8.限界
相生の力は、とにかく自分を消して相手に合わせる感のある西遠寺の力とは、根本的に違う。
相生は、外に対して自分をアピールするところから始まる。
まず、自分を認識させて、その場を「相生四朗」が制する。相手との距離を無理やり縮めて、心を開いてもらって、‥ってまあ、油断させて‥言語脳に侵入する。
記憶に入っていけたら、情報やなんかだって盗めるんだろうけど、そこまで非道なことは出来ない様だ。何年にもわたって研究している、相生の研究者がいるから、まあ間違いはないだろう。
その人が持っている、言語データからだって分かることは多い。
何の言葉が母国語か。
方言でもわかれば、生活圏がぐっと狭められる。
話し方の癖がわかれば、その人の今までの生活がわかる。
言語データがあれば、相生は対象者と同じ言語を自由に話すことができる。だけどそれは、あくまでもデータだから、話すとなれば発音等、事前に身につけておかなければいけないことは多い。
言語データがアプリケーションで、パソコン本体(相生)にダウンロードして、それを使うために解凍のソフトが別にいるというような感覚かな?
相生は、そんな脳の随分奥深いところで対象者と話しながら、その人の人となりを観察する。
まあ、影の仕事だ。
調べるまで、が相生には多い。そのうえで、対象者と交渉し、商談を進めていくのは相崎の仕事だ。
相崎は地道な調査は苦手だが、昔からやたら商才があって、そこら辺は相生にはない才能だと認めざるを得ない。
華やかで火のように激しい相崎。通常穏やかで水のような相生。
しかし、この両家は決して仲がいいものではない。
普段、静かにしている相生は、しかしながら、すぐ結界が切れるダムのごとく激しい一面も併せ持っている。
まあつまり、相崎が怒らせるようなことを言うと、相生は、すぐに切れる。
両家はやたら仲が悪い。
だけど、二つセットで働かなければいけない。
だから、相馬がその調停にたつ。
相崎が怒る原因の一つ、相生が情報を相崎にわかりやすい形で伝達しない、という問題をサポートすることが一番多い。
相馬はカウンセリング能力と情報処理能力に長けた一族なのだ。(別に一人でこの二つの仕事をするわけではない。チームで動くのだ。相生は一族に一人しか能力者が出ないから、一人だけど)
だから、相生以上に裏方で、表に出てくることはない。
相模は、それらすべての監督だ。全体の流れをよんで支持をだす。
それはどうも、才能というより人知を超えた何かがあるようにしか思えない。シックスセンスってやつなのかな。
相生の力も、そういうくくりに入る。
だから、経験を積んでなんぼの相崎や相馬に比べて相生や相模は能力‥古くは霊力と呼ばれていた‥が枯渇すれば、その職を退く。相生や相模の結婚が早いのはそういう原因からだ。
いつか、能力が枯渇する。それまでに、次の能力者を育てておかなければならない。より強い力をもった後継者を育てたい。
だから、結婚相手には霊力というか‥そういう力があるらしいという女性を選ぶことが多い。まあ、相生はやたら面食いが多いからそういう点でも選んでいるんだろうが。
常に自分を見つめて、自分の能力と向き合いながら暮らす。
相生の人間は、自分が大好きだ。自分に誇りを持っている。自分の仕事は自分しかできないことと自負している。
こんなに長々と、何が言いたかったのかというと。
相生四郎としての自覚なしで、相生の力は発揮できない、ということだ。
しかし、相生四朗を自覚すれば、その力に引っ張られて鏡の秘儀は解ける。だから、強く自覚してはいけない。自覚する力をコントロールすれば‥といままで実験しながら稽古に励んできた。
だけど、何かをセーブしたままというのは、常に気が散っている状態だ。
相生四朗じゃなくたって、柊紅葉を強く意識すれば、相生四朗に戻らないで、相生っぽい力が出せるんではないか?
いや、それは無理だ。自分的に絶対無理だ。
自分が心から、紅葉を意識することなんてできない。したくないし、しちゃいけない。
結局、ぐるぐる回ってこれが限界。
相生の力を応用するんじゃなくって、自分にもあるであろう西遠寺の力をマスターする‥。
結局は、それしかないように思えた。




