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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
八章 ライバルは「」
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1.ライバルは「武生兄さん」

 でも、今回はこれで勘弁してあげます。もうすぐ修学旅行ですしね。そろそろ戻らないと紅葉ちゃんに悪い。ホントに、早く話してくれたら紅葉ちゃんに迷惑にならないのですがねぇ‥。

 そこでわざとらしいため息。

 何様のつもり。

 桜は、昨日の夕刻、自分の息子に言われた言葉を思い出し、少し不機嫌な面持ちでパチンと扇子を鳴らした。

 まあ、今までがいい子過ぎたわよ。

 そう思って、息子の成長をちょっとほほえましく思うのは、単なる親バカだからか。



 朝、みんなに挨拶をする幼馴染の、(この頃の)常より健やかな笑顔に、武生は驚いた。

 といって、顔に出るわけではない。あくまでも、その表情は変わらなかった。

 ただ、

 まだ、入れ替わっていない。あいつはいったい何やっているんだ。

 と、ため息をつきたい思いだった。

 ばれたらどうするつもりなんだ。

 と心配になって、できる限り傍についている。

 ほら、相崎が煩わしい。

 お前の行動でバレそうだな!

 四朗の外見の紅葉に電話が掛かってきたので、武生が離れようとすると、「あ、大丈夫ですよ」とそれを制した。

 別に離れないでいい、という。

「あ、はい。いえいえ。大丈夫ですよ」

 用件だけの電話をさらに短く切り上げる。

 電話の相手は四朗だという。

 明日には入れ替われそうという内容だったようだ。

 自分の都合に人様を巻き込むなんて‥呆れてしまう。

 ‥そんな、自分勝手な男だったか? とも、わがままを言うこともあるんだな、とも同時に思い、少し首を傾げた。

 記憶の中の四朗は、少なくとも、そんな人間っぽい行動をとる男ではなかった気がする。

 しかし、

「ほんとにすいませんね。あのバカのせいで、貴方にご迷惑をおかけして」

 幼馴染に代わってフォローしておく。

 心なし声が優しくなるのは、目の前の幼馴染の中身が女の子だと知っているからだ。

 武生だって女の子に冷たくする気はない。

 ましてやそれが、何となく気になりだした女の子だったら尚更だ。

「いえいえ。ホントに大丈夫ですよ? 」

 紅葉はいつもの穏やかな微笑みを武生に向けた。

 


 でも、その姿は四朗のもので。

 この頃の四朗の変化にまだ順応しきれていなかった「昔からの四朗ファン(!)」の子たちは、その「ちょっと前までの四朗の微笑み」に「やっぱり、武生君にだけは素がだせるのね」と邪まな視線をよこしたり。

 そして、その様子を一際不機嫌な顔で見ていたのが、同学園の中等部、四朗たちの四年後輩にあたる相馬 菊子、相馬 武生の妹だった。

 相馬家は、跡取りである相馬 三郎、武生、菊子の三人兄弟で、紅一点である菊子には、兄弟、両親ともに甘かった。

 だから、憧れの幼馴染・四朗と結婚したい! と言い出した時も、武生は

「菊子がそういうなら、四朗には拒否権などあるはずもない」

と決めたのは、武生だった。

 (四朗たちが七歳位の時のことで、当時は今よりずっと武生はガキ大将体質だった)

 


 子供が決めたことで、何の威力もないといえばそこまでなんだけど、菊子はかなり本気だった。

 以降、菊子は事あるごとに両親、親戚に許嫁アピールをして、周りの大人もその可愛らしい様子に相好をくずす。

 そう、菊子の計画はあのころから着実に水面下で進められていたのだ。

 もちろん、周りに対するアピールも忘れない。どこにいるかわからない四朗のファンに対する牽制も忘れない。昨日今日現れた女に「あんな子、相手にならないわ」などとは思われたくない。

 四朗の許嫁として恥じないように、美容に気を遣ったから、学校でも美人と評されている。苦手な勉強だって四朗のためを思えば苦にはならないから不思議だ。

 総ては、四朗の許嫁と認められたいがため、だ。

 そう、四朗様は私の総てだ。

 だから、

「兄さまにだって、四朗様は渡しません! 」

「え?! 何言っているんだ? 菊子」

 急に自室の襖を開けられて、叫んできた妹に、武生は目を見開いて驚いた。

 常には見ない兄の顔に、菊子も多少驚いたが、こんなところでひるめない。

「兄さまが、学校で四朗様と見つめあってらしたと、四朗様通信に出てました! 」

 もう何のことか分からず、武生は目を見開いたまま菊子を見つめた。菊子が睨み返してくる。

 と、そこでため息を一つ。

 まあ、よくあること、だ。この手の噂なら、実は自分の耳にも入って来ている。

 だが、自分の妹の口からきかされるのは、また違うな。なんというか、破壊力が半端ない。‥自分の精神の

 だけど、

「なんだ? その通信、しかも見つめあってはいない」

 眉間にしわを寄せて、何とか常と変わらないテンションに戻す。

「通信は、兄さまと四朗様のカップリングを望んでいるけど、私は認めないわ」

 が、菊子はそんなこと気にしていないし、聞いていない。

「え、何? 何を望んでるって? 」

 先程の驚きを軽く超える爆弾発言を聞き、武生はさらに眉間のしわを深くした。

 でも、やっぱりそんなこと菊子は気にしていないし、やっぱり聞いていない。

「お兄さまは四朗様のナイトという役割なのです。だのに、兄さまはちょっとこの頃、四朗様をお守りできていないように思いますわ! だから、田中さんに四朗様が餌付けされたりするんです」

 武生をにらみつけたまま、菊子がきっぱりと言い切った。

「え? 何。田中? 隣のクラスの田中君がどうしたの? っていうか、餌付けって何。四朗、田中君に餌付けされてんの? 」

 わけのわからないことこの上ない。

 自分の世間に対する認識もさることながら、さっきのあれは何だろう。

 田中君が四朗を餌付け??

 と、その時武生の自室の襖ががっっと開けられて、

「されるか!! 」

 まさに鬼の形相の四朗が叫んだ。

「あ、四朗」

「四朗様」

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