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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
二章 柊 紅葉
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6.無関心

 もちろん、あの後桜には延々と説教された。

「貴方は今、紅葉なんだから。そのあたり忘れないで頂戴」

 相生家というのは、もともと自己主張が激しい一族だ。自分の一族に誇りとこだわりを持っている。それは、異常なほどに。簡単に言うと、すごくナルシストで自分大好きな一族ってことだ。

 その中でも次期当主として育てられ、周りからも自分でも幼い頃から「相生 四朗」を自覚する彼はやっぱり相生四郎でしかなかったわけだ。今までは、のらりくらりと無関心を装いながら紅葉として仮に暮らしてきたにすぎない。

 だけど、名を呼んで自らの心の中身を前面に出すことによって、鏡の秘術という「他人」はいとも容易く排除されたのだ。

 恐るべし、ナルシスト。

「だけど、なにか分かったってことね」

 ため息をひとつつくと、にっと笑って今度はどこか楽しそうに桜が聞く。

「ええ、たぶん」

 微妙な顔で紅葉が肩をすくめる。

 多分。でも、自信はない。

「やってみたら。今度は、紅葉のままで‥出来るかしら」

 その顔は「してもらわないと困る」と語っている。

 紅葉は苦笑して

「はあ」

 曖昧な返事をした。

 鏡に向き合い、あの時の感覚を思い出しながら、しかし相生 四朗であることを意識しない様に‥

 それは、容易なことではなかった。

 すぐに疲れて、膝をおとす紅葉を桜は容赦なく睨みつけてくる。

「あなた、ちょっと精神力が低すぎるんじゃなくて。それと、体力も」

 桜がもっと厳しい視線を紅葉に向ける。もう、完全にいらだっているのがその表情にも口調にも表れてしまっている。いつもの、慈愛の笑みとも呼ばれているポーカーフェイスはどうしたというのだ。

「スイミングと朝の散歩って、OLじゃないんだから」

 最後には、ふんっという声まで聞こえそうな鼻息だ。

「剣術の稽古も、その他格闘技もしていますが」

 言われっぱなしでは悔しいから、少し言い返してみる。

「稽古をしている様じゃ、駄目なのよ。あなた、殺されるかもしれないって自覚がないのよ」

 案の定、かえって桜の怒りが濃くなった。

 ‥殺されるかもって

 そんなもの、現在日本に住んでいて自覚できるものでもない。

 ただ、確かに緊張感は足りていないな、とは思う。

 千佳に見つかってしまったのが、いい例じゃないか。

「でも‥よく誤魔化せましたよね」

 ぽつり、と思ったことを口に出してしまっていた。

「あら。だって、貴方と四朗はそんなに見かけが変わらないから。体つきは男女でやっぱり違うけど、顔だけ見たら双子だと言っても通じる位だわ」

 桜がこともなげに言う。

 え~? そうだったのか。

 ‥そういえば、俺は‥「紅葉の」顔をまともに見たことがなかったな。

 顔を意識するということは、例えば着替えの際に体を意識するということだ。

 それは、紅葉に失礼だし、俺も嫌だ。例え、それが映像だけのもので、触れば自分の体たとしても、だ。

 だから、俺は今までそれらを意識の外に追い出してきた。

 ‥双子のように似ている女。

 ‥それはそれで、気持ち悪い。

 本当の紅葉はどんな気持ちで俺の体で過ごしているんだろう。もう高校生だったら、嫌だとか思っているんだろうな。

 恋愛だって出来ないわけだし。

 ふと、四郎は自分の体で男に恋心を抱く紅葉を思い、青くなった。

 ‥やめてくれ‥

 それに、紅葉は四郎に自分の体を見られているかもしれないと、悩んでいるかもしれない。それも不本意だ。

「俺、もっと本気出して、西遠寺の力を使えるようになります。それで、元の体に戻れるようになります」

 相生 四朗が17歳にして初めて本気になった瞬間だった。

 あまりにも遅すぎるんだけど。

「ふうん? なにでスイッチがはいったのかはわからないけど、まあいいわ」

 桜は怪訝な顔をしてそんな四朗を見た。


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