4.相崎君とのデートの前に
「あの人は、柊 紅葉。俺の遠い親戚だ。今回、会わせるのはいいけど、俺も一緒に行く」
四朗が不機嫌な顔のまま言った。本当に、こんな顔、相崎相手にしか四朗がすることは無いだろう。相崎にしては、男がどんな顔をしていようが、それどころか機嫌がよかろうが悪かろうがどうでもいいことなんだけど。
「何? 俺が信用ならないの? 女の子を泣かすようなこと俺がすると思う? 」
しかし、四朗の言葉には不服だったらしく、思いっきり「疑問だ」という顔で四朗を見た。
「急に、命を狙われるとかあるかもしれないし」
きっぱりと言い切った四朗は言葉はこんなだけど、思い切り本気だ。
「‥それ、日本? そんなわけないじゃん」
その本気な四朗に、相崎の疑問はマックスだ。
「いや、あるかもしれない」
自分の言葉に「そうそう、あるな」と妙に納得しながら、四朗はやっぱり本気だ。
どうも、臣霊だの鏡の秘儀だの桜の話だの「日常からかけ離れたこと」に常に接しているせいか、四朗の想定は少々おかしくなってきている。
「心配しすぎ。ケンカなら、俺だってそこそこ強いから大丈夫だよ。それとも、何、しんちゃんがあの子のこと好きなの? 」
などと「甘いこと」いう相崎はしかしながら、一般の感覚からすれば普通だ。
「それは、違う。しかも、ケンカだってあの子の方が強いかもしれない」
とまあ、これも真実。
見たことはないけど、あの「母さんが認めた」紅葉ちゃんだ。喧嘩だって凄く強くてもおかしくない。否、強くないはずがない。
「何それ」
相崎が呆れた顔をする。
きっと、自分と会わせたくないからそんなこと言っているんだろう。としか思えない。
‥恐ろしいなあ。みっともない男の嫉妬。俺と会わせたらしんちゃんに勝ち目なんてないからそんなこと言って会わせまいとしてるんだろうなあ。
なんて、通常運転で自分本位な相崎。
「でも、女の子は戦わせちゃ駄目でしょ? 」
これ、四朗の精一杯の「常識」
‥見たい。きっと、四朗と紅葉が一緒にいたら何か敵が来る。(多分だけど、なんとなくそんな気がする)その時、紅葉ちゃんがどう動くか見たい。
見たいけど、それは思っちゃ駄目でしょ。女の子が戦うの見たい、とか駄目でしょ。
心の中の、「良い心」の意見を採用してみた結果の発言だ。
そもそも、心の声がおかしい。
「だから、その設定何? どうしちゃったの。しんちゃん」
呆れを通り越して、珍しく不機嫌になるオールウェイズハッピーなはずの相崎。
「とにかく、ついて行く」
とにかく譲らない四朗。
本当のところ、相崎となんか会わせたくないけど、会わせるなら絶対自分も一緒にいるべきだ。
桜に何を言われるかわからない。
‥いや、「ばれたよ」っていうの嫌だなあ。
「え~何~? 」
口をとがらせて不満を言う相崎。
「やっぱり好きなの? 」
そして、当然の疑問。
「そういうのは、絶対に、ない」
思い切り不機嫌になる四朗。
「ないの? 」
その四朗の表情が不思議な相崎。
「ないよ。そもそも、俺は誰も好きじゃない。そういうの、よくわからない」
「何それ」
相崎が、宇宙人でも見るような顔で四朗を見る。
相生の男子といえば、みんなやたら結婚が早くって、みんな面食い。それが四家の共通認識だ。
‥相生の男子がそんな草食な発言でどうする。現に、お前の親父なんぞ高校卒業後大学に行く前にもう結婚してたじゃないか。
俺は、そんなに早く結婚したくはないけどね!
いつぞやの、紅葉ちゃんの「相崎なら」予想的中。八年ほどの付き合いの人にさえ予測されてしまう相崎の人間の浅さ。いや、単純でかわいいといえばいいのか?
「何なの。しんちゃん、ホントおかしい。なんか」
もしかして、また偽物? っていう顔だ。
「そう? 」
眉を寄せて、自分の発言の何がおかしかったか考える四朗。
「と、まあ。何故だか相崎にばれまして。紅葉ちゃんに会わせろと交換条件を出されました」
「‥‥」
電話口、明らかに不機嫌な桜。隣にいるらしい紅葉も呆然としているだろう。さっき「え! 」って聞こえたし。
‥ああ、気が重い。
しかし、電話口から聞こえて来たのは、
「私の、せいですね‥」
紅葉の弱弱しい声だった。
それは、まあ、そうじゃないとは言えない。記憶喪失になったのは、紅葉のせいではないとしても、だ。現に四朗は成功している。
桜もそれは認めて、小さくため息をついた。
「それで、その相崎の小倅はどんな子なの」
「相崎をご存じなのですか? 」
紅葉の驚いた声が電話口から聞こえてくる。
「相崎君のお父様には、会ったことがあるわ。牡丹の花の様に艶やかな方だったわ」
「相崎は、牡丹というよりハイビスカスみたいです」
‥ハイビスカスってなかなかない例えだよな。‥でも、なんとなく納得。そうか、紅葉ちゃん相崎のこと知ってるもんなあ。
しかも、さっきの感じだと、あんまりいい印象持ってなさそう。
「性格は、単純で、頭脳明晰とは言い難い‥ですし、人格者かと言われると、そうでもないですが‥、まあ、そんなに悪い人間ではありません」
人としての魅力もイマイチって評価だな。哀れだ、相崎。
「分かったわ。くれぐれも四朗。紅葉を守りなさい。そのハイビスカスの魔の手からも、予期がちょっとできる敵からも」
もう一度盛大にため息をついてから、桜が言った。
「はい‥」
‥ほら、桜も敵を予測しているじゃないか。しかも、かなりの高確率で出ると‥。一体、どういう状況なんだろ。俺とか紅葉ちゃんって。
四朗はそっと、ため息をついて受話器を置いた。




