3.四朗、お前はロボットか?
さて、週末の秘密特訓を経て、今日は相崎と四朗のリベンジ試合です。
会場にはどこで聞きつけたか、黒山の人盛りです。
コートを一面貸したテニス部は、迷惑そうに
「こっちのコートには入るな。踏むな」
と野次馬相手に声を張り上げている。
「テニス部に迷惑だから、たったと終わらせよう」
自信満々な相崎は、今回もやっぱり負ける気はしない。
「ああ」
うんざりとした顔の四朗は「じゃあなんで、もう一回させられるのだ」という顔だ。特訓はしたが、リベンジを申し込んだのは、別に四朗ではない。
「しんちゃん、再試合を受けてもいいよ。いや、受けてあげるよ」
と、相崎が無理に決めたことなんだ。
ほとんど女の子の観客も、その時その場にいたメンバーだ。
‥モテたいからって、そこまでするかね‥。
四朗は呆れてしっまった。
「さすがにこんなに観客がいる中で負けるのはいい気がしないな」
ため息交じりに四朗が言うと、
「おやおやご謙遜を」
相崎がにやりと笑った。機嫌が頗る良さそうだ。
で、今のこの状態に至ったわけだ。
「先に‥。俺サーバーでいい? 」
四朗が相崎の返事を待たずに、サーブを打つためにライン際に行き、ボールを手に取る。
「おい‥。って、仕方ないな」
あくまで、ハンデだ。
相崎も、サービスコートで構える。
試合開始の合図共に、四朗の速いサービスが、サービスコートに入る。サービスエースだ。
「は‥」
相崎が息を飲む。
「‥見たか。全国大会出場・相生博史直伝の「地獄サービス」だ‥」
だせぇネーミングだな、おい。
相崎の顔が引きつる。
「何、ひろくんに特訓して貰ったの」
呆れ顔で言った相崎に、四朗がちょっとにやりと笑った。幼馴染だ、勿論相崎は、四朗の弟である博史にも面識があって、「ひろくん」と呼んでいた。博史は不満そうなのだが。
「もしかして、サーブだけ? 」
「ご想像にお任せします」
にやりと笑ったまま答えない四朗の態度に、相崎は確信を得た。
「じゃあ、勝ったな! 」
煽る相崎に、四朗はまたにやり。
結果、あのサーブあのサーブでその試合をサービスキープする。
「今度もサーバーで‥」
「ぬかせ! 」
「‥ハンデ」
「相生君、相変わらずだな」
池谷がその二人のやり取りに爆笑する。
「なんか可愛い~」
と、まあ女子の意見も何となく頷ける田中。この頃、四朗に対する親近感半端ない。
「たったと試合を終わらせろ~」
テニス部の声が低い。
「で、やっぱり今回も俺の勝ち☆ しんちゃん、サーブ以外にも練習してこなきゃだよ」
勝ったことで、相崎の機嫌はすこぶるいい。女の子に囲まれて、期限は更にMAXだ。
四朗は、女の子から差し出されたタオルを、笑顔で断りながらコートから出て行く。それをゆったりと追いかけながら
「相変わらずつれないなあ。しんちゃんは」
と、呆れ顔を作って見せる。
「モテたいとか、ないの? 」
「ない」
「四朗、お前はロボットか? 」
珍しく、「しんちゃん」では無く「四朗」と呼んで相崎がちょっと真剣な顔を作った。
「相生らしくないぞ」
またそれか。四朗がうんざりした顔をしかけていると
「四朗。まだ学校にいたのか? 遅れるぞ」
四朗たちの後方から聞こえた、低いけどよく通る声。
四朗は、仏頂面したもう一人の幼馴染の声に、「天の助け! 」とばかり顔を輝かせて踵を返すと、相崎に手を振って別れた。
「逃げたな」
苦笑いする相崎。
「四朗様、嬉しそうね」
「やっぱりあの噂」
楽しそうに無責任なことを言い合う女の子たち。
「止めてやって‥」
四朗を庇うふりして楽しそうな相崎。
そんな会話を耳の端に聞きながら
「あ、武生。先行っててくれない? 汗だくになったから、服換えていく」
四朗は、目の前の武生に教室に戻ることを伝える。
鞄も置いてあるし。
「ん」
「何、これから道場? 」
ひょこりと、四朗を振り返って、相崎が叫ぶように聞く。
「ああ」
それに腕をあげて答えると、四朗は一人で教室に向かうのだった。
‥また負けたか。
負けず嫌いの四朗だ。悔しくないわけはなかった。
しかしそれよりも。
‥さっき、なんかの感覚がつかめそうだった。
その事の方が気になった。
何か‥相崎の息というかが伝わってきて‥あれか、西遠寺の鏡の秘術。あの息遣いごと、全部映して、そのまま‥相手に合わせる。そして、反撃のチャンスをうかがう‥。
もう少しで分かりそうなんだけど‥
「ん。携帯‥」
教室に戻ると、鞄の中で着信を知らせて、携帯が光っているのが見えた。
発信者をみて、思わず目を見張る
「え? 桜‥母さん? 」




