3.修学旅行のお知らせ
小中高一貫の、紅葉姉妹が通う学校は、中学校の修学旅行がない。そのかわり、高校の修学旅行は海外に行くのだという。小学校の時にはあったのだが、事故の後間もなかったので欠席した。
だから、この高校の修学旅行が紅葉ちゃんの初めての修学旅行になる。
学生生活最後の修学旅行にはぜひ参加させてあげたい。
なので、入れ替わりはそれより先に行わなければいけない。
入れ替わらないと、旅行自体欠席するしかないしね。
俺は‥。修学旅行なんてどうでもいいけど、年を取った時に、無性に寂しくなるかもな。そんな気がする。母さんに相談したら、少し考えたあと「それもそうね」といった。あの人もほぼほぼ、都合第一主義だから、思い出つくりみたいなものが多分二の次になってしまうんだろう。
遺伝だろうか。
「柊さん」
と、後ろから誰かの呼ぶ声に気が付いた。
確か同じクラスの小西さんだ。吹奏楽部に入っている大人しめの女子。よく放課後、部活が始まる前に音楽室に入って練習しているのを見る。小さな体には不似合いな大きなホルンを一生懸命に吹いている。
「小西さん」
と、つい相生スマイル。相崎のいうところの「女たらしスマイル」だ。
小学生だった頃‥まだ普通に四朗だった頃‥、癖で営業スマイルを浮かべた俺に「しんちゃんの笑顔って、あれだね。女タラシスマイルって感じだよね」って相崎が言ってきたんだ。相崎はあの頃、自分よりモテるものには容赦なかった。‥俺はそういうのじゃなかったんだけど、妙にモテようとしている様に思われたのかもしれない。そういえばあのころから、相崎は女の子の目とかやたら気にしていた。ませてたんだろうね。
注※小学5年生位の事だから、普通です。四朗が特別淡泊過ぎただけです。
「! 」
小西さんは、ちょっと顔を赤くして口ごもった。
「どうしたの? 」
「もうすぐ‥修学旅行だね」
ちょっと首を傾げて続く言葉を促す。小西さんは、はっとここに来た目的をおもいだしたらしく、しかし、言いにくそうに話し始めた。
少し話すだけだのにこんなに緊張されている‥。俺は、よっぽど話しにくい雰囲気を出しているのだろう。
思えば、ほとんど誰とも話してこなかった。
これは、反省しなければいけないな。
「そうだね」
なるべくにこやかに相槌を打つ。
笑顔を心掛けたからか、小西さんも、少しリラックスしてきたようだ。
笑顔は大事だ。
「もし、よかったら、一緒に自由時間回らない? 」
ちょっと、間を空けて小西さんは何かを決意したように言った。
「え? 」
考えてもいなかった言葉に、つい固まってしまった。
自由時間。
そういえば、そういうものもあるな。それは、重要だな。
ごくり、とつい唾を飲み込んでしまった。
「あ、誰かと約束してたらとかだったら、いいんだよ? ごめんね」
わたわたと焦る小西さんに、思わず大きく首を振ってしまった。
「そんなの、ないよ! 一緒に回ろう! 」
思わず、即決しちゃったよ。なんだろ、この子。かわいい。
千佳ちゃんとか母さんのメイドさんとか、癖のある子しか見てこなかったから、こういう素朴な子に悲しい顔されると、焦ってしまう。
「あ! 私も一緒でいい? 私も柊さんと話してみたいって思ってたんだ」
今まで遠巻きに見ていた、クラスメートが走り寄ってきて言った。名前は、確か‥なんだっけ、陸上をやっているのを見たことがあるような気がする‥で、クラスのリレーの選手に選ばれた子だよな‥。
小西さんとは違って、いかにも活発そうな感じの子だ。
「美恵ちゃん」
小西さんがにこり、と笑う。友達なんだろうか。
「じゃあ、三人でね」
美恵ちゃん(たしか、野上さんだ)が楽しそうに笑った。
そんなこんなで、美恵ちゃん‥野上さん、小西さん、そして紅葉の三人で班を組むことになってしまった。勝手に決めちゃったりして悪かったなあ。でも、いい子そうな子たちだから、きっと紅葉ちゃんも気に入るよ。
多分。わからないけど。
そういえば、学校での紅葉ちゃんってどんなだったんだろう。家とは違うってこともあり得るよな‥。こんななのに、よく今まで皆に気づかれなかったな。それほど、皆の中の紅葉ちゃんの印象が薄かったのかな? どうしよう‥確かめようがない。
家族は、「変わった」って言ってたな。そう言えば。
ひやり、とした。
「あと二か月後だね。楽しみだね」
そんな事を四朗が考えているなんてもちろん知りもせず、小西さんたち二人はにこにこと手を取り合っていた。
二か月‥。
つまり、入れ替えのタイムリミットも二か月後。




