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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
六章 迷い・戸惑い
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6.仕方がないじゃない。

 じゃあ、仕方がないじゃない。

 って、思う。

 だのに、そんな悲しい顔させるような話ならば、たったと終わったほうがいい。とも。

 だって、仕方がないんだから。

「お話は分かりました。では、母さん。気を付けてお帰り下さい」

 来ているのが、本当に紅葉であったら、また家に寄ってもらったらいいが、紅葉に見える目の前の人は、桜だ。父さんにもまして、母さんにも会いたくはないだろう。

「四朗、あなた」

 桜が眉を寄せて、四朗を見る。

 何かを訴える様な、それでいて、何か苦情を言おうとして睨むような、目だった。

 四朗は、困った様な顔で口角と肩をちょっと上げた。

「大丈夫ですよ。僕は、まあ驚きましたが、何も変わりません。‥そうですね、誰かを好きになるっていうことは、試してみます。何かをしないよりましですものね」

 と、咄嗟に相生スマイル。綺麗で完璧な笑顔。

 そういえば、桜相手だと、こうやって笑うことなんてなかった。四朗にとってこの笑顔は、ほぼ条件反射だと思っていたのに、桜に初めて会った時から、そういえば、この笑顔を桜に向けることは無かった。

 向ける必要はなかった。

 それだけ、桜に気を許していたってことなんだろうか。

 そう気づいてほっこりした。

「四朗‥」

 桜は、かける言葉が分からなかった。ただ、黙って四朗の事を抱きしめた。

 四朗は、その背中を宥める様に撫ぜた。

「仕方がない事です」

 そう言って、桜を宥める。

 その背中は、紅葉の見かけとは違う、あまりにも細い、か弱い背中だった。そして、微かに震えて泣いている様にも思えた。



‥聞いておいてよかった。心積もりが出来た。‥俺でも、し残したことやら、片づけておかなければならないことはある。こういうこと、先に分かるに越したことはない。

 否、あるかな。し残したこと。片付けおかなくちゃいけないことも、然りだ。

 ‥本当にそうだろうか? 本当に、そんなものあるだろうか?

 跡取りといえど、たかが高校生だ、相生の家においては、まあ、何もすることは無い。

 会っておきたい友達だっていないし、伝えなければいけないこともない。

 そうか。この現実こそが、俺の今までの人生の総てなんだ。

 心残りもなく、別に悔やまれるようなことも、また、ない。



「兄ちゃん、何紅葉さん泣かせてるの」

 しんみりを吹き飛ばすような、博史のちょっと怒気を含んだ声。

「! 」

 四朗は、慌てて桜から離れようとしたが、肩に頭を乗せている形になっている桜が動こうとしなくて、ちょっと焦った。

「博史」

 桜は、まだ俯いて四朗の肩をつかんだままだ。

「もしかして、気になって見に来たの? 」

 四朗は、桜の背中越しに博史を見た。

 最初からいた? ってことは無いな。誰かがいる様な気配はなかった。

 行く気はなかったが、でもやっぱり気になって来てしまったっていうところだろう。

「違うよ! 」

 博史が即座に否定した。

 が、この口調は、図星だな。「それはそうと‥」一つ、咳ばらいをして、博史が話題を変える。ふっるい話題のかえ方だなあ、お前、実はおっさんだろ? と、四朗は呆れ顔になる。

「兄ちゃんが今日会う相手って、紅葉さんだったんだね。なら、家に来てもらったらよかったのに。母さんたちも喜ぶよ」

 え、あなたたちそんな感じなの? 

 って思われるだろ!

 四朗は思って桜の方を焦ってチラ見した。しかし、四朗の肩に顔を伏せている桜の表情は分からなかった。

 何を焦っているんだ俺は。落ち着こう。ここは、あれだ。さっきの博史だ。

 四朗は一つ咳ばらいをした。

「‥悩み相談に乗ってたんだよ、だから、家ではちょっとね」

 桜を肩からさりげなく降ろしながら、四朗が言うと、

「デート? 」

 にやっと笑って、博史が冷やかして来た。

「違う」

 四朗にとって、全く身に覚えもないので動揺すらしない。全くのスルーだ、

「ふうん? 」

「うわあああん」

 と、今まで落ち着いていたと思っていた桜が、急にしゃくりあげる様に泣き出した。

「な?! 」。

「どうしたの!? 」

 四朗は驚いて、桜を覗き込んだ。しかしむしろ、もっと慌てふためいたのは博史だった。桜の後ろから、そのまま突っ伏しそうになる桜を支えた。

「紅葉さん?! やっぱり、兄に何か言われたの? 」

「四朗が死んじゃうなんて、仕方がないじゃ済むわけないじゃない‥っ」

 と博史の腕を振り払って、桜がわあわあ泣きながら叫んだ。

「え! 何!? 冗談でも止めてよ! 何、兄ちゃんどういうこと! 」

 博史が四朗を振り向く。

「だって、四朗は、なんで‥そんなに、あきらめがいいのよぅう」

「ちょっと、紅葉さん落ち着いてよ。落ち着いて、何があったか説明して?! 」

 ‥なんだこりゃ、修羅場だ。

 四朗は、遠い目をして二人を見た。

「あ、いや。紅葉ちゃんの冗談じゃない、かな? 」

 棒読みで博史に説明するも、やけに興奮している二人にその言葉は届くはずはなかった。

「兄ちゃんは、ちょっと黙ってて! 」

「紅葉さん! 」

 そして、博史に何もかも話しだした桜に焦ったり、その後、大泣きしだした二人に焦ったり、四朗はもう大パニックになった。勿論、何かを出来るわけではなく、オロオロと二人の顔を見比べているだけだ。

 ただ、桐江だけは終始冷静に少し離れた場所で立っていた。表情を変えることもなく、何かを言うでもなく、だ。

 それ、逃げてるんですよね?? 

 俺も、傍観したいです!

「兄ちゃん、もしかして有効かもしれないから、恋をして! 今すぐして! 誰かいるでしょう。いざとなったら、武生さんでも、ぶっちゃけいいよ! 」

 博史が目から盛大に涙を流しながらがばっと顔を上げて、四朗に詰め寄った。

 は!? 

「なんで、武生なんだよ! 」

「兄ちゃん、一目惚れとか無理なタイプじゃん。じっくり、信頼関係とか築いてってタイプじゃない。今からそんな時間ないよ! 」

 不機嫌な声になる四朗に構うことなく、博史がなおも四朗に詰め寄る。

「だからって、なんで武生! 俺、男と恋愛とか当り前だけど無理だけど! っていうか、落ち着け、落ち着いて発言しろ! 」

「誰、武生さん。いいわ。今すぐ呼んで、武生さんを。桐江! 今すぐ」

 桜が、博史がいるというのに「紅葉ちゃん設定」をすっかり忘れて、桐江に支持を出した。

「あ、後、相崎さん」

 勿論そんなことに気が付かない博史が付け加えて、何故か同じように桐江に支持を出す。

「いい加減にしろお~! 」

 そんな嫌がらせ受ける位だったら、大人しく無に帰った方がましだ!

 四朗は一瞬真っ青になって、しかし、血管が切れそうな位真っ赤になって叫んだ。

「‥四朗様、諦めてください」

 だって、桜様です、仕方がないでしょう? 

 その眼は、そう言っていた。


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