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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
八章 ライバルは「」
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6.誰が一番四朗様を好きかっていう無意味な勝負。

 月桂、生意気なことを言っていったわねえ。


 華鳥は四朗から離れて、ぼんやりとそんなことを考えていた。

 四朗の傍にいたら、自分の考えていることが全部四朗に聞こえてしまう。

 独り言を言っているようなものだ。

 だから、臣霊が考え事をする時はマスターから離れなければならない。

 

 失礼なことも‥。

 それに、知ったかぶりも程があるわ。まるで、貴方の考えそうなことくらい全部わかります、みたいな態度じゃなかった? さっきの。

 四朗様はそんな単純ではないわよ。

 月桂に対する不満が止まらない。月桂がもし今これを聞いていたなら、苦笑いをしただろう。

 

 しかも、四朗様の事語ろうなんて、百万年早いわよ(古い。いつの表現だ)

 四朗様の事を語れるのは、私たちのボス・桜様位にならないと‥。

 そう、桜様。四朗様のお母さまであり、臣霊としての四朗様のマスター

 桜様がどれ程、四朗様の事を心配されているか。

 臣霊としての四朗様には、誰かモデルがいるらしい。それが誰だかは私たちは知らない。そして、桜様がその方をどう思っておられるか、も。

 そして、四朗様もそれを知らない。ただ、モデルがいるらしいことは知っておられるらしい。


 でも、今の桜様にとって四朗様はその誰か、ではない。四朗様、なのだ。

 桜様にとって四朗様は、自分がお腹を痛めて産んだ愛する人との大切な息子。

 大切な大切な息子。

 でも、その気持ちは私の四朗様を「好き」という気持ちとは違う。

 あの、菊子という小娘の四朗様に対する好意は所詮「憧れ」に過ぎない。

 武生さんに至っては、ただの「友情」

 博史君なんて問題外ね。兄弟を思う愛情に過ぎない。

 誰が四朗様を一番愛しているか。理解しているか。

 一番の理解者。それが今の四朗様にとって最も必要なものでしょう?


 そんな四朗様が悩んでいらっしゃる。自分の存在が何かと。

「俺は俺だ。女の子じゃない。「」なんかじゃ、ない‥」

 四朗様の悲痛な声が耳から離れない。

 ‥そうよ。貴方は、四朗様。私が敬愛する四朗様です。

 どんな四朗様でも、貴方は四朗様です。

 そして、皆本当の意味で四朗様を理解している人はいないんだ。私以上には。

 だた四朗様の一面だけを見て、四朗様を理解しているような気になっているに過ぎないんだ。



「四朗って、誰かを好きになったりするのかな。ちょっと、ロボットっぽいよね」

 うるさい、相崎。貴様の尺度で四朗様を測ろうとするのがおこがましい。

 偶然拾った声が四朗様の事を話していることがわかり、聞き耳を立てた。気が付くと、四朗様がさっきまで話しておられた相崎たちのところまで来ていた。

「あの身持ちの硬さ、ホントに相生の男だとは思えないね」

 相崎と、

「いいんだ。四朗には菊子がいるから」

 それに、武生さん。

「何のことぉ? それって、相生の男の人って女好きってこと? 」

 上目遣いで相崎を見ていた女が甘ったるい声で聞いている。

「ん~? ちょっと言い間違い」

 睨む武生さんに気付いて、相崎が慌てて誤魔化す。

「え! 誰、菊子って。四朗君の彼女? 」

 しかし、他の女子は、武生さんの「それどころではない単語」を拾い、迫力ある顔で、武生さんに詰め寄った。

 ともすれば、腕を掴まれそうなその迫力に、武生さんは引いた‥というか、あからさまに嫌そうな顔を女子たちに向ける。

 分かります分かります。そういう女子、武生さん嫌いそうですものね。

 相崎が、まあまあ、と武生と女子の間に立つ。

「相崎様もご存じなんですか? 菊子って人」

 相崎に対する女子の声は、武生に対するよりちょっと高い。明らかに女子は区別している。

 ちょっと、けっ って思う。

 相崎なんて、顔だけじゃね? 

 そして、そういう女子に四朗様もそういう目で見られていることに、また腹が立つ。

 四朗様は相崎と違って顔だけじゃない‼ って。


「「許嫁」」

 武生さんの不機嫌そうな声、そして、どこか面白がっているような相崎の軽薄な声。それが、図らずして重なる。

「え! 」

 その単語を聞いた女子の間から、悲鳴に近い声が上がった。

「で、武生の妹」

 それを見た相崎が付け加える。

「え! 」

 相崎の奴、周りの女子の反応を面白がっている。四朗様がおられない時に、趣味が悪い。

 いつもなら「やめろよ」とか言う武生さんも、自分の(愛する)妹の事だからか、止めない。むしろ、周りの女子に対していい機会だとばかりに牽制しているようだ。

 四朗には、許嫁がいるんだから、言いよっても無駄だ、と。

 このシスコン。

 普段、大人なようで、こういうとこあるんだ。こいつは。


「結婚したら、四朗が武生の事兄さんって呼ぶんだよねえ」

 面白そうな顔をして、相崎が言うと、

「別に呼ばなくていい」

 不機嫌そうな顔で武生さんが返す。

「呼ぶでしょ? そういうのは、きっちりとしないと」

「‥‥」

やっぱり、不機嫌そうな顔をするんだけれど、

‥なんだ、もう小舅の気分か!? まんざらでもないって顔に見えるのは、私の気のせいか!?

 もう周りの女子は、ショックで口もきけていない。

「許嫁‥。武生君の妹‥」

 と、ここで根性がある子が、復活し始めた。

「相馬 菊子? 高等部にはいないわ」

 高等部の女子の名前を全部把握しているというのか、それは凄いわね。私の中で貴女のこれからの認識は「データベース」‥です! どうぞ、その優秀な頭脳これからは、別の事にお使いください!

「じゃあ、中等部? 」

 ここで何人かがまた、復活し始めた。

 自分の状況がさほど悪くない、という空気を感じ取ったのですね。

「なんだ、お子様じゃない」

 そして、女子の顔に安心が戻る。

 年下、幼馴染の妹、「なんだ、お子様の約束か」って。

「親同士が決めたって奴じゃない? 四朗様優しいから」

 ぴくり。

 武生さんの何も言わない顔に、すっと不機嫌な影が落ちた。

 ‥こわいわあ。こういう人が怒ると怖いんだよねえ。

 私は武生さんから目が離せなくなった。


「なんか可哀そう」

 しかし、女子の皆さんはそんなことには気づかない。

 女子の集団心理もこわいわあ。

「そっとしておいてあげてよ。四朗君の事」

 困ったように笑って、しかし、言うべきことは、きっぱりとした口調で。

 田中君だった。

 たしかこの前、四朗様をミカンで餌付けしてた人ですよね? 


「田中君‥」

 女子の、不機嫌そうな顔。

 でも、「あんたには関係ないでしょ、引っ込んでなさいよ」とは言えない、言わせない迫力が田中君にはあった。

「田中‥」

 武生さんの表情も複雑。

 菊子の事、女子にいろいろ言われるのは不満。それを止めてくれたことには感謝だが、果たして、こいつは四朗の何なんだ。保護者か? そういえば、ミカンを餌付けしてたって言ってたっけ? 一体、四朗とどういう関係なんだ? 本来ならこのセリフは四朗のお目付け役である俺が言うべきセリフだ、だが、ここで(菊子の兄である)俺がさっきの発言をすると、完璧菊子をかばったようになる。それで、菊子に女子の攻撃の矛先が向いたら‥。

 しかし、武生の頭の中の声はもちろん周りには漏れず、

 ‥あ、武生君と田中君が四朗様を挟んで、火花を散らしている

 と、一部の女子にこっそり解釈される状況になっているのだった。



「四朗君がいないところで、そういう話をするのは、ね」

 と、いつもの人の好さそうなほわりとした笑顔に戻して、田中が周りをもう一度牽制した。

「ま。そうだね。ありがとう。田中君」

 相崎が愛想のいい笑いで、女子に「四朗の友達」を再アピールしてこの話は終わりになった。

 ‥ナニコレ。

 華鳥は、白けた顔で相崎たちの元を去った。(実際、他の誰にも華鳥は見えていないのだけれど)

 ‥とんだ茶番。それにしても田中君は何。四朗様の保護者のつもりなの。何を分かったような顔してるの。

 そして、はっと我に返った。

 私は今何を思っていたんだろう。これじゃ、さっきの女子やら、あのシスコン(もはやシスコン扱い)と変わらないじゃない。

 ‥四朗様の事、心配してくれているいいお友達が出来てよかった。

 桜様ならそうおっしゃるわ。

 嫉妬にかられて、四朗様の交友関係まで制限を加えてしまうところだった。

 私たち臣霊は常に、マスターと一緒にいる。

 マスターの考えを読むこともないし(というか、読めない)姿を見せることもない。だけど、どうやら気配は伝わっているらしい。

 笑った気配、不機嫌な気配。

 だからさっき、四朗様と一緒にあそこにいたら、私の不快な気持ちは全部、四朗様に伝わっていただろう。

 私の嫉妬も。

 どうしよう。でも、冷静でいられない。

 守護臣霊になれたら、そして、四朗様の魂に寄り添って、ただ、四朗様の考えること感じることを自分のものとして、穏やかに四朗様をお守り出来たら。

 だけど、四朗様は四朗様自身も臣霊で、それはかなわない。

 切ない。

 このまま、臣霊として四朗様のもとにいたいなら、こんな想いは消してしまわなければいけない。

 私は、将来四朗様に愛する方が出来たとき、一緒に喜んで、傍に、それまで通り傍にいることが出来るだろうか? 今のままだったら、それは出来ないだろう。

 それどころか、こんな、私の嫉妬が四朗様が誰かに惹かれることを妨げている一因になっていることに気付いてはいる。

 四朗様が誰かを好きになると、感じる「私の」心の痛さ。

 だけど、四朗様はそれを、すべて自分の意志だと思っていらっしゃる。

 自己嫌悪だと。

 違うんです。ただの私の嫉妬なんです。

 だけど、止められない。想いを変えられない。

 そんな私は、四朗様から離れなければいけない‥。

 せめて、最後に。何か私に、四朗様のためにできることはないだろうか? 


 ‥四朗様、私は四朗様が大好きなんです。

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