表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
七章 覚悟
53/165

5.幽霊と人間

「ただいま」

 言った声は、いつも通り華鳥の声。

 顔だってさっき鏡を見た。なんて言っても「鏡」だ。本体が泣こうが、術を掛け直してもらえば、「幻」の方は涙の跡すら残っていない。

 何一つ変わった点はなかったはずだ。

 だのに

 玄関まで迎えに出て来た千佳は紅葉の姿をした四朗を見るなり目を見張った。

「あんたあの時‥くれちゃんの部屋にいた男! 」

 へ!?

 驚いた四朗はとっさに、千佳の腕をひっぱって二階の紅葉の部屋に連れて行った。

「ちょっと! 」

 千佳が小さく叫んで抗議する。

 と、

「どうしたの~? 」

 階下からの母さんの声がした。

千佳は

「なんでもない! 」

 紅葉の腕を払って叫んだ。

「紅葉が帰って来たんじゃないの? 」

 母さんの声が再び聞こえ

「ん、ちょっと宿題教えてもらうから、後で行く」

 千佳がまた叫び返し、紅葉の部屋の扉を閉める。

「で? 」

 紅葉をにらみつけて千佳がすごむ。

「‥え? 」

「え。じゃないわよ。なんでまたここにいるの? っていうか、くれちゃんは? なんでくれちゃんの格好してるの? 」

 言いながらも、千佳にさっきの勢いはない。なんだか、「え? 私何言っているんだ? 」って感じで、何処か自信がなさそうだ。

 さっきまでの確信が揺らいでいる。(なんでだかわからないけど)

 いける。

 四朗は心の中でガッツポーズをして、態勢を立て直した。

「何言ってるの? 」

 しらばっくれよう。

 四朗は紅葉がするみたいに、ちょっと首を傾げて見た。

 このポーズ、紅葉がする分には可愛いが、男の四朗がするとちょっとおかしい。それを分かっての上でのことで、四朗は実はちょっとダメージを受けている。

 しかしその甲斐あって、千佳の顔にますます困惑が広がる。

 まあ、そうだろう。姿は全く紅葉なのだから。

「え? あれ? やっぱり、くれちゃん? だよね? 」

 凄く当惑している。なんか、ちょっと気の毒。

何処(どこ)かおかしい? 」

 でも、追加でちょっと困った顔をして、もう一度今度はこてん、と首を傾げてみた。

 紅葉の困惑した顔に、千佳は弱い。

 七年間で、研究済みだ。

「ううん? 」

 千佳が思いっきり頭を振る。「何でもない。なんでもない。ごめんね」って慌てて腕を振る。

 ‥おかしい。

 くれちゃんにおかしいところは、何処もない。なんでさっきあんな風に思ったんだろう。

 何で男だって思ったんだろう。

「誰かに似てた? 」

「ん。以前ね、くれちゃんの部屋にくれちゃんそっくりの男の人がいる様に見えて」

「え! 男の人? しかも、そっくり? 何それ? 」

 驚いた風に四朗が言った。

 千佳が小さく頷く。顔は真剣そのものだ。

「似ているというか、似ていないところがないというか。くれちゃんとあの男の違い‥。胸がない‥のは、くれちゃんも同じだし、背の高さは‥同じだし、髪の長さ‥あの男は短かったよね‥」

 ‥「あの男」呼ばわり‥

 しかも、「胸がないのはいつも通り」って‥。

 四朗はちょっと目を目を逸らした。そして、

「何で、そう思ったの? 」

 ふ、と、唇だけくいっと上げて目を細める。紅葉らしくない顔で笑ってしまった「四朗」を見て、千佳は咄嗟に赤面して「やっぱり! 」と小さく叫んだ。

 ああ、しまった。

「くれちゃんはどこ! 」

「いますよ。もちろん。ちょっと、俺の方で桜様に用事があって、紅葉ちゃんに頼んで代わってもらってるだけです」

「‥何のこと言ってるんだかわからないんだけど」

 ‥ですよね。

「でも、まあいいわ。くれちゃんが了承済みなら。どうせ、あの女の変な術で見かけが変わってるんでしょう? ホント妖怪じみてる。まあ、いい。ちょっと聞いときたいことがあったのよ。あんたに」

「俺に? 」

 四朗が目を見張る。

「ねえ」

 千佳が、また睨むように四朗を見た。

「何ですか? 」

 長くなりそうな話に、四朗は椅子に座り、自然に千佳がベッドに座った。

「あんたって、くれちゃんの何なの」

 意を決したように、千佳が聞いた。

「何って‥何でしょう」

 紅葉に迷惑をかけている、あんたは一体、紅葉にとってなんだ。という意味だよな?

 四朗は、ちょっと、眉を寄せる。

 紅葉との関係? なんてことはない、従兄弟だ。だけど、たかが従兄弟がこんなに迷惑を普通かけるかって話だよな。

 それに、四朗にとって紅葉は、たかが従兄弟という関係ではない。

 でも、それは恋人だとかそういう関係とは最も遠い。

「恋人? 」

 だのに、千佳がその単語を口にする。

「え!? まさか! 」

 その無神経さ‥みたいなのに、ちょっとムッと来る。

 だから違うって言ってるだろう(実は言っていない)

「なんでそんなに驚くのよ。くれちゃんじゃ役不足ってこと? 」

 千佳が激怒する。

 ホントに千佳の対紅葉と対四朗の対応の違いの差にはびっくりする。

「いや! まさか! そんな話してないよ」「でも。違います」

 千佳の迫力にちょっと押されながら、しかし、否定はしっかりしておく。

 こういうことは、しっかりとしておいた方がいい。

「ふうん」

 千佳が腑に落ちないという顔をしながら、頷いた。

「俺は、誰も好きじゃない」

 紅葉ちゃんだから、じゃなく、だ。

「そういうとこも、くれちゃんと似てるのね」

 なぜか、千佳の声から怒気が薄れた。

 ふふっと千佳が小さく笑う。

「似てる? 」

 四朗が、きょとんとなる。

 あ、間抜け面。

 くれちゃんのこんな顔そういえば見たことない。ちょっと、レアかも。

「性別だけ違うだけで、まったく同じ人みたい」「ちょっと前のくれちゃんと」

 やっぱり、本当に似ている。

 まあ。くれちゃんよりもっとひねてる(?)けど?

 千佳は笑ったけど、四朗はちょっとドキッとした。

 ちょっと前の紅葉ちゃんは、だって俺です。

 って訳だから。

「というか、人間だったのね」

 口ごもる四朗は、次に千佳が言った言葉に思わず耳を疑った。

「え? 」

 千佳を振り返る四朗に、しかし千佳はほんの少しの興味もないように

「あの時急に現れて急に消えたから幽霊だと思ってたの。ひそかに」

 言葉を続けた。

「あながち間違ってない気がします」

 つい、するり、とそんなことを言ってしまう。

 なんだろ。歳は完全に年下だのに、この何かを話したくなってしまう感じ。

 千佳ちゃんは、不思議な子だ。

「怨念・思念が集まり形を成す。その身は、ここにただあるだけで、この世に何も残せない。そういう点では幽霊と俺はおんなじですね」

 こんなこと言っても、変な顔される気がまるでしない。

「なにそれ、哲学」

 やっぱり、面白そうに返しだけれど、その言葉には四朗の言葉を否定するような響きも、まして嘲笑するような響きも含まれていなかった。

「何をもって人間とするかが、って話? この世に何かを残すって、次の世に何かを残すか残さないか、ことかな? 。じゃあ、私も幽霊みたいなものになっちゃうわね」

 さっきまでより、若干優しい口調で言った千佳の言葉は、しかしながら四朗に言い聞かせている様ではなかった。

 ただ、四朗に共感して自分の意見を言っているのに過ぎない。

 そんな感じだ。

「私も、次の世に何かを残そうとなんて思ってないよ」

 ぼそり、と四朗を見るでもなく呟いた。

「というと? 」「子孫ってこと? 」

 四朗が首をすこしかしげて確認をとると、やっぱり四朗を見ずに、千佳が頷く。

「子供‥ってのも考えたくないけど、それよりその先‥」

 孫とかひ孫とかいうことだろう。

「自分の関知しないところで自分の血が続いていくなんて、恐ろしいことだわ」

「インターネット上にアップした情報が自分の手を離れて拡散され続けるような感じね」

 確かに、孫は自分の意志でできるものではない。自分の子供の意志だ。そういうのが嫌だと言っているのだろうか。

 でも、最後の‥それは違う気がする。

 情報の一人歩きと子供の意志を一緒こたにするあたり、そこらはちょっとさすがに共感しかねる。

「私は、ね」

 微妙な顔をして四朗が黙っていたら、何かを察したらしい千佳が、誤魔化すように言って話を締めくくった。

「子供が出来なくっても‥。まあ、何処かにいるんじゃない? あなたがいればそれでいいって人が」

「俺がいれば‥。例えば千佳ちゃんは、俺だけじゃダメ? 」

 と、その声が思ったより必死っぽくて、言った四朗は自分に驚いた。

 何だこりゃ。

「‥あんた、その顔で誰彼構わずくどいてんじゃないわよ。くれちゃんが汚れるような気がする」

 そう言った千佳はちょっと頬を赤くしているが、これは「デレ」ではない。「テレ」だ。例えていえば、家族でテレビを見ているときに、ドラマがちょっとエッチな場面になりそうになりそうな感じがして、目の前の両親が焦ってる。ってのが分かって、イヤに照れる、焦る? まあ、あんな感じだ。

「くどくって‥」

 思いがけないセリフに、赤面したのは今度は四朗だ。

「女の子に、思わせぶりなこと言う人って、そういうのチャラいっていうのよ」

 目の前で慌てふためく相手に、千佳はちょっといたずら心が起きた。というか、茶化してこの話題を終わらせてしまいたいと思ったんだろう。

「チャラい‥」

 四朗は言葉を失う。

 チャラいのは、相崎だけで十分だ。

 軽いショックを受けていると千佳が笑った

「さ、しゃきっとして! 母さんが待ってるからご飯、行こ? 」

 と、こいつ、くれちゃんの箸使うんじゃないでしょうね。‥割りばし出しとこ。

 千佳がその笑顔の下でそんなことを思っていたことは、もちろん四朗は知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ