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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
七章 覚悟
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3.だから、伊達や酔狂でこんな格好しているんじゃないんだってば!

「わかりました。いえ。大丈夫ですよ」

 四朗からの「一日延長してほしい」との電話を受け、快く承諾したものの、紅葉は小さくため息をついて携帯を鞄にしまった。そういえば、例の入れ替わりの時、携帯を取り換えるわけにもいかないので、二人とも携帯番号を変えた。しかし、幸いお互いに知り合いが少なかった為、番号の変更連絡は物の数分で終わった。

 さて、急なお泊りだ。色々と用意のいる女の子には、それはかなり「有り得ない」ことだろう。それは、紅葉にもしかり、だ。しかしながら、

 着替えの下着、持ってきてないなあ。

 って位の問題なんだけど。

 後でコンビニで歯ブラシセットと一緒に買ってこよう。コンビニに売ってたよね。タンクトップとか。

 年頃の女子とは思えない逞しさだ。

 ブラだとかなんだとか。悲しいかな、紅葉には必要がない。全くないと断言できるほどまっ平なんだ。

「四朗」

 突如、後ろから声を掛けられたが、何といっても七年間呼ばれ慣れてきた名前だ。むしろ、その名前の方が馴染んでいると言ってすらよい。条件反射で振り返った。

 しかし、振り向かなくても分かる、その声は‥

 相崎の明るい声ではない。(そもそも、相崎は「四朗」とは呼ばない。)

 一瞬自分の胸が一つ大きくはねたのが分かった。

「武生‥さん」

 動揺する心を抑えて、振り返ると声がちょっと裏返った。

 しかも、「さん」とかつけちゃった。

「何。四朗。気持ちが悪い」

 低めの‥でも、四朗の艶のある声とは違う、ちょっと重い声。

 短い髪は、如何にも清潔なその人の人柄をよく表している。真面目な性格そのものの低く重い声。常に笑顔で、ある意味無表情な四朗とは違う、本当に不器用で表情の少ない素朴な人。口数が少なくって、無駄なことなんて言わないし、しない。だけど、そこにいるだけでなんだか安心できる、頼りになる。

 四朗の幼馴染の一人である相馬武生がそこにいた。

「あ、ごめん‥」

 よく、今まで「わからなかった」とはいえ、平気に暮らしてきた。

 それにしても、久しぶり。武生さんと会うのは。

 いや、でも一か月たってないんだな。意外だけど。

 心臓が苦しい。なんだろ、ドキドキする。

「四朗? 顔が赤いけど、具合でも悪いの。保健室行ってくれば」

 見たまでの事を言って、一般的に言うであろうことを、言う。

 面倒見がいいように思われている武生さんは、しかし、別に四朗を心配して行動しているわけではない。

 ただ、四朗の面倒を見る様に言われているから、世間一般的な程度に面倒を見ているに過ぎない。

 今まで「四朗として生活している紅葉」に過剰に親切だったのは、ただ単に月桂の洗脳によるものだ。

 だけど、今までの対応が偽りだったと知れても、やはり寂しさは感じる。

 今だって、「以前だったら、「保健室に送ってくよ」って言ってくれてたかなあ」って考えてしまう。

 ‥考えるのやめよう。特に今の姿(四朗の姿だ)だったら、まるっきり変態じゃないか。

 それにしても‥私もしかして、武生さんのこと‥。

「‥今日は道場の日だけど、休んだほうがいいな。顔が赤すぎる。やっぱり保健室行った方がいい」

 小さくため息をついて、武生がふいに四朗の腕に手を伸ばした。

 ぼーとしていた四朗な紅葉は、そしてそのために、対応が一瞬遅れた。

「え?! 」

 しまった、今は月桂による「干渉」がない! 

 今は、月桂には声の方のサポートを中心に入ってもらっている。そういうときは、自分で他の事には気を付けるんだ。いくらスペックの高い臣霊である月桂であっても、あれもこれも、は物理的に無理だから。

 ちなみに、鏡の秘術は鮮花が担当している。

 今までだって、無自覚とはいえ、自分で気を付けてきた。

 いつも気を張って、他のものに触れられるということは、まあほとんどなかった。その「殆どない」可能性だけは、臣霊が潰してきた。

 例えば、武生にかけた洗脳がそうだ。

 でも、今は「気づいた」今は、その「殆ど」は自分で潰すべきことだった。

 そして、紅葉は実際うまくやってきた。‥といって、気づいて以来、他人のふりをして暮らすことは、殆どなかったわけだが。

(実は、桜が紅葉として四朗に会いに行った時、桜として暮らした。その時は、一日庭を眺めて暮らした)

「四朗、この腕‥。でも、なんかこの感触覚えがある‥。え?? 」

 今の紅葉の顔は赤くない。青いというより、もう血の気が失せて真っ白になっている。

 が、鏡の秘術が破れるのは、かろうじて鮮花が持ちこたえた。月桂が慌ててそのサポートに入る。

 この秘術は、術者(この場合臣霊)と被術者(紅葉)の精神のシンクロが重要になる。それこそ、鏡だから。

 しかし、今紅葉は動揺しまくっている。それこそ、術者が二人がかりでも合わせきれないくらいに、だ。とりあえず、茫然としている紅葉の体を乗っ取って、武生から反射的に離れた。

 バレなかったか?!

 しかしその考えは甘かった。

 武夫の目がそのことを物語っている。そう咄嗟に気付いた月桂は、しかし、「武生から反射的に離れようとして、うっかりカツラが取れました」というシチュエーションを偽装するのが、精いっぱいだった。

「女の子? ‥君は‥誰だ? 」

 目の前にいるのは、四朗のブレザーを着てはいるが、髪が長く背も少し低い常の四朗よりもっと、華奢な‥どうみても女の子だ。そして、足元にはさっきまでつけていたと思われるカツラ。

「あ、紅葉ちゃん。来てたの~? ‥もしかして、今日四朗の代わりしてた? 」

 呆然と立ち尽くす紅葉を遠くから目ざとく見つけた相崎が、にこやかな表情で小走りで駆けながら声をかけた。しかし、「四朗の代わり」だけは声を落とす。

「あ!! 相崎! ‥さん」

 いえ、あの。まずい。やばいのに見つかった。

 紅葉は、ちょっと眉を寄せた。しかし、それは本当に「ほんのちょっと」だったので、傍目からはそれはわからなかった。

「まあ、そんなのどうでもいいや。もう学校終わったし、一緒に遊びに行く? 」

 紅葉の前についた相崎が、にこにこと機嫌よさげな顔で言った。

 そして「そう言えば、その制服着てるのに髪の毛がそのままって、初めて見る」なんて紅葉に話しかけるでもなく呟いた。そして「もう、変装の域だよね」と感心したような声でその呟きを終結させる。

 ‥まさに、その通り。変装です。

 とは、言えない。

「え?! 相崎と知り合いなのか? っていうか、四朗の代わりって? 」

 なんの疑問も持たず、軽い口調で声をかけてくる相崎は相変わらずとして、こんなに狼狽えた‥というか、動揺している武生を見るのは初めてだ。

 現実逃避して、「レア! 」とか思っちゃいそうだ。

 しかし今は、もちろんながらそんな間ではない。

「え! いえ! 今日は武生さんに用事があるので! 」

 と、これは「知り合いなの? 」という武生の質問に対する答えでなく、先ほどの「遊びに行く? 」と聞いてきた相崎に対しての答えだ。

「ね! 」

 まだ動揺している武生の腕を無理やり掴んで、ダメもとで目配せをする。

「え? 」

 掴まれた腕を見て武生が一瞬きょとんとした顔をする。

 あ、この顔もレア。

 どうしよ。こんな場合だのに、つい見てしまう。

 追い込まれた紅葉は、もう色んなことで、いっぱいいっぱいだ。

「そう? 」

 相崎が首をかしげる。

「え? あ、うん、そう」

 動揺したままの武生は、しかしながら、何とかそれだけ言って、相崎に腕をちょっと挙げて別れた。

「照れてるのかな? 」

 と、まあどこまでもおめでたい相崎は肩をすくめて二人の背中を見送った。



「すみませんでした。あの、ちょっと姿を戻しますね。この格好でこの姿ってちょっと‥じゃなく、だいぶやばいので」

 自分が今着ているのは、男物の制服だ。見知らぬ女子が男物の(しかも、相生と名札のついた)制服を着ているのは、どう考えてもおかしい。

「姿を戻す? 」

 まさか、鏡の秘術で変化したことをばらすわけにはいかない。だから、月桂に協力してもらい、「あたかもカツラを被りますよ」という風に見せかけて、紅葉は鏡の秘術をかけなおしてもらった。

「お待たせしました。もう大丈夫です。さっきはすみませんでした」

 いっぺんに話しながら紅葉は頭を下げた。いろいろ胡麻化しちゃおう戦法だ。

 しかし、カツラを付けただけのはずなのに、すっかり「四朗そのもの」に戻っている目の前にいる女の子を武生はただ信じられない顔で見つめていた。

 まあ、そりゃあそうだ。そんな簡単なものではない。

 そう思って、紅葉は背中にいやな汗をかいていた。

「ちょっと説明してもらっていいでしょうか」

 まだ話が飲み込めない武生は、目の前にいる「幼馴染に変装した見知らぬ女子」に対して、敬語で話しかけた。

 まあ、そうなるだろう。

 しかし、見知らぬだろうか? とも思う。

 さっきの腕の感触。あれは、やたら覚えがある。

 記憶はいつも、なんだか曖昧なんだけど。だけど?

 武生はぐるぐるとそんなことも思った。

「さっき相崎さんが言ってた様に、私は今まで何度か四朗君の身代わりを務めてました。‥柊 紅葉と申します」

「はあ」

 武生は、勿論のことながら全然納得していない。

 そりゃそうだろう。どこに納得できる要素があるのだろう。

 私が武生さんの立場だったら、やっぱり私でも納得はしないだろう。

 むしろ、相崎はなんで納得したんだろう。そっちの方が疑問だ。

「四朗君は極秘で今とある研修に行っておりまして‥。その間、私が四朗君の代わりにこちらに来てます。なんといっても、極秘ですから。私のほうは‥まあ、将来の仕事の‥研修です。変装の練習‥だとか? 」

 ‥何言ってんだろ。ほら、月桂も呆れた顔(いや、顔はわからないけど、呆れている雰囲気は嫌なほど伝わっているよ)してるし、鮮花は、だのになんでちょっと面白そうなんだ! 

「仕事のことだったら、俺にも何か連絡があってもおかしくはないはずなんだけど‥」

 なんだ? 極秘の研修。

 なおも考えようとする武生に、

「いや、事情があるんですよ! ホント。今は話せませんが。いずれお話はさせて頂きます。いや、ホント、伊達や酔狂でこんな格好しているんじゃないんですって! 」

 紅葉は、きっぱりと宣言した。

 ホント、四朗君ごめん! 後で、話し合いしましょう。

「そりゃあ、‥そうですね。わかりました。下手な追及はやめます」

 たしかに、「伊達や酔狂で」する格好ではない。

「それにしてもそっくりですね」

 似てるかな? 

 確かに従兄弟なんだけど、ね。

 紅葉は、ちょっと首を傾げた。


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