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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
二章 柊 紅葉
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7.四朗と修行の日々

「紅葉。この頃調子がいいな」

 剣術の師匠である境田が機嫌のよい声を掛けてきた。

 この頃は、相手に意識を合わせることができるようになってきた。

 初めはひどいものだったが。

 水の流れに身を任せるように相手の動きを意識しようとすると、ちょっとの動揺で一気にバランスを崩す、丁度溺れるみたいにあっという間にガタガタだ。

 ちょっとでも自分を出してはいけない。勝とう勝とうと焦れば、相手のリズムを見誤る。相手のリズムに乗れないと振り回される。

 特に相生のように自己主張の激しい一族にはこんな戦いは本来向かない。自分が相手より強くあればいい。自分の強さを見せつければいい。

 だけど、相手が自分より強ければ、やっぱり負ける。

 西遠寺の力には、たぶんそれを埋める物がある。

 相手の呼吸を感じて相手に合わせ、一瞬の隙をついて勝負を決める。

 技を見せるのはその一瞬だけでいい。

 そして、その一撃ができるだけの技を鍛える。

 隙をつけたとしても、その一撃がしょぼくては話にならない。

 隙をつく練習は取り合えず、四朗は相手に合わせる練習を重点的に行うことにした。毎日毎日、それこそ休みなく。自分にもあるであろう西遠寺の力を信じて。そうしてことで、ある日なんとなくその感覚が見えてきた。

 そして、やっぱりこの感覚が相生の相手の頭の中と直接シンクロする力に似たところがあると確信した。だからこれらの訓練は、相生四朗に戻らないように意識しながら相生の力を出す練習にもつながった。

 語学の方もあの練習によって、外国人講師の頭の中の「言語脳」にシンクロする感覚を紅葉の姿のままで獲得することができたので、もう習いに行く必要はない。なんせ、語学体制やら単語、文字列を共用できるんだ。あとは、それを発音するスピーキングの基本さえ出来れば、そう問題はない。会話に不便はない。

 相生としてはそれでは駄目なんだけど。

 発音・発声も完璧にネイティブスピーカー並みに。

 だけど今は取り敢えず語学の習い事は休学して、今は剣術やらの格闘技に絞って練習している。


「でも、まだまだですね」

 師匠の容赦ない一撃を受けて後ろに飛ばされる。

 しまった。勝負の途中でまた気がそれた。

「すいません! もう一回お願いします! 」

 それで、結局今日も汗だく痣だらけで帰るのだった。また、千佳におこられるんだろうなあ。

 ちょっと剣ダコの出来た手を見ながら紅葉は肩をすくめた。


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