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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
四章 入れ替わり
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6. フォローっていうか、責任もって処理してほしい。

「親戚の子なんだけど‥。ちょっと元気がよすぎてね」

 と、四朗は今日何度目かのセリフを言った。何となく顔が疲れている。

 ‥自分でやったんだけど。

 とにかく一瞬でも早く意識を奪わなければいけないという判断から、ああなった。‥のだけど‥確かにあれは酷かった。

 さて、あの時のことは次の日学校に行ったらもう学校中に広まっていた。

「相生君の親戚は、女の子だけど、どうやら相生君より強いらしい」

 だの、

「いや相生君は、あの美少女に逆らえないだけだ」

 だの。

 どうも、よろしくない。だから、それ以上言おうとする目の前の相手に、四朗は黙ってにっこりと微笑んだ。半径1メートルの生徒が男女問わず赤面して黙り込む。

 秘儀、笑ってごまかす。

 それで誤魔化せてしまえるのも、スーパー美形の所以だろう。

 四朗は黙って、昨日のあの後のことを思い出していた。



 紅葉は、あの後、車で桜が手配していた旅館に運んだ。桜の女中は支配人と顔見知りらしく、支配人は笑顔で女中に挨拶した。

 何度か来たことがあるのかな? 

 四朗は思った。

 仲居さんが敷いてくれた布団で目が覚めた紅葉は、今まで自分だと思って暮らしてきた顔が目の前にいることにかなり驚いたものの、記憶が戻っていたこともあり、何とか自分の中で整理をつけることができたようだ。

「ああ、貴方が桜様の息子さんだったんですね」

 と、言った。

 恐るべき状況把握力と情報処理能力だ。

 しかしながら、四朗が自分として暮らしてきたことについてはやっぱり考えるところがあったらしい。

 眉を寄せて、四朗を見て赤くなったり青くなったりしていた。

 紅葉が言わんとしていることが容易に想像できて、四朗は狼狽したが、四朗が慌てて弁明する前に、あきれたような声が二人の間を割って入った。

「何考えてるのよ。四朗様はそんな変態ではないし、別に女には飢えてませんわ」

 その声は、今まで誰もいなかったところから発せられた。目を凝らすとかすかに人影が見える。

 人影は、

「わたくしは、華鳥。四朗様付きの臣霊ですわ」

 自己紹介をした。ぼんやりとした影だったから顔は分からないが若い女の様だ。何となく笑ったような気配がした。

 ‥やっぱりそうだよね。この出現の仕方から人間ではないと思ったんだ。

 紅葉は、あの時の鮮花でちょっと耐性ができていたし、四朗も月桂を見たことがあったため、あっさりと受け入れることができた。流石、桜の女中らしく彼女も驚いた様子はなかった。

「姿を見せるのは初めてですわね、四朗様」

「ああ。君が‥」

 四朗はこの声には覚えがある。今まで自分が秘書代わりに遣ってきた女の声だ。

 そして、華鳥は紅葉の方をゆらりと向いて

「貴方、四朗様がいやらしい感情でもって貴方の体を見ただとか、触っただとか、そんなこと考えてません? そんな考え、四朗様に失礼だからちょっっとも持たないで下さいませ! 」

 びしっと言われて赤面したのはむしろ四朗の方だった。紅葉は、「え? 」っとびっくりした顔で華鳥を見た。

 ‥いやらしい感情でって‥

「‥やめてくれ‥」

 赤面したまま顔を伏せる四朗。なんだか、気の毒になってくる。

「すみません、そこまでは‥思ってません。大丈夫です」

 ちらり、と四朗を見て紅葉が言った。四朗の顔はますます真っ赤になっている。

「あら、ごめんなさいね」

 ふふっと華鳥が笑う。

 ‥絶対わざとだろ‥ 四朗も紅葉も赤面して俯いた。



 とにかく、まあ、いろいろあったものの、ここでいつまでもこんなことをしていても仕方がない。とにかくはそれぞれの家に戻ろうということになった。

 入れ替わっている間のことは、それぞれの臣霊が入れ替わって付いてフォローすることになった。

 元に戻るのだから、もう鏡の秘儀を使う必要がない。つまり、臣霊はいらないのだが、今まで一番近くにいた臣霊がフォローをするのが一番良いだろうということになった。桜も了承済みだ。

 で、四朗に今までついていた華鳥が紅葉に、今まで紅葉についていた月桂が四朗につくことになった。

 それに対しては、月桂は不満だったらしく、終始苦情を言っていたが。


 そんなわけで、月桂が今は四朗の側にいる。

 そんな彼から、昨日聞かされた衝撃の事実。

 今までの四朗の声は、月桂。

「急に声が変わるのもよくないですから、暫くはあまり話さないで下さい。なあに、そのうち慣れるでしょう。声変わりをしたとでも言っておいてください」

 と、変な誓約を出された。だから、四朗は昨日から割と笑ってごまかすの一点張りなんだ。もう、博史なんて、

「頭打って調子でも悪くなったのか? にやにや笑って気持ち悪い」

 だし、母さんも何も言わないが心配そうに見つめている。あれだ、「かわいそうに‥」の目だ。

 学校でもそんな調子なんだけど、どうやらこっちでは誤魔化されてくれるようだ。それどころか、すこぶる評判がいい。特に女子やそう親しくない男子には。

「四朗、調子が悪いんだったら帰った方がいいぞ」

 冷たく言う武生を見ながら、変な顔をしそうになってしまった。

 ‥俺の九歳からの健康診断の記録は総てこいつのデータ。おかしいだろ、身長・体重全く同じって。心電図まで同じなんだぞ。まあ、並べて見ることは無いだろうから、気付かないだろうけど。

 つまり、武生が武生として身体測定を受け、鏡の秘儀で四朗に見える様になった武生が今度は四朗として身体測定を受ける。

 二組の相馬が終わって、急いで特殊コーティングされて三組の相生。

 大忙しだね! 同じクラスにならなくてよかったよ。

「なんだよ」

「別に」

「声が変だぞ。やっぱり風邪じゃないのか。うつすなよ」

 ‥今までの親切な武生さんはどうなったんでしょうねえ。

 くすくすと月桂が笑うのが聞こえた。

 うるさいぞ。全部お前のせいだろ。明らかに、変な噂たてられたことに怒ってんだろ。その、変な噂の元になってるの明らかにお前だろ。武生は俺が覚えている限り、俺にこんな態度取らなかったよ! 

 四朗は、苦虫を噛み潰したような顔をして黙った。

「あ、相生様。先生が呼んでたよ」

 女の子に名前を呼ばれて反射的に相生スマイル。女の子が真っ赤になって恥ずかしそうに駆けて行ってしまった。

「やっぱり、帰った方がいいんじゃないか? 相崎にでも取り憑かれたのか? 」

 呆れたような冷たい目。

 相崎に取り憑かれるって‥。やめてくれ。

 月桂よ。フォローの前に、自分がやったことの処理をお願いしたいね‼ 

 四朗はため息をつきそうになる自分を、なんとか励ました。


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