気で、曾祖父と四朗の関係みたいなものが垣間見れた気がした。

 ‥四朗君、ひいじいちゃん好きなんだね。おじいさんは苦手なのかな?

 そんな四朗の人間っぽい一面に触れ、田中は少し微笑んだ。

 ‥話してみると、四朗君も人間なんだってわかる。話さないとわからなかったことだな。もっと、こう‥完璧で感情があんまりない人だと思ってた。

 いつも笑顔ではいるんだけど。それだけに、感情が読めない。

 でもそれは、四朗だけではなく、紅葉が四朗として暮らしているときにも言えた。

 だから、中身が四朗に変わった今も、それまでも四朗はずっと、笑顔で無表情だったわけだ。

 四朗も紅葉も人に対して、本当に憶病なんだ。

「僕は、四朗君の事あんまり知らない。だけど、祖父から名前を聞いただけで、知ったような気になったよ」

 田中はつい、そんなことをつぶやいていた。四朗が、田中を見る。

「知らないのか、知ってるのか」

 ふふ、と四朗が静かに笑った。

「そうそう。知らなかった時の方が、むしろ、四朗君の事知ってるような気がしてたよ。不思議だねえ」

 はは、と田中も笑う。

「哲学だね。ああ、そういったら、なんか久しぶりにひいじいちゃんに会いたくなったな。今度会いに行ってみよう」

 そう言って、四朗は少し楽しそうな顔をした。

「遠くに住んでるの? 」

 つられて田中も微笑む。

「遠くって程でも‥ないかなあ。電車で3駅くらいで行けるし」

「へえ」

「でも、なかなか行けなくてね」

「相生君、忙しそうだもんね」

 田中が四朗と話し込んでいるのを見て佐藤が話に入って来た。面白そうなことほっておくような奴ではない。ほんとに、ちゃっかりしている。

「え? 」

 急に話しかけられて、四朗が少し困惑した顔をする。

 あ、四朗君ってちょっと人見知りなとこあるのかもしれない。

「っていうか。まだ班決まってないの、相生君だけって聞いたんだけど。よかったら、うちの班に入らない? 。池谷と、俺と、田中の班なんだ」

 しかし、気にしない方なのか、気が付かない方なのか、佐藤は話をつづけた。

「おい、佐藤」

 田中が呆れて言葉を遮ろうとすると、

「‥いいの? 」

 驚いたことに、四朗がそういった。

 どこか佐藤の反応を伺うような自信のない口調だった。

 ‥え!

 田中が目を見開いている前で

「勿論」

 精神が鋼の佐藤はにこにこと四朗に頷いた。

「コイバナとか、夜通し話し込もうぜ! 」

 と、おっさんみたいなセリフをこれでもかとねじ込んできた。

 ‥うわああ。お前、四朗君に何言っちゃってるわけ?? 

 もう田中は泡を吹きそうだ。

「あ、ごめんね。寝る部屋は別に個室にしてもらうことになってるんだ。俺、その‥人と寝れなくて」

 四朗は、如何にも悪そうな顔をして、佐藤に謝った。

 人と寝れない。

 ‥っていうのは、まあ、嘘だけど。どんだけデリケートな奴だよ。

 弟と同室だし。

 言葉の最後は、誤魔化して、四朗はちょっと言いよどんでしまう。

「え~? 」

 佐藤が不満げな声を出す。

 苦笑いして黙ったままの四朗のどこか思いつめた顔に、あの時の事を思い出した田中は少し赤面して、しかし、「助けなければ」と思った。

 あの時、あの「ミカン事件」だ。

 ‥あの時、どこか寂しそうに、ぼんやりとしていた四朗君‥。

「おい、佐藤。しつこいぞ‥」

「そっか、いいよいいよ。まあ、じゃあ班だけ。一緒に回ろ? 」

 田中の言葉を聞いていないかのように、佐藤が持ち前の図々しさで、四朗にぐいっと一歩近づいて、にかっと笑いかけた。

「ありがとう」

 ふわっと花が咲くみたいに四朗が笑う。その顔を見て、佐藤は声を失って呆然となる。四朗のその笑みに随分慣れてきた田中は、

 ‥誤魔化したな

 と、苦笑いした。

 ‥複雑そうで、実は四朗君はそんなに複雑でもないのかもしれない。

 田中は四朗のそんな面を見つけて、また少し四朗を近くに感じたのだった。



 そんな三人の様子を遠くで眺めながら、複雑な表情をする女子の皆さん。

 四朗様のコイバナ。

 聞きたい。どんな話だろ。

 そもそも恋バナするような相手いるのかな。気になってたまらない‥。

 実はもう恋人がいるとか言わないわよね。

 何それ、許せないわ。

 あの中等部の子とか? まさか‥。

 誰だかわからない、それ以前にいるかどうかも分からない架空の相手にライバル心抱く抱く。

 それにつけても、田中。あんた、この頃四朗様に馴れ馴れしすぎない!?

 田中に、架空の恋人Xエックスに、ライバル心が収まらない女子の皆さんだった。

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