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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
八章 ライバルは「」
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3.ライバルは「四朗君」

 武生さんは、どうして私と変わっているって分かったんだろう。

 いっても、今までずっと私が四朗君だったわけだ。

 四朗君が四朗君に戻って間がないというのに、だ。

 幼馴染だから? 

 それとも‥

 何か、二人の間に自分では埋められない絆を感じ、悔しいような切ないような変な気持ちになる。

 (なんてことはない。月桂の洗脳が解けたからなのだが、それに紅葉は気付かない)

 ‥ああ、これって、嫉妬かな。

 恋心に嫉妬に、このところの私は新しく覚えた感情に左右されっぱなしだ。

 振り回されっぱなしだ。

 だけど、決して嫌な気持ちではない。そして、この頃体の調子も少しおかしい。この前、初めて初潮が来たからだろう。

 あの時の母さんの嬉しそうな顔が忘れられない。

 高校生まで、なかったなんて、確かに変だよね。

 自分の体やら心が急激に変化しているのが分かる。

 今までのことを取り戻すように。

 こんな気持ち、四朗君にもあるのかな? 

 武生さんの横に立つ四朗君をおもい、胸が痛んだ。

 羨ましい。

 四朗君のままでもいいから、武生さんのそばにいたい。

 紅葉としていることは、無理だから‥。だからせめて、四朗君のままで。

 だけど、武生さんはわかってしまうんだ。

 私が、偽物だってこと。

 四朗君の偽物だってことを。四朗君じゃないってことを。

 胸が苦しい。

 こんな私は、嫌いだ。

 剣の稽古にも身が入らない。

 そういえば、武生さんが「今度、お手合わせお願いします。貴方との試合は面白い」って言ってた。今度会ったときに、剣の腕が落ちていたら、大変だ。と、意識を稽古に持っていこうとした自分に気づいて、もっと落ち込んだ。

 ダメだ、雑念だらけだ。

 これじゃ、ダメだ。

 やっぱり、こんな自分は嫌だ。

 自分が、そして四朗君が憎らしい。

 家にどうやって、いつ帰りついたかはわからない。酷くぼうっとしている。さっきから、千佳が黙って私を見ている。心配そうな目、そして、何かを観察するような目。

 そして、それがやがて明るい微笑みに変わる。

「ああ、くれちゃんだ。やっとくれちゃんに戻った! 」

 戻った、という言葉にドキッとした。

「戻った? 」

 千佳は何で知っているんだろう。もしかして四朗が何か言ったのだろうか? そう思った、が、紅葉の動揺した様子を見た月桂が首を振った気配が分かった。

 言ったわけではないのか。

 では、千佳は何を知っている?

 ‥何かを感じ取られたみたいです。

 静かな月桂の声が聞こえた。

 何かを。千佳は、何を感じ取ったのだろうか?

「私、どこか変だった? 」

 常を装って、ちょっと首を傾げた。

「なんか、暗かったっていうか‥、あいつかと思った」

 あいつって四朗君? 千佳にも四朗君が分かるんだ。

 胸が痛くなった。

「くれちゃんじゃないっていうことは、わかる。あいつが誰かなんてのは、結構どうでもいい。くれちゃんか、くれちゃんじゃないか。それが重要だ」

 思わず黙った紅葉の瞳を千佳は心配そうに覗きこんだ。そして、なだめるように、ちょっとお道化て、ハムレットの「生きるべきか、死ぬべきかそれが重要だ」ってセリフみたいなことをいう。

 何が紅葉を不安にしているんだろう。さっき、顔色が一気に変わった。それは、何の言葉だっただろうか? 私が言った「あいつかと思った」だ。

 原因が「あいつ」だということは、多分間違いは無いだろう。あいつ、の存在が不安なのか? それとも、あいつと間違われたことが不安なのだろうか?

 ともかく、紅葉は「あいつ」が苦手なんだろう。

 悪い奴じゃなさそうだし、なんか昨日は可哀そうな感じもしたが、紅葉が苦手な人間は、許しておけない。

 それは、わかってもらいたい。私は、紅葉の一番の味方なんだ、ということはわかってもらわなければいけない。

「あいつが分かるわけじゃないよ。それどころか、私、あいつが誰かすらどうでもいいし」

 千佳は、念を押した。

「千佳‥」

 紅葉が千佳を見た。眉間にすこししわが寄った。

 そんなこと、言わないであげて

 そういいたい気もした。

 そもそも、千佳がどこまで知っているのかもわからなかった。

 後で、臣霊たちに確認しないといけない。

「くれちゃんは変わった。いい意味でね」

 ふっと、千佳の表情が緩んだ。

「表情が出た、というか。昔っから、くれちゃんはずっと何か我慢してたから、今みたいに表情を変えるくれちゃんが、うれしい。あいつは、表情が変わらなかったころのくれちゃんに似てて、なんかくれちゃんを見てるみたいに心配な気持ちになっただけ」

「あの人が誰だか、千佳は知っているの? 」

「知らないけど? ホント、どうでもいいし。あいつって、くれちゃんの何なの? 恋人? 」

「まさか! 」

 自分の口調が思った以上に強かったことに驚いた。

 そして、心持ち長く大きく息をして気持ちを落ち着けさせた。

「私が好きなのはあの人じゃない」

「好きな人? 」

 千佳が紅葉を見る。

 紅葉が頷く。それを見て、千佳がふわっと、笑った。

「ほかに好きな人が出来たの? 」

 口に出して言うと、ちょっと複雑だった。

 姉の恋愛って、なんだか‥ちょっと複雑だ。

 でも、喜ばしい事実なようにも思える。うん‥、ちょっと私はくれちゃんの保護者の気分なんだ。守っているって思ってるのは自分だけで、本当はずっと守ってもらっているっていうのは、‥でも知っているんだけどね。

「好きな人が出来たから、くれちゃんは変わったんだね」

「‥‥」

 紅葉は困ったように微笑んだ。

 ‥それは、ちょっと、違う気もする。

 でも、それもある気もする。否定をしなければいけないほど、違わない気もする。

「じゃあ、ますますあいつは誰なんだろ? あの妖怪変化(千佳の言うところの桜)の関係者なんでしょ? 」

「そうね」

 そういえば、それ以上何の関りもない。

 きっと説明しても分かってもらえないだろ。

「ま、なんかわからないけど、くれちゃんが変わったことに、あいつが関わっていそうだから、悪く言うのは止すわ」

「ありがとう」

 そうだ、多分そういうことだ。

 私は、変わりたかったんだ。だから、あの時桜の頼みを聞いたんだ。

 どうにかして、

 どうにかして、変わりたかった。その、可能性が少しでもあるのなら、と。

 変わりたい、逃げたい。状況を変えたい。

 私は今もあの時も、ずっともがいていたんだ。一人は嫌だ。って。

「千佳、ありがとう」

 だけど、私は一人ではなかったって分かった。

 だけどきっと、四朗も自分が一人だって悩んでいる。‥今も。

 教えてあげなきゃ、「あなたは一人じゃないよ」って。

 私はあなたがずっと羨ましかったって。

 ‥今でも羨ましいけどね。武生さんとずっと一緒でいいなって思う。

 だから、まあ、まだ言わなくてもいいかな、って。

 私は、思わなかったんだ。あの、完璧で綺麗な人が、心の中にそんなにも深い闇を抱えているとは。そんなにも、孤独に押しつぶされそうになっているとは。

 そんなに深刻に思えなかったんだ。



 ごめんね。四朗君‥。


 ごめんね、四朗君‥。


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