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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
二章 柊 紅葉
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5.誰

「誰」

 千佳が思いっきり睨んできた。大騒ぎされてもおかしくなかったが、この子はこういうところ、いわゆる「普通の子」ではない。

 助かった。見つかったのが母親だったら、こうはいかなかった。

「あ! 」

「え? 」

 俺は咄嗟に、反対側を指さして千佳の注意を逸らす。千佳が思わず振り向いたすきに、意識を鏡に戻す。

 よかった。戻った!

 鏡には、いつもの紅葉が映っていた。

「びっくりした~。千佳の後ろに虫が飛んでたからつい叫んじゃったわ」

「え! 何の虫! 」

「って。え? あれ? くれちゃん。さっき誰かいなかった? 」

「ううん? 」

 我ながら変な誤魔化し方だ。

「え。そんなはずないよ」

「どんな人? 」

「にやけ面の男の人」

「私が連れ込むはずないじゃないそんな人」

 ふふ、っと笑う。

「そっか‥そうよね。気のせいかな」

 千佳が肩をすくめる。

 にやけ面。傷付く‥。

 折れそうになる心をなんとか励まし励まし言う。

 しかし、千佳よ! そんなことでごまかされちゃだめだぞ! 

 ‥今は助かったけど。



「それで? 何か用事があったんじゃないの? 」

「うん。電話」

「え! 先に言ってよ! だれから? 」

「姫」

 姫、だけは機嫌悪げに言う。

 そんな千佳に苦笑しながら、紅葉は階段の下の電話に走る。

 この家には、電話が一つしかない。

 階段の下に、電話台があってそこに一つあるだけだ。

 そんなに不自由はない。千佳は中学生だが携帯を持っているし、父も母も携帯電話が主だ。だけど、紅葉だけは携帯を持ちたがらなかった。

 だって、煩わしいし。

 と表向きは言っているが、実際は持ちたくないというより、持つという選択肢がない。

 だって、借り物の体だ。

 なるだけなら、誰の心にも残りたくない。残してはいけない。

 だけど、連絡を取るのに不便だと友人や姫からは不評なのは確かだ。

「はい。え? 」

 ‥もうばれてる。

『違う用事で掛けたんだけど、さっき貴方、元に戻ったんじゃなくて? 』

「え? 」

『誰にも見られてないでしょうね? とにかく、一度こちらに来なさい』

「‥わかりました」

 電話の向こうの桜のイラついている様子が声から伝わって来た。こんな声を出すなんて珍しい。

 電話を切ると、千佳に桜がもうすぐ迎えに来ることを告げる。

「ふうん。もうすぐ夕飯だから早く帰らせてもらってね」

 と不機嫌な声を出しながらも、あっさりと許可した。こんなことは珍しい。さっきのことをまだ疑っていて、後で部屋を調べてみようとか思っているのかもしれない。

 俺でもそうする。

「わかってるよ」

 言うと、支度をしに洗面台に行く。髪にブラシをかけて歯磨きをする。

 同級生には薄っすら化粧をしている子もいるが、あれはいけない。こんな若いうちから化粧をしていたら、肌に悪い。

 それよりも、念入りに日焼け止めをして日焼けを防がなければ。髪も日焼けをするから外出には帽子が欠かせない。バランスの良い食事に、適度な運動、気を付けなければいけないのは睡眠不足。勉強に習い事に、することは多いが、睡眠は大事。「くれちゃんの肌ってホントに綺麗だよね。友達のお姉さんもくれちゃんがなんの化粧水使ってるのか知りたがってた。でも、使ってないみたいですとしか言えないんだけど」

 後ろで鏡を覗き込みながら、千佳が言った。

「そういうの、わからないんだよね。何を使えばいいとか。だから、健康に気をつける。これが一番」

「くれちゃんと一緒のもの食べて、一緒に朝の散歩してるから、私もつやつやだよ」

 千佳が、ふふ、と笑う。

「いつまでも、一緒にいれたらいいのに。くれちゃんに彼氏ができて、結婚して、くれちゃんがこの家から出て行ったりしたら、‥寂しいな」

 ‥さっきの、彼氏だとか思われたかな。友好的な見方をすれば、姉の部屋にいる見知らぬ男は彼氏だな。友好的でない見方をすると、変質者だが。

 それは、不本意だ。紅葉にも、俺にも。

「なあに、急に」

「さっきね」

 俺は、にわかに焦る。台所には確か母親がいたはずだ。

「さっき? 」

 心臓が、早鐘を打っている。うるさい。

 だけど、俺はこういう時感情を表面に出さない自信がある。

 いつものように穏やかに微笑んで千佳を見た。

「何でもない」

 鏡越しに、千佳の微妙な笑い顔を見た。

「変な、千佳」

 俺は、なるだけ自然に笑う。

 ‥誤魔化せたかな? 本当に、これからは気を付けよう! 



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