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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
五章 周辺事情
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6.紅葉の大事な思い出

 その後、「デート」(?)を続けるのも、なんだかなあって感じで、お茶を飲んで別れることになった。その際、次の約束を取り付けたがる相崎は、四朗が黙らせて先に帰した。

「それじゃあ。四朗君また」

 紅葉が、携帯電話を鞄から出しながら言った。桜に連絡を取るのだろう。

 その時、ふと四朗が

「うちん家に寄ってかないの? 」

 と、聞いた。

 変な話だが、何となくそう思った。 

 言ってすぐに、変なこと言ってしまった、と思った。

 彼女を家族に紹介するわけではないんだから、と思う。だけど、七年も家族として生活してきたのだがら、とも思う。

 しかし、暫く考える様な顔をした紅葉からは

「それは‥そうですね。お邪魔してよろしいでしょうか? 」

 と、まったく予想外の答えが返って来た。

「え? 」

 それには、思わず(自分から言ったのに)四朗が驚いた。

「あ、家こっち‥って知ってるよね」

 動揺したからか、ちょっと変な感じになってしまった。

 七年も身代わりをしてもらっていた人だけど、当然のことながら、ろくに知らない。話したこともあまりない。

 家族のほうが、親しい人。

 勿論、家族はそれを知らないんだけど。

 家に着いて、博史との部屋に案内した。(って、ここも知ってるわけなんだけど)

 清さんと母さんが、驚いた顔をした後、ちょっと嬉しそうな顔をした。

 って、違うからな!

 襖を閉めると、紅葉はすっと立ち上がり、四朗に一言断わると、引き出しの中から黄色と青の折り紙で折った「手裏剣」を出した。

 そんなの入ってたのか、気が付かなかった。引き出しってこの頃案外使わないからなあ。

「これ、十歳の誕生日に博史君からもらったんです。‥記念にって思って」

「博史から」

 そういえば、九歳の時にももらったな。あの時は鶴だっけ、奴さんだっけ。やっぱり折り紙だった。いつの間にか無くなってたんだけど、紅葉ちゃんはそれを大事に持っていたのか。

 そうして、もう一つ。

「これはお母さんから」

 白い封筒。それも七つも。

「お守り‥」

 学業成就、交通安全‥。交通安全が殆んどだったけれど、最近の分には健康祈願と書いてあった。

 一か月に一回ほどメンテナンスで学校を休んだとか、報告を受けてたから、母さんには心配させてたんだろう。

 メンテナンスってなんだ?

「これを頂いても? 」

 それらを手に持つ紅葉に、四朗は頷いた。

「それは、紅葉ちゃんのものです」

 紅葉はそれは嬉しそうに微笑むと、それらを鞄に大事にしまった。

「なんか、変な話だね。本当に、すみませんでした。紅葉ちゃんの大事な七年間を‥」

「楽しかったですよ。家族はみんな優しかったし、相崎はあんな感じで見てていつも‥面白かったし。面白いといえば、相崎の、今まで男として暮らしてきたときの私への態度と今日見た女としての私への態度の違い、おもしろかったな~」

 と、からからと笑った。

 ‥哀れ、相崎。

「俺だからだよ。相崎は、昔から俺がやたら嫌いだったから。‥なんか、ごめんね」

 紅葉にも嫌な思いさせただろう。それは、申し訳ない。

 紅葉はけろりとした顔で

「気のせいではないですか? 」

 と言って、首を傾げた。

 いいや? と四朗は無言で否定する。

「相崎は、男ならみんな嫌いだよね。特に自分よりもモテる人なんかは。四朗君もきっとそれじゃないですか? あと、武生さんみたいに厳しくされるのも苦手みたいだったね。モテることが生活の基盤って。‥あれで、別に悪い奴じゃないんだけど、残念すぎるよね。まあ、精神が丈夫そうだから暮らしていけるよ。大丈夫だよ」

 からからと、男の時のような口調で言って、紅葉ちゃんが笑った。その様子は、とても楽しそうで、見ていて四朗も嬉しくなった。

 ‥七年間の記憶、かあ。

 俺、紅葉ちゃんととして暮らしてきた時の友人との思い出なんて、ないぞ。

 それはそれでまずいな。

「千佳は何か失礼なこと言わなかったですか? 「この頃変だ」とか。‥ないか。入れ替わる以前からそんなに話すこともなかったし」

 ふと、紅葉が真面目な口調で言った。しかしながら、後半はちょっと肩をすくめて困ったような顔になる。

「そうかな? 」

 四朗が首をかしげる。

「何を話したらいいかわからなくて‥気が付いたらあまり会話のない姉妹になってて‥」

 ふふ。と、自嘲気味に笑う。

「大丈夫だよ。千佳ちゃんは紅葉ちゃんのこと大好きだって、近くにいた間ずっと伝わってきてた」

「そうなの! 千佳はいい子だから」

 ぱっと明るい顔になる。

 表情が豊富で、見てて面白い。そうか、紅葉ちゃんって本当に、普通の女の子なんだな。‥あんなに強いけど。

「そうだね。千佳ちゃんは、いい子だね」

 四朗の口角が思わずすこし上がった。

 作り笑いをするわけでもなく、四朗の表情が変わることは実は珍しい。

「そうでしょ。私の自慢の妹だよ」

 紅葉が誇らしそうな顔をする。

「紅葉ちゃんもね」

 四朗が優しい顔でほほ笑んだ。これも、また思わずの笑顔で、四朗は自分が微笑んでいることには気づいていない。

「え? 」

 紅葉が首を傾げる。

「紅葉ちゃんもいい子だよ」

 穏やかな笑顔のままで四朗が言った。その顔に嘘はなかった。四朗は、口数も少なく、お世辞も言わない。だから、一言一言が重めだ。

「‥‥」

 なんて返えしたらいいのか、ちょっと、紅葉は言いよどんで下を向いた。

 四朗はそんな紅葉を見ながら、

「でも、あんまり頑張って千佳ちゃんや母さんに心配かけちゃだめだよ」

 優しく言った。

「‥‥」

 紅葉は、やっぱり何を言ったらいいのかわからなくて黙ったままだった。

「母さんたち、言ってた。無理しすぎて心配だって。‥聞かなかったふり、したけど」

「そっか‥。私は心配かけてばっかりだね」

 下を向いたまま、紅葉が微かに自嘲の笑みを浮かべた。それが、四朗にはやっぱり不服だった。

「家族だから、心配して当たり前なんじゃない? 」

「そっか」

 小さくため息をつくみたいに、紅葉が言った。

 千佳は、自分のことを「頑固だ」っていうけど、千佳だってそうじゃない。いくら私が「気にするな」って言ったって、私のこと気にしてばかり。

「そうだよ」

 四朗はわざと少し明るい声を出して言った。この話はおしまい、の合図だ。

 と、コンコンと襖の枠を小さく叩く音がした。四朗が立って行って襖を開ける。

「四朗様。お茶をお持ちしましたが」

 ちょっと、困り顔の清さんだった。

 邪魔になるだろうか、でもお茶もお出ししないのもな、と悩んだのだろう。

「気を使わないで、入ってよ。‥博文も。自分の部屋だろ」

 四朗が、笑顔で清さんのお盆を受け取った。と、後ろにいつの間にか立っていた弟にも声をかける。

「こんにちは」

 ぎくしゃくした様子で、博史が紅葉に挨拶をする。

「あ‥こんにちは」

 それにつられて、紅葉もぎくしゃくした様子で挨拶を返す。

 そして、チラッと携帯で時間を確認して立ち上がりながら

「では、私はもう帰りますね。小菊さんが迎えに来てくれるって言ってたから。お邪魔してすみませんでした」

 と清さんに、きちりと姿勢を正して笑顔でお礼を言った。

 小菊というのは、この前四朗たちがすり替わった時にいた女中の名前だ。

「ここに? 」

 四朗も同じように立ち上がりながら言う。

「はい。さっき連絡したんです」

 暫くして迎えに来た小菊と共に、紅葉は四朗の母親や清さんにも丁寧に挨拶をして帰っていった。

「素敵な娘さんねえ」

「そうですわねえ」

 女性陣二人は興奮気味に言ったが、そんなんじゃない。

「彼女? 」

 と、博史までが聞いてくる。しかし、こちらはちょっとからかい気味だ。

「違う。断じて」

 四朗はきっぱりと否定した。

「ふうん? なんでそんなに否定するんだか。でも、まあ彼女の方もそんな感じじゃなかったね」

 博史が、納得したような顔をする。

 紅葉ちゃんについて、証拠はないが、何となくそうじゃないかな‥って思っていることがある。

 あの子は、俺にとってそんなに遠い親戚じゃないと思う。なんといっても見た目もよく似ているし。

 桜には、姉と兄がいたはずだからそのどちらかの子供だろう。兄だったら、隠し子かも‥でちょっと、あれだけど。

 兄弟の子供。つまり、従妹だ。

 それはたぶん間違いはないだろうけど、桜からそんな話は聞かない。紅葉ちゃんも、遠い親戚としか知らされていないわけだし。

 知られたくないことなんだろう。

 紅葉の母親にしても、「行きにくい家」として、自分と西遠寺との関りを紅葉ちゃんに語らない。

「あの人、兄ちゃんになんか似てるね。顔じゃなくて‥なんか感じがさ。なんか‥性格とかも似てそう」

 博史が首をひねりながら不思議そうな顔をして言った。

 首をひねりながら博史がぼそり、と言った。

 ‥正確には「ここにいた七年間の四朗と似ている」だけどね!

「‥‥」

 こいつ、なんだか侮れない!


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