7.キラキラ相生様と日焼けした紅葉
「相生、お前、修学旅行どうするんだ? お前だけ出欠確認出てないぞ。出ないんだったらそれでもいいが、一応提出してくれ」
‥担任の教師だ。
耳元で月桂の声がした。
「え? はあ。相崎って個人部屋取るんですよね? じゃあ、僕もそれでいいですか? 」
声が違うけど大丈夫かな。
四朗は、「ちょっと喉が」と言い訳して、喉を抑えた。
「え? ああ。そう‥だなあ。それだったら、出れるか? 」
「ええ。問題はないです」
心配そうに、四朗をいたわるような表所を向けるこの男性に、四朗は好感が持てた。
ただ、四朗との会話に月桂が首を傾げたのが分かった。
あれ? 母さんから何も聞かされていないのかな?
「何か気になることがあったら言えよ」
「ありがとうございます」
ぽん、と四朗の肩に手を置き、担任は行ってしまった。
「四朗。旅行に出るの? 」
近くにいたらしい武生が訝し気に聞いて来た。今はあからさまに機嫌は悪くなさそうだ。本当に面倒くさい奴だ。
「今回は、個人部屋取れるみたいだし」
「そうか、ま、学生生活最後だしな」
何か納得したように大きく頷いた。
「相生様。自由時間の班はどうされるんですか? あの、良かったら、一緒にまわりませんか? 」
旅行の話をしているのを聞いて何人かの女子が四朗の周りを囲んだ。
「ん? ごめんね。女の子と一緒だと緊張しちゃうから、男子と一緒の方がいいな。ほら、何話したらいいかわからなくって、気を遣わせちゃいそう」
四朗が困ったような笑顔で言った。
「そんなことないですよ」
しかし、そんなことで引き下がるような女子ではなかった。なんせ、この機会は逃したくない。
「ごめんね」
ふふ、と四朗がまた困った様に笑うと、その子もそれ以上言えなくなった。つい、見とれてしまう。
この頃の、相生様ホントにキラキラ~。
艶のある短い黒髪がさらりと揺れる。癖なんてちっともない絹糸みたいな髪だ。
四朗がつい癖で、髪の毛を念入りに梳かしてしまったのだ。肌もつやつやつるつるだ。
‥そういえば、紅葉ちゃんの為と思ってしてきたことなんだけど、今まで自分の肌を磨いて、自分の髪を梳かしてきただけだったんだな。
日焼けにも気にしてきたから、美白そのものだ。
だけど、それは別に今更のことではない。もともと、色白で日焼けするとまっ赤になって大変なことになっていた。白いというより、むしろ青白い方だし。
そういえば、元に戻った時、紅葉ちゃんはちょっと、日焼けしていた。自分が男だと思って暮らしてきたからだろう。だけど、これからは気にしてほしい。女の子なんだから。
元々面食いの四朗は女に子の美容に関する意識に、普通より厳しかった。
他の女の子にまで、どうこう言うつもりはない。自分の好みを女の子に押し付ける気もない。ただ、そういう意識が普通(四朗にとっての)にある女の子が好きなだけだ。
お肌に気を使い、髪を綺麗にセットしている。髪型云々ではなく、よく手入れしている。そういうのが好きなのだ。勿論、高校生なのに化粧とかは問題外だ。
「‥ホントに、なんか変だな」
女子たちを置き去りにして、四朗と一緒に教室から出ながら武生がまた眉を寄せて言った。
「そうか? 」
もともと自分なのに、本当に困ってしまう。
俺は、紅葉ちゃんとして暮らしている時、最小限にしか人と関わってこなかったから、紅葉ちゃんに変わったところで気づく人間はいないだろうと思う。紅葉ちゃんだって、記憶喪失というアクシデントがなかったら、そつなくこなしていただろう。
‥記憶喪失。そうか。
「記憶がね、戻ったんだ」
ぼそり、と四朗が言った。武生がはっとした顔になって、四朗を振り向く。
「‥そうか」
「だけど、なんだか混乱しちゃって、今の記憶と昔の記憶が自分の中で整理できなくなってる」
「‥そうか」
口数少なく頷きながら、心配そうな顔をする武生は昔から四朗が知っている武生で、四朗は入れ替わってから初めてほっとした。
‥武生も混乱してたんだな。
って思った。




