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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
一章 相生 四朗
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5.可能性

 祖父の名前は、かって相生四朗だった。そして、父の名前も、そして現在その名前は俺の名前となっている。

 つまり、俺たちは昔から相生 四朗だったわけではない。

 相生 四朗と呼ばれる前は、信濃と呼ばれていたらしい。もっとも、それは「俺の」名前なわけではなく、跡取りが「相生 四朗」を継ぐ前の繋ぎの名前なのだ。それは相生だけではなく、相馬、相模、相崎といった(なんでか「相」という漢字が苗字に共通してついている)一族の後継ぎ皆の共通のお約束ってやつならしい。

 八歳にして相生 四朗を襲名した稀代の天才。それは、相生家始まって以来のことであるらしい。

 何が違う? 今までの「相生 四朗」と。

 俺は、俺のことがわからない。どんなに「学習」しても「学習」しても。

「消えたのか…」

あの時の、祖父の驚愕と絶望の混じった視線。

 たぶんその消えた何かが、俺が稀代の天才と呼ばれた所以。

何が消えた? そもそも、それは元々俺にあったのか? 俺は本当に、相生 四朗なのか?

 信濃‥そして四朗。

 家族は勿論、そんな名前では呼ばない。産まれた時につけた名前で呼んでいる。だけど、それは、幼馴染の武生だって知らない。知らせてはならない。

 名前は、「呪」だからね。

 相模 籐一郎様がおっしゃっておられた。

 あの盲目の麗人は、ああ、でもあの時にわかっておられたんだ。相生 四朗と呼ばれて、ひどく心細い顔をした俺、その名前が自分のものと思えなかった俺の迷い。

「名前を自分で言ってみて? 」

 微笑んで俺に聞いた。

「相生 四朗です」

 それを聞いて、もう一度頷かれた藤一郎様。

「早く思い出すといいね」

 思い出すのは、相生四朗の記憶ではなく、本当の記憶、そして名前のことだったのではないか?

 本当の記憶が俺にはある。そして、それは相生 四朗の記憶ではない? 

 その不思議な疑問は、しかしながら、今まで悩んできたすべての疑問の答えに思えた。

 違和感。

 今までずっと感じ続けてきた違和感。

 あ、これって転生ってやつかもしれない。

 するり、と変な考えが浮かんだ。

 もしくは、入れ替わり。

 自分という人格を持ちながら、自分以外の誰かに生まれ変わるそんな都合よすぎる展開。実際にこの身に起こるとは思わなかったが、だけどこれはそういった類の現象なのだろう。それ程、俺は俺に違和感がある。七年経っても未だに、だ。

 多分、あれはただの事故じゃなかったんだ。そして、ただの記憶喪失なんかじゃなかったんだ。

 するり、と今までの疑問が解けた気がした。

 俺は、相生 四朗なんかじゃなかったんだ。

 転生もしくは、入れ替わり。

 でも別に、異世界に飛ばされたわけではない。言葉だって、時代だって何も変わらないわけだから、そりゃあ何の不便もないわけだ。

 これは、ただの可能性だ。荒唐無稽な。だけど、あながち間違っているとも思えない可能性だ。


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