8.あなたはホントに酷い人。
あの子はどんな子だっただろう。
ふと、さっき帰っていった「紅葉」の顔をした四朗がいた場所を見つめながら考えた。
顔は、そうね十歳くらいの頃の四朗と同じ顔だったわ。女の子なら紅葉だろうと思うけど、不思議ねあの面影は四朗だったわ。ここに四朗が来たのがちょうどそのころだった。
私より金に近い‥いシトリントパーズの瞳と、真っ白な肌、は、病気で外に出られないせいだったわね。髪は明るい栗色で。その髪を長く伸ばしてた。
端正な容姿はザ、西遠寺って感じだったわね。
四朗は、自分の顔が相生の顔そのものって思ってるだろうけど、本来の西遠寺の顔そのものなのよ。
先祖返りってやつね。
ああ、今はあの子のことだった。あんまりそっくりだから、私の中のあの子の記憶が四朗によって上書きされていたわ。
‥あの子は、女の子だのに不思議ね、紅葉より四朗に似てる気がするわ。たぶん、性別の問題じゃなくて、性格の問題ね。
出会った頃の四朗の、意志の強さが現れたような目、ぎゅっと噤まれた口。だけど、頬には健康的な赤味なんてなくって、いつも緊張しているようにこわばっていた。紅葉はいつも健康な肌色で、穏やかに笑っている印象があったから、そこらへんが見た目の印象を変えたんだろう。
四朗と唯一違う、長い髪。あの子は、その髪がお気に入りで、いつも綺麗にとかしてたわね。
家から外に出るどころか、布団から出ることも少ないほど病弱。だけど、ちっとも悲観的じゃなくって、いつも前向きで、話好きで、本が好きで。あと、時代劇も好きで「元気になったら、剣の稽古してみたい」って。勧善懲悪のストーリーが好きなのは、正義感が強かったからだろうか。
元気になったら
だけどその願いはかなわなかった。
残された私と姉さんは、あの子のいなくなった部屋に座って毎日泣きじゃくった。
その時、私か姉さんが何気なく口にした
「転生」
って言葉。
私たちははっとしたわ。
そして、私たちなら出来るかもしれない。って。
別に何の根拠もないんだけど。
「あの子を産んで‥産み直して、今度こそは幸せにする。でもそれは西遠寺で、ではないわ」
姉さんはその日のうちに黙って家を出たわ。
そして、それから3年後結婚して子供が生まれたらしいことを知った。旦那さんは、血縁はないのに、どことなく西遠寺の顔に近かった。
あの子に似た子供を産むため、ってわかった。
(それが、たまたまで偶然だったと聞かされたのは、もっとずっと後になってからだけど)
そして生まれたその子が、紅葉だった。
私は、情報を操作して、西遠寺から姉さんを隠した。
本来なら、二人で一人の西遠寺の当主が当代だけ私一人なのはそのため。私は、信用の持てるパートナーを見つけている余裕や時間がなかったから。
でも、ダメだった。
西遠寺の人間には気づかれたくなかったのに、紅葉は少し目立ちすぎだったわ。
だから、今度は私から紅葉に接触した。紅葉のことを、西遠寺に自由にさせるわけにはいかない。そう思ったから。
それこそ、今度こそ「生まれ変わった」あの子を西遠寺に関わらせたくなかったから。だけど、あの子の幸せのために私は何でもしたかった。
私があの子を産みたかったけれど、それは無理だったから。
だけど、久しぶりに会った姉さんは
「紅葉の人生は紅葉のもので、あの子のものではない‥。悲しいけれど、紅葉をあの子の代わりには思えない」
って言った。確かに悲しかったけど、でも嬉しかった。
私も四朗をあの子の代わりには思えなかったから。
だのに、四朗は言うんだ。
私は嫌なのに、本当に嫌なのに。
四朗が四朗でなくなるかもしれない。そんなの嫌なのに。
「だけど、俺は知りたい」
「俺の本当の名前を呼んでください」
って。
ああ、なんで。
あなたはホントに酷い人。
かって、私たちを置いて消えちゃったあの子のように、あなたも消えてしまうんだろうか? あなたは‥
本当に酷い人。




