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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
三章 意識と無意識
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2.不本意な疑惑

「そもそもなんで、女の子が俺の身代わりになってるんですか? 男にはいなかったんですか? 」

 紅葉のふりをする四朗は、本当に今更な質問を桜にした。

 今回は桜のほうに四朗から連絡をして会いに来ている。こういうことは初めてで、桜は少し不機嫌そうな顔をしていた。きっと忙しかったのだろう。

 だけど、四朗にしてもいつまた鏡の秘儀が解けるかわからない状態は不安だ。

 もちろん、修業が思うようにうまくいかなくって、何度か解けかけたから言うんだけど。

「急に呼び出したと思ったら、そんなこと」

 桜がため息をつく。

「そんなことって‥」

 男同士だったら、そういえば、こんなに気を遣わなくてもよかったかもしれない。

 剣を打ち込まれて、大きくバランスを崩す度に対戦相手から気遣われるのも煩わしい。

 起き上がらせようと手を差し出されるのを断るのも心苦しいし。

 けがをするのは本体である「四朗」だから、自分としては全く心配していないのに、だ。

 だけど、自分が別の男の体で暮らすことを想像すると、かなり気持ち悪い気がした。

 生理的にそれも、無理。

「西遠寺の力は、男子には出にくい‥。いえ、別に出ないわけではないの。だけど、出にくいの。せいぜい一族に一人くらい‥。そして、それは貴方が持っていると私は思っている。

 そして、奴らも思っている。だから、奴らは貴方を手に入れるか、それが叶わないなら消してしまいたいと思っている。男子であの力を持つというのは、大変なことよ? 元々の力が女子とは違うわけだから、それこそ喧嘩しても負けなしよ」

 こともなげにいう桜に、四朗は呆気にとられた。

 なんだろう。命を狙われているっていうから、どんな特異事項かと思ったら、喧嘩に負けないだけの力? 

 母さんには悪いけどないけど、しょぼいよ。

「まあ、女子でも、そこそこの相手とだったら負けはしないだろうけど」

 まだ言うか。

「喧嘩に負けないための能力って、何なんだろ‥」

 つい、口に出して言ってしまった。

 桜が首を傾げる。質問に対する答えではなく、質問してくる意味が分からないといった顔だ。

 ‥まあいいや。

「それに。本当によく、入れ替わりを承諾してくれましたね。紅葉さん」

 四朗がため息をつく。

「だから。あの子は優しい子だから」

 にっこり笑って桜が言う。

 何を隠しているんだろう。このタヌキは。

「リスクが大きすぎますよね」

月桂(かつら)がついているわ」

 と、ここだけは自信たっぷりに言う。

「月桂って? この間も聞きましたけど。その名前」

「月に住む伝説の「桂男」の名前に相応しい男の臣霊よ。頭がいいの。そこそこ喧嘩も強いしね。それに何より、洗脳の力を持っているわ」

 ‥危ないやつだな。

 四朗が少し眉をよせる。

「そして、男ばかりの中に紅葉を入れるわけだから、そのフォローには女の子の臣霊の鮮花を。こっちは、完全にパワー系。決断力もある頼もしい子だけど、ちょっと突っ走るところがあるのが欠点よね。だから、月桂と組み合わせて使うことで、暴走は防げるわね。そして何より、女同士だから何かしら助けてくれるわ」

 臣霊に丸投げ。

 信用していると言っていいのか、無責任と言っていいのか。

「臣霊にも性格があるんですね。名前も」

 見たこともない臣霊には同情を感じてやまない。

 人でさえこき使う桜だ。自分が使う臣霊に対する扱いはひどいものだろう。

「貴方についてもらってる臣霊にも勿論あるわよ。華鳥って名前なの。オールラウンダーな女の臣霊よ」

 知ってます。見たことは勿論ないですが、いろいろ助けてもらっています。頭の回転も速くって、常に冷静で、想定外の時にも対処してくれる彼女がいなかったら困ることも多かった。

 でも、そういえば名前は今初めて聞いた。

「一人でいいんですかね」

 ふと、さっき聞いたことを思い出し、聞いてみる。

 たしか、同性の臣霊がついていたほうが、何かといいと。

「まあ、私もいるしね」

 桜は頓珍漢とも思える返事をしてきた。

「なるほど? 」

 確かに、現実世界のフォローは桜がしてくれるから、問題はないんだから間違いではない。

 と、そのとき桜の表情がピクリと動いた。

 おもむろに、部屋の端で覆いがかっていた姿見(鏡)の覆いを外す。

 桜が前に立っているというのに桜の姿はその鏡には映っていない。鏡ではないのだろうか? と見ていると。徐々に人影が浮き出てきた。

 表情はわからないし顔もわからないが、体の様子からすると男のように思える。

 すらりとして、背の高い。そして、体に丸みが全くない影だ。

「あら? 月桂‥? 」

 桜が鏡に映った見知らぬ男に話しかけた。

 月桂。これが、紅葉に付いている臣霊‥。

「どうしたの? 」

『‥タイムリミットです』

 四朗は、突然浮かんできた影が話し始めたことに驚いて鏡を凝視した。

『紅葉様の力が強くなってきて、我ら二人がかりでも抑えきれなくなってきました』

 月桂は悲壮な声を出す。

 申し訳ない、そして情けないといった声だった。

 しかし、

「まあ! 思った通り、いい修行になったようね! 」

 桜は突如、嬉しそうな表情になって月桂を見た。

 ん? もしかしてこれが今回の入れ替わりの一番の目的か?!

 後継者の修行‥。そのためには、実の息子まで使うとは!

「では、四朗と一緒にそちらに向かって入れ替わりを行いましょうか」

 四朗の衝撃など気にもしない様子で、桜がうきうきと、楽しそうに笑った。

『それが‥』

 反対に、月桂は更に言いにくそうに言葉を濁す。

「なに? 」

『紅葉様は記憶喪失になっておいでなのです』

「‥なんですって? 」

 桜が叫んだ。

「何てこと! じゃあ、紅葉の学校生活のフォローは誰がしたのよ」

『鮮花と‥学校では、武生さんを』

「武生!? 」

 今度は四朗が叫んで、月桂を睨む。

 武生がどうしたって?!

「どういうこと?! 」

『学校生活を送るうえで、どうしても男性の協力者がいりましたものですから』

「どうやって承諾させたの? まさか‥」

 四朗が恐る恐る月桂に話しかける。

 洗脳?

 桜に聞いていた月桂の特技は確か洗脳だったはずだ。

 月桂がなんてこともないかのように、頷く。

『勿論です』

『常に、紅葉さんに触る物がいないように見張らせました。そして、勿論常時張り付かせて警護させました。

そして、紅葉さんにも、誰にも触れさせないように暗示をかけました。触れば気づくわけですが、自分の体を意識して触るものなんて普通はいません。触っているのに感触がない、というのは不自然ですが、つねったら痛くて転んだら痛い限り、それは自分の体です』

 そりゃそうだが‥。俺の体、なんかいろいろと感触違うな? とかあるだろ。

 そこらへんも洗脳か? 恐るべし‥

 それにしても‥

「常に‥武生が俺にべったり‥」

 四朗は呻いて、さっきの月桂の言葉を反復した。

『ちょっと学校では、一部の方に要らぬ誤解を与えてしまいましたが』 

「武生と俺が‥」

 どんな誤解だって? 

 情けなくって、なんだか泣きたくなってきた。

「まあ、それはいいわ」

 本当にどうでもいいように言って、桜は考え事を始めた。

 よくない。今日気が付いたんだけど、母さんの俺に対する扱いってひどくないか?


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