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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
八章 ライバルは「」
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4.ライバルは「相崎」

「あ、紅葉ちゃん帰ったんだね。残念、一緒に遊びたかったのに」

 朝、相崎に対して相変わらずの無表情な四朗を見て、相崎が眉を寄せた。

「遊ばせねーよ。ってか、流石相崎だなあ、今回何も言ってなかったのに。でも。今回はなんか武生も気づいてたっぽいし。すごいな、今までも時々(注 ということにしておく)変わってたけど、武生なんて気づきもしなかったのにね」

 思いっきり無表情で接しておいて、「よく気付いた」もない。寧ろ、あからさますぎるだろ! 紅葉ならそんな表情はしないだろうから、当然わかるだろう。

 だけど、武生に対しては二人ともそんな失礼な態度はとらないから、武生が気付かないのは無理はない。だから、今回のことは「珍しい」

 しかし、四朗にそんな話をされて、

「この頃の四朗は変わった。今までは、何の個性もなかったのに」

 武生がふと、そんな爆弾発言をした。

「まあ、そうだわな。存在感が出たよね」

 と、相崎まで。

 存在感‥。

 四朗が不満そうに眉を寄せて、首を傾げた。

「今までの四朗っていったら、目的のため以外の努力はしませんって感じで、もう、テンプレみたいな笑顔を張り付けてたのにな」

 ふふ、と笑って相崎が言った。

 そして

「それって、紅葉ちゃんのおかげ? 」

 一際楽しそうに、にやり

 視線の先には、四朗とそして武生。

 自分に相崎の視線が向けられたのを気付いたのは武生だけ。武生はぎくっとした顔で相崎からそっと、顔を背けた。

「そうでもないとは思うんだけど、そうじゃないとも言い切れない」

 首を傾げながらそう返す四朗は、二人の様子には気づいていなかった。

「ふうん? 」

 そう四朗に言葉を返す相崎の、視線の先はしかしながらやっぱり武生。四朗の方を向いているが、視線だけは、武生。しかしながら、四朗はそのことに気付かなかった。そして、横にいる武生が、相崎からの視線を逸らしていることにも、気付かなかった。

「‥俺は、あの子を信用しているし、あの子に勝ちたいと思う。それ以上の感情はない」

 四朗が言葉を続ける。

「恋愛感情はないって前も言っていたね。ホントにないもんなの? 」

 ふふ、と相崎がまた笑う。

「ない」

 きっぱり言った四朗の言葉は迷いなんて少しも見られなかった。

「俺はあるよ」

 笑顔の相崎は真っ直ぐに武生を見た。今度は、四朗もその視線が自分ではなく、武生に向けられたのだと気づいた。(向けられていた、ではなく、向けられた、と思った)

「! 」

 武生の肩が一瞬、びくっと上がるのが見えて、四朗が武生を見る。武生はしかし、相崎とも四朗とも視線を合わせなかった。

「武生は? なんか、常にない優しい表情であの子を見てたみたいだけど」

 やけにゆっくりとした口調で相崎が、常にない挑戦的な笑顔を武生に向ける。

「‥‥」

 視線を逸らしたままの武生は、何も言わなかった。

「まあ、いいさ。武生、勝負だね」

 相崎は挑戦的な笑顔のまま宣言したが、

「‥‥」

 しかし、やっぱり視線を合わせないままの武生は、何も言わなかった。

 その幼馴染たちの常にはない雰囲気に、四朗は視線だけで二人を交互に見る。

 ‥なんだ、これ。

 でも

「あの子に恋愛感情はないけど、あの子を傷つけたらただじゃおかない」

 これだけは言っておかないといけない。状況的には、自分は部外者のようだが。

「相変わらず保護者みたいだねえ」

 ここにきて、相崎の視線が四朗に移った。

 しかし、先程武生に向けていたような挑発的な笑顔ではない。

 その表情はどこか楽しそうだった。

「あの子のそういう顔は、見たくない。ことに自分に近しい人にだったらそんな感情もって当たり前だろ。博史が誰かに傷つけられるのだって、絶対に許せない」

 相崎を睨みながら、牽制するように語気をいささか強くする。

「博史君は多分、四朗よりずっと強いし、紅葉ちゃんだってそうだと思うよ」

 しかし、相崎は面白そうな表情をやっぱり崩さないまま、どこかゆったりと四朗を見たままだ。

「俺を弱いみたいに言うなよ」

 四朗の表情が、ほんの少し、しかしながら、確実に少し険しくなる。

 しかし、それは四朗にとっては珍しいことで、そのことに驚いたのは武生だった。

 そして、表情を変えた四朗を見た相崎の顔に、すっとさっきまでの挑戦的な微笑が戻った。

「強くはないよね。自分を過信しない方がいいね」

 煽るな、四朗をわざわざ怒らせるな‥相崎。

 ため息をついて、武生は自分が取るべき行動を取った。

 つまり、四朗と相崎を離すこと。

 武生は、四朗の腕を引いてその場を離れた。四朗は不機嫌な顔をしながらも、それに従った。

 そうだ、この二人は今でこそ喧嘩をすることがなくなったが、元々、顔を見れば喧嘩をしていた。子供の頃なんか特にそうだった。小学校も高学年になったら流石にそれもなくなっていたが。

 いや、違うな。そうでは、ない。

 ぴったりと喧嘩をしなくなったのは、十歳の頃四朗が記憶喪失になった時からだった。

 記憶がなくなって動揺していたから仕方ないだろう。それどころではない。

 だけどあれほど、合わなかった二人だ。記憶が無かろうとあろうと、会えば‥話をすれば、やっぱり険悪なムードになったのでは無いだろうか? それまではそうだった。

 だけどならなかった。

 相崎が絡まなかったから、そして、絡ませるような要素が四朗にもなかったから。

 相崎は入れ替わった紅葉に(おそらく本能で)気付く。そして、紅葉には絡まない。紅葉なら相崎にわざわざ喧嘩を売ったりしない。

 おそらく、今までも相崎は本能で「これは四朗ではない」と気付いていてはいた。そして、つい最近には「そして、たぶん女の子」と気付いたのだろう。

 流石は、天性の女好きといったところか。

 だとしたら、「時々変わっていた」どころではなく、かなり長い間二人は入れ替わっていた‥ということではないだろうか? 

 ‥まさかな。

 だけど、かなり昔から頻繁に入れ替わっていた可能性はある。

 何のためかはわからないが。

 それにしても

 四朗は‥さっき、なんであんなに怒ったんだろうか? 

 四朗は、相崎のどの言葉に反応して怒ったのだろうか?



「仕事では、「私」と自分のことは呼びなさい」

 いつであったか、相生の仕事について四朗を教育していた祖父が、幼い四朗に言ったことがあった。確か、五歳か六歳かの頃であっただろうか。

「いやです。俺は女ではないので、自分のことは「私」とは言いたくありません」

 いつもは「はい」と言って反抗などしたことがなかった四朗だったが、しかしその時は、顔を真っ赤にするほど怒って、祖父を睨んだ。

「そういう意味ではない」

 涼しい顔のままで祖父が言い、ため息をつく。

「でも、嫌なんです」

 悔しさのあまり、その目に涙すらも浮かべて祖父を睨んだ目を、逸らすことすらしない四朗が語気を強くした。

「‥‥」

 祖父がため息をついた。

 やっぱり、子供だな。

 という、呆れたようなため息。



 その時のことは、今でも覚えている。そして、なぜ自分はあの時あんなに怒ったのか、と、時々考えることもあった。

 しかし、分かった。何故か、が。

 桜が言っていた

「女の子として育てられた」

 と。

 しかし、自分の記憶がある限り、自分は男として‥相生の跡取りとして育てられてきた。

 自分では覚えていなかったのだけど、しかし、そんな事実があったのだ。

 それがあって、生理的に自分の中でそれが受け入れられなかったのだろう。

 自分は女の子ではない。

 女の子として育てられたという記憶が、しかしながら自分の記憶の奥底にはあって、そしてそれを嫌悪する自分。

 ‥聞くんじゃなかった。あんなこと。



 俺は、俺だ。

 女の子なんかじゃない。

 俺は俺だ。「」なんかじゃ、ない。



 ふと、自分の中に浮かんだ考えに、四朗ははっとした。

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