表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
五章 周辺事情
33/165

2.武生の負い目

「あの時は、ごめん」

 なんて、謝れば済むっていうようなことではないことは、分かっている。そんな簡単なことではない。だけど、だからといって謝らないでいいことなのだろうか? そうとも思えない。だけど、謝りたいという俺の思いはただの、自己満足だということも分かる。

 そんなモヤモヤした思いを今まで何度となくめぐらせてきた。

 四朗はもう気にしていなければいいのに。

 そんな都合のいいことを考えてしまいもする。

「記憶が戻ったんだ」

 って言われたとき、

 ‥どういうことだろう。どういう意味だろう。

 って思った。

 四朗に戻ったってことだろう。

 四朗は、自分が誰かとすり替わっていたことを俺も気づいていないと思っているのだろう。

 なら、そう思わせておいたほうがいいのだろう。

 今、四朗が戻ってきて、俺に「戻った」と言ったということは、俺のこと許すってことなんだろうか? それは、俺の都合のいい解釈なのだろうか。

 あの時、怒ってなかったというのはない。その証拠に、四朗はあの時からしばらくは家から出ることもなかった。小学校になって一緒の学校になっても、四朗は殆ど誰とも接触することもなく過ごしていた。

 「今の四朗」とは想像もできないくらい、四朗は一人だったんだ。それも自らのぞんで、だ。

 目立たないわけがない。あの容姿だ。だけど、決して出しゃばらず決して目立つ行動をしない姿勢でひっそり暮らす四朗は、本当に目立たない生徒だったんだ。常に成績以外では目立っていた相崎は四朗のいい隠れ蓑だった。

 そんな風に暮らす四朗を見るのは辛かった。

 四朗をこんな風にしてしまったのは、俺だ。いつか謝らないといけない。そればかり思っていた。つまり、俺は四朗に完全な負い目があったんだ。

 そして、10歳の時、四朗が事故にあった。俺の目の前で、だ。

 事故にあった四朗を病院に見舞った時、俺はすぐそこに寝ているのが四朗じゃないって思った。

 確かに顔は、見た目は四朗に間違いはなかった。だけど、何か違和感があったんだ。よく似た顔の他人にしか見えなかったんだ。

 四朗によく似た他人には、見たことのない男女が付き添っていた。そのことも、俺にそこにいるのが他人だと思わせた。

 付き添っていた男女のうちの男の方が

「四朗は大丈夫ですよ」

 と言った。

 それは、この子は確かに四朗ですよ。と、俺に念を押している様に見えた。

 俺は、はっとしてその男を見た。

 額に赤い痣がある‥異様に綺麗な男だった。

 四朗には似ていなかったが、付き添っているということは親戚か何かだろうか? そして、もう一人の女は、派手な感じの少女。こちらも、四朗には似ていなかった。

 そして、やっぱり額には赤い痣があった。

 残像みたいな存在感のなさ。異様な程の美貌。

 男は、俺に

「四朗を守ってやってほしい」

 と頼んだ。

 守る? 

 男の言っていることは、よくわからなかったが、なぜか「守らなければならない」と思った。

 と、不思議なことにあの男女二人のことで覚えているのは、これだけだ。後で誰に聞いても、あの二人のことを知っている者はいなかった。

 まあともかく。そのうちに、俺は負い目から四朗の代わりに四朗として暮らすあの子が四朗ではないとばれないようにしなければいけない、と感じるようになっていた。それは、強い強迫観念だった。そして、焦り。

 今日も戻らない。

 今日も‥。

 毎日毎日が拷問みたいだったよ。あの子は‥、あの四朗の代わりとして四朗のように暮らしているあの子は、何も言わないし、それどころか記憶喪失になっているらしいし。

 本当に、どう扱ったらいいかわからなかったよ。ただ、放っておいたら余計に四朗に恨まれることは必至だったし。

 はじめは適当に話に乗ってやる位の気持ちだったんだ。どこかで四朗が見ているのかもしれないって。

 だけど、そうじゃないらしいって思ったのは、一年くらいしてからだった。あの子は依然として記憶を失った「四朗」として暮らしているし、家族もそう扱っている。確かに、見た目は四朗そのものだ。

 四朗なんじゃないか? なんで俺は疑っていたんだろう。だけど、四朗は記憶を失っている。どうやら、「あのこと」も。今まで学校では自分で何とかしていたのだろう。だけど、今は‥。四朗はまた傷付くかもしれない。

 俺は、せめての罪滅ぼしに「四朗」を「守ろう」と誓ったんだ。

 だけど、今度の「記憶が戻った」だ。本当にどうしたらいいのかわからないよ。どういう態度をとればいいか‥。

 その上、今度の「旅行に行く」だ。四朗は何を考えているんだろう。

 それは、本当に困る。そんな風に思ったのだ。

 実際の月桂の洗脳は、武生の負い目を「決して忘れさせない」というものだったのだ。だから、武生は月桂が洗脳を解かない限りは、ずっと四朗に対して負い目を持ち続けることになる。

 「四朗」を守るために‥守らせるために、紅葉至上主義の臣霊が考えたことだったが、月桂は、元に戻った今でもこの洗脳を解いていない。

 月桂は人間ではないので、人間の気持ちはわからない。

 人間のことを信用していない。

 弱みを握って主導権をとっていないと、人間は裏切る。そして、やがては紅葉が四朗の身代わりとなっていたことを、知るかもしれない。そしたら、それを元に紅葉を脅すようなことがあるかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ