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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
六章 迷い・戸惑い
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4.夢の続き

 あの時、相生のお父様に

「息子がお望みですか? 西の姫君。では、お心のままに」

 って言われて‥

 普通だったら

「自分の意志はどうなる! 」

 と反論があって然りなあの人が、お父様に逆らうことは、だけど、なかった。

 私が考え直すなんてこともなかった。

 だから、本当にいうと、あれはただの強制で、‥家的に相生の家にはきっと利があるだろうから、政略結婚といってもいいようなものだった。

 あの人の方には、私に対する愛なんてあろうはずはなかった。

 だけど、私は四朗にはそう言えなかった。

 一生言いたくないわ。

 あの人が私のものになったことなんてほんの一瞬もなかったんだけど、四朗は私たちの息子。その事実は変わらないから。

 たとえ、あの子が‥ 



 桜は、いつもより幼い子の様に見える容姿で疼くまって、自分の腕を抱き込んだ。その様子は不安げで、本当に幼い子供のように見えた。

 ‥楓‥

 今の桜の姿そのものの年齢で、成長を止めてしまった幼い妹の楓。

 その喪失感を埋める術がわからなかった。

 寂しさの余り作った初めての臣霊に、その名前を付けた。

 性別は、特に定めなかった。あの、幼い妹にとって性別が必要だとは思えなかった。否、考えたくなかった。それは、あの頃の少女故の潔癖さでもあった。

 性的なものに対する嫌悪。自分に、そんな感情がある‥そのうち持つであろうことに対する、恐れ‥。

 可愛がった臣霊は、そのうち、マスターと呼ばれる程の信頼感を持ってくれる程私になついた。

 だから私はそんな「お人形遊び」に夢中になって、いつしか楓を失った悲しみを忘れることができた。 否、楓に対する執着は、すっかりその臣霊に対するものにすり替わったのだった。



 そして、私は恋をした。

 叶わない身だのに、恋をした。あの人に‥。


 

「ちょっと、今度の休日出かけてくる。友達とちょっと遊びに行く約束したんだ」

「彼女? 」

 何となく、机の上のカレンダーに目をやり、「ん」と頷いた博史が、からかうように言った。

 途端に、四朗にちょっとしらっとした顔をされる。

 別に、高校生にもなって彼女の一人くらいいてもおかしくはないだろう?!

「違う」

 だけど、まあ、そうなんだろう。この兄は。

 顔だって人並み以上に良くって、運動も出来る‥このハイスペックな兄から、そういう話題が出ることは今までなかった。今からも出る気がしない。

 多分すごく潔癖なんだろう。

「さいえんじさんに会いに行くの? 」

 何故か思った。何故っていっても、完全に勘だ。

「さいえんじ、何? ‥ああ! あれは、「さいえんじ」じゃなくて「さいおんじ」だよ

‥って、なんで‥」

 と四朗は、ふと、机の上に戸籍謄本が置かれていたのを思い出した。

 戸籍謄本には、実母の名前が出ている。あれを博史も見たのか。

 確認の為に心の中で月桂に問いかけると、月桂も頷く。一緒に見たというのだ。

 では、質問を変えなければならない。

「なんで、そう思う? 」

「勘」

 本当にそうなんだろう。博史が肩をすくめる。

「‥勘? 」

 鋭い博史に驚愕していた四朗は、博史のその言葉と様子にちょっと拍子抜けした。

「っていうか、兄ちゃん。なんで読み方までわかったのさ」

「何となく。ちょっと調べてみただけ」

 言いよどむ四朗の代わりに四朗の口を借りて答えたのは、月桂だった。

「関係はないんだけどね。実の母さんとかそういうこととは別に、単純に名字が気になったから」

 月桂が続ける。

 うん、確かに今までの『紅葉ちゃんな四朗』ならこう言いそう。

 ここは、今まで通りこのスタンスで通せということなんだろう。

 紅葉ちゃん、家族想いそうだもんなあ。博史がくれた誕生日プレゼントとか母さんが送ったお守りとかいまだに持ってたし。

 そして、月桂もそれを尊重しろ、そういうわけだね?

「うん。で? 」

 その答えに博史も満足したようだ。

「え? 」

「どんな家だったの? って、分かるわけないか」

 博史は桜を一般の人だと思っているから、それは当然の態度だろう。一般の人をネットで調べたからといって、出てこない。

 まあ、西遠寺だって隠されているからという意味で、出てこないわけだけど。

 だから、四朗としても、

「珍名さんではあるよね」

 こうだ。

「そんだけ? 」

 笑ってしまった博史だって、「そうだろうな」としか思わないわけだ。



「紅葉ちゃん」

 待ち合わせ場所に佇む少女の姿に、四朗は驚いた。

 しかし、すぐに

 いや、違うな。これは、「鏡」だ。

 気付いた。この気配は

「‥母さん」

「あの人に会ってしまったら‥嫌だなあって」

 桜がはにかんだような笑顔を紅葉の顔に浮かべる、

「父さん? 」

 桜が今度は困ったような笑顔を浮かべ、黙って頷いた。

 まあ、ねえ。別れたわけだしねえ。

 四朗もそれ以上何も言えない。

 と、突如、桜が顔を上げて四朗を見上げた。

 その身長差、十センチ強。

「四朗、あなた好きな子とかいないの? 」

 自然に上目遣いになった美少女が、突如言った言葉が、これ。

 あれだ。もし、四朗が紅葉のこと好きだったら「そうか、俺は問題外なのか」とショック受けたりするところだし、相崎なら。ここぞとばかりに「それは君さ」というような場面だ。

 しかし、ここには相崎はいないし、四朗も別に紅葉に興味はない。

「え? なに急に」

 いつもの如く、しらっとした顔をする。そして、そんな(変なことをいう)母をたしなめるように

「そんな話しに来たわけじゃないでしょ」

 言った。桜は、そんな息子の態度にちょっとむっとした顔になる。

「そんな話しに来たのよ」

 そして、更に声を小さくして

「今はその理由は言えないけど」

 と、付け加える。

「なにそれ」

 四朗があきれ顔をする。桜は、口を尖らせて黙ってうつむく。

 その様子は、まんま子供が拗ねたときの表情だった。しばらくそうして黙っていたが、意を決して顔を上げると

「とにかく早く作んなさい」

 ビシッと四朗に言い放った。そして、睨むように四朗を見ながら

「じゃないと、あなたそろそろ‥死ぬわよ」

 低い、小さな声で四朗に呟いた。


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