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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
三章 意識と無意識
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1.武生

「っていうか。しんちゃんってそんなに筋肉ないかな。結構あるように思えるんだけど」

 相崎が手を伸ばして、四朗の腕を掴もうとするが、四朗は咄嗟に避けた。

 ‥まるで条件反射だな。潜在的に嫌なのかな、相崎が。

 ‥いや、男に触られるなんて気持ち悪いだろ。

 ただ、それだけのことだ。

「やめろよ‥」

「うん? ごめんね」

 ぽかんとした顔で相崎が四朗を見た。

「四朗様、着きましたよ」

「ありがとうございます」

 相崎の運転手にお礼を言って、車を降りる。中で相崎がひらひら手を振っているのが見えた。

「四朗! 」

 相崎の車が家の前に止まったのを見た母さんが、慌てて外まで出てきた。

 車から出て来た四朗の姿を見て驚いて叫ぶ。

「どうしたの? 何かあったの? 」

 まあ、確かに相崎に送ってもらって帰ってくるなんて常ではないな。

「いや、ちょっと倒れて」

 四朗の母が、相崎の車に礼をしてから、四朗を気遣い荷物を受け取る。相崎の運転手は会釈を返すと車を発車させる。

 ‥いつもの方とは違うわね。いつもの方なら降りてきて丁寧に挨拶されるのに。

 ちらっと、四朗の母はそんなことを思った。

 いつもの相崎家の運転手は年配の人だけれど、今の人は若そうに見えた。

 多分、ご子息が私用に車を使う際に使っている運転手なのだろう。

 一瞬の間に、それだけの情報を読み取る。

 四朗の母もまた、抜かりない相生の人間だった。

「ええ!? 大丈夫なの? 」

 だけど、やっぱり息子は心配だ。見上げて息子の顔を覗き込む。二人の身長差はもう頭一つ以上ある。

「兄ちゃんって、割と体弱いよね」

 いつの間にか出て来ていた博史がその後ろに立っておかしそうに笑う。

「え? 」

「一か月に一回くらいは寝込むし」

「‥」

 博史の言葉に、四朗は苦笑いした。

 確かに、そうなのだ。一ヶ月に一回くらいは、寝込むのだ。

 その時は、起き上がることもできない。意識もない程寝ているらしく、その時の記憶が全くない。

 そんなことあるものなのかな。

「‥着替えてくる」

「そうね」

 そう言って三人は家の中に入って行った。

「お風呂に入ったらどう? 清さんお願い出来るかしら」

「はいはい」

 祖母の提案に、お手伝いの清さんが笑顔で請け負う。

「そうね。今日はゆっくり休みなさい」

「んー」

 どうもすっきりしない。この頃、今まで意識してこなかったことが、気になって仕方がない。

 一ヶ月に一回くらい倒れる程、病弱な体って何なんだろ。逆になんで今まで気にならなかったんだろう。

「そういえば、今日は武生さんは? 」

「ん? 師匠が次の大会の打ち合わせを今日は絶対しないといけないって言って」

「へえ」

「なんで? 」

「武生さんなら、兄ちゃんが倒れたんだったら、絶対一緒に来ると思ったからさ」

 確かに今回も、一緒についてくると言い張っていたが。

「武生さん、過保護だから」

 博史が笑う。

「兄ちゃんが事故に遭って以来特に過保護になったよね」

 事故以来‥。

 つまり、昔はそうでもなかったのか‥。

 なんだろう。何か引っかかる。

「あの事故の時、一緒にいたから責任感じているんだろうかな」

 は、っと博史が口を閉じる。

 武生が一緒にいた? あの時‥。

「そんな話、知らなかった」

「あ、でも事故に武生さんは関係ないんだよ。今まで言わなかったのは、武生さんが凄く責任感じてて、その上兄ちゃんがこれを知ったら、二人が変な感じになったら悪いって思って」

「‥ならないよ。武生のせいになんてしない」

 武生は事故の時、俺の側にいた。そしてそれ以降、俺に過剰に気を遣うようになった。

 多分、博史が言うように、責任を感じて気を使っているのだろう。

 だけど、何かが引っかかる。

 武生はあの時、何かを見たのではないだろうか。

 もしくは、何かを知った‥?

「兄ちゃん。顔が怖い。それに顔色が悪い」

 今まで意識してこなかったものが、一気に意識に流れ込んでくる。

 と。

 落ち着きなさい。今はまだその時ではない。

 あの時の男の声が脳内に響く。そして再び強い衝撃が俺の意識を奪いそうになる。

 駄目だ、自分でベットまでいかなければ‥。

 ここには、武生はいないんだから‥

 無意識の中で、俺はそんなことを思った。

 そう。道場で倒れた時は、武生がいた。だけど、ここには武生はいない。

「母さん、清さんごめん。風呂は後にする‥」

 倒れそうになる体を、ぎりぎりの意識で保ちながら四朗は家族に力なく笑った。

「ええ‥大丈夫なの? 」

 自分を見ている母親の顔が青い。清さんもオロオロしている。自分には見えないが、よっぽど顔色が悪いんだろう。

 手を貸そうとする博文の手を遮る。

 触っては、いけない。誰にも、触られてはいけない。

 武生以外‥。

 部屋に入ると、いつも通り鍵をかける。

 ふらふらとベットに入ると、もう意識を保つことは出来なかった。

 ‥このタイミングか‥。今は、まだ準備不足だ‥

 あの男の声を、遠のく意識の向こうに聞いた気がした。


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