4.根っからの女好きのたどり着いた結論
本当に、相生四朗には腹が立つ。
爺様は今日も、俺のことを心配しているといいながら、四朗のことを引き合いに出してきた。
ただの、基準の違いだろう。
相生は、後継者選出の基準が相崎より甘い。
ただ、それだけだ。
そもそも相生なんて、一族での役割で言ったら、相模と同じくらいどうでもいい感じじゃないか。相生は、顔だけの客寄せパンダだし、相模はインチキ占い師だ。
更に言うならば、相馬も要らない。
情報と相崎の商才さえあればいいわけだ。情報収集何て現在ではメディアの時代だ。相生なんていらない。勿論、相馬も。
他の三家なんて、おこぼれに預かっているお飾りにすぎない。
全く!
そんなことを考えていたら、相崎信濃は珍しく不機嫌が顔に出ていた。ふと、人影が見えて、とっさに表情を戻す。
こんな顔を見られてはいけない。
こんな余裕のない顔を、
しかし、人影は彼もよく知った人物の物だった。
‥相生四朗。
相崎は踵を返した。
わざわざ関わって、お互い不機嫌になる必要はない。
四朗は、相崎に気付く様子もなく、ぼんやりとしていた。
珍しく周りに相馬武生もいない。
しかしながら、気配に敏い四朗だ。通常なら、通行人に気付かないわけがない。
通常なら、だ。
しかし、今日の彼は相崎に気付いている様子はなかった。
ぼんやりと、空気のように周りに溶け込んでいた。
その様子は、何故か儚げで、どこか美しかった。
しばし見とれてしまった相崎は、すぐに我に返った。頭を鈍器で殴られたようなショックを受ける。
‥なんで俺が!
だけど、もう一度四朗を見る。恐る恐る。
四朗がなぜさっき儚く見えたのかはわからなかった。相変わらずぼんやりしていたが、今はいつも通りふてくされて見えた。
その事には、ほっとしたものの、相崎はふと、四朗が心配になった。
まだ調子が悪いのかな? この前も倒れたし。
心なしか、顔色も悪いような気がする。
嫌いだと言いながらも、いいとこの坊ちゃんである相崎はいろいろと甘い。
相崎はなんだかんだいいながら、悪い奴でもない。基本が自分本位だから、いい奴ってほどでもないんだが。
つまり、真に悪人にはなれないタイプの、つめが甘い坊ちゃんなのだ。
さっき敵だといいながらも、弱っているように見える四朗のことが少し心配になった。
つかつかと歩み寄ると、腕をぐっと掴む。
「大丈夫か? 」
怒った様な顔で、ぶっきらぼうに言った。
人がいないところで、男に振りまく愛想はない。(この前、車で送っていった時には、祖父に報告するかもしれない運転手などの使用人がいた)
四朗は驚いて相崎を見ると、腕を振り切って走り去った。
「なんだ? 」
唖然とした。
そして、物凄い違和感を感じた。
なんだろう、あの腕。見た以上に華奢で細かった。
確かに筋肉はついていた。だけど、なんだか違う。
肌もつるつるで、男のものとは思えなかった。
激しく動揺した。
‥儚く見えたさっきといい、俺はいったいどうしてしまったというのだ?
いや、そうじゃない。あの腕。あの肌。
男のものだろうか?
‥そうは思えなかった。
走り去ったとき、ふわりといい香りがした。
そういえば。
いろんなことが思い当たる。
四朗の横に立っていても、男独特の暑苦しさがない。華奢な体格の男ならともかく、四朗は180センチを超える身長だし、ほっそりとしているが体も鍛えている。
顔も女みたいに綺麗だが、それでも暑苦しい男であるのには、変わりがないはずだ。
なのに、別に横に並んでもそんなに暑苦しくない。
男臭さも感じない。本当の匂いとかそういう話をしているのでは、もちろんないのだが。
つまり
あまりにも不自然なのだ。
「しんちゃんは‥」
しんちゃんは女の子だったのか?
結果、こういう結論にたどり着いてしまった。
恐るべし女好き!
「ええ? どういうこと? だけど、体育だって一緒に着替えてるぞ? 女が混じったらさすがにおかしい。そんなしみじみ見たことはないけど、確かに男だった。
でも‥。あいつは小学校の修学旅行も欠席しているし、中学は‥ないから、いいとして。学校行事で行く旅行は参加していない。
もしかして、胸がないだけで女だからか?
体育もそういえば、人と一緒にする競技は休むことが多いな。それか、武生が不自然に張り付いている」
そうか、あれは、触れさせまいとする配慮だったのか。
武生は、四朗が女だってこと知っていたんだ。
「ん? でももっと子供のころは一緒に風呂にも入ってたし、とっつかみ合いの喧嘩もしていたぞ? 」
思い起こせば、‥女の子ではなかった気がする。
「いつからだ? いつから‥。いつから、武生は四朗にべったりになり始めた? 」
事故からだ。事故で記憶を失った四朗を心配してべったりになったんだ。
本当に、四朗なんだろうか? 「あの」四朗は‥、
「えええ? 」
衝撃の事実に、相崎はその場からしばらく動くことが出来なかった。




