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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
十四章 幼馴染
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3.幼馴染との出会い

「相生の(ぼん)ってまだ、五歳じゃないかい? 」

 相馬の当主が聞き返した。

 急に襲名だなんて、今の当主でさえもまだ完全に独り立ちしてないのに‥。そして、その「坊」‥篤博君は、23歳の当主の息子なのだ。

 先代(四朗の祖父)も勿論ご存命だし、元気だ。それどころか、あの家は隠居しているとはいえ、先々代もいる。四人も「相生四朗」なんて事態は異例中の異例だ。

「そうだそうだ。確かうちの坊と同じ年だよね」

 優秀らしい、とは聞いたが、そうは言っても五歳だ。

 ‥うちの坊なんぞ、毎日真っ黒になって河原で石切してるぞ。相生は何を考えているんだ‥。

 いつもの事ながら、先代の考えることは分からん。‥相生第一で、息子の気持ちなんて二の次にしか考えておらん、と思っていたが、孫のことまで‥。

「そうだ‥坊の気持ちはどうなんだろう‥」

 母親が実家に帰ったと聞いた。まだ、五歳だ‥寂しがっているだろう。よりによって、そんな時に‥、だ。

 そう、西遠寺家の姫さんと当主(四朗父)の離婚だ。しかもそれは、どうやら、本人間の問題ではないという。

 西遠寺家の跡継ぎがいなくなり、たった一人の身内である桜が実家に連れ戻されたと聞く。‥旧家ってのも大変だ。

 でもそこで、なるほど‥と思った。

「西遠寺に篤博君を取られないため、か」

 実のところ、篤博の親権は法的にも相生四朗となっている。それは、一方的な離婚を言ってきた西遠寺家sideの慰謝料代わりである。

 相生にとっても優良物件である四朗は、西遠寺家にとってもまた優良物件だったから。

 しかも、桜は「もう二度と結婚はしない。四朗様と以外なんて絶対いやだ」と言い張り、血の繋がった後継者というのはこの先望めない。

 西遠寺家としても、四朗はどうしても欲しい人材であった。が、桜が絶対に首を縦に振らなかった。

「篤博は、誰が何と言おうとも相生家の跡取りです」

 絶対に譲らなかった。

 せめて愛する四朗の元で篤博を成長させたい。

 ここにいた証を残したい‥。

 

 桜の切望を叶えたのは、彼女の実母である桔梗だった。

 そして、桜は西遠寺に帰り、四朗は父親と祖父母・清さんとの5人暮らしになった。

 といっても、父親と祖父は大層忙しくってよく家をあける。そして、帰ってくるたびに、四朗の勉強の進行具合をチェックして、剣の手合わせをしていく。

 幼い四朗にとって祖父は、ただ厳しいばかりだったろう。

 父は、母親がいなくなった幼い息子を慰め、優しく接した。

 だけど、四朗はそんなこと気にならなかった。

 祖父も、父もそして、祖母、清さん誰のことも気にならなかった。気にしなかった。‥何故って、彼は人間ではなく臣霊だから‥。

 だけど、周りの大人は、「我慢している‥。痛ましい」と思った。

 周りには大人しかいなく、そして、皆どちらかというと物静かだった。

 ただ、物静かに四朗を見守り他出来なかった。



「四朗。道場に通うか」

 そういったのは、祖父だった。

 例の如く、それは急だった。

「もう、剣術も型やらあらかた基本のことは学んだだろう。これからは実際に打ち合いをせねばならんが、相手が大人だとやっぱり‥な。それに、お前は同年代の子供というものを知らないだろう? 来年は小学に入るし‥お前は幼稚園にも行ってないからな。子供に対して、免疫がない。せめて道場に通えば、同じ様な年の子供と切磋琢磨できるであろう」

 同じ様な年の子供と付き合うことによって、自分を顧みたり磨いたりしろ、と。

「はあ」

 いつも通り気のない返事はしたが、四朗はその実、嬉しかった。例の如く、ちっとも嬉しそうには見えなかったのだが、実は嬉しかった。

 剣術は大好きだった。

 (それは、楓の性質でもあったのだが)

 色んな人と稽古が出来るなんて最高じゃないか。(通いの)師匠はやっぱり手加減するし、パターンも読めてきた。練習もマンネリになっている気もする。

「嫌か? 」

 首を傾げられ、思いっきり首を振った。

 そんなに四朗が意思表示することは珍しい。祖父は微かに微笑んで四朗の頭を撫ぜた。



「相生四朗? 」

 一緒に行くように父に言われた武生は、その名前を聞いてまず驚いた。

 ‥「信濃」じゃなく、まさかの「四朗」。確か、同じ年って言ってなかったか? その年で襲名って‥。

 四家の後継者候補は、襲名するまで幼名の「信濃」を名乗る。それは、四家全員だ。

 武生は跡取りではない。跡取りは長男と決まっていたので、長男の名前も現在、相馬信濃だし、幼馴染の相崎も、相崎信濃だ。‥といっても、相崎は同じ四家の子供で、同じ年という理由で、親たちが無理に会わせたにすぎない。お互い、習い事やなんかがあるから、特に一緒に遊んだりした覚えはない。

 ‥なんか、家のことだとかを鼻にかけるような話し方がどうも好きになれない。何が楽しいのか、いつも気障ったらしい笑顔を張り付けてるのも、気に入らない。共通の話題もないしね。

 次男である武生は、跡継ぎである長男と違い気楽なもんだった。

 スイミング・語学・書道‥行かなければいけない習い事さえこなせば、後は自由時間。外が暗くなるまで近所の子供と走り回って遊んだ。

 五歳の時から背が大きかった武生は、力も強く、近所のガキ大将的存在だった。喧嘩も良くした。特に、妹の菊子が虐められたと聞けば目を吊り上げて相手が上級生だろうが女の子だろうが容赦はしなかった。女の子には流石に手は出さなかったが、目つきのキツイ武生に睨まれたら、どんな子も震えあがった。

 ‥あの頃から、武生は超シスコンだった。

「どんな奴ですか? 」

 武生は父親をにらみつける様に見上げる。

 睨んでいるのではない。なんてことはない、ただ、目つきが悪いのだ。

「賢い子らしいよ。真面目だし。武生のいい友達になってくれそうな気はするね」

 そりゃあ、この年で、襲名だ。人並外れて賢い子だろう。一族が実力やら教養その他を持っていると認めた者しか襲名は認められない。‥一緒に仕事をする仲間だ。一蓮托生なのに、下手な奴は認められないだろう。更に、「技術職」である相模と相生は、それに加えて「一定以上の能力の保有」だった。

 ‥当代(四朗・父)はギリギリだったらしいけど‥。もしかしたら、その辺りの話なのかもな。

 ふと、相馬の当主は思い当たった。

 つまり、異例のスピード襲名を認める程、能力がずば抜けている。補助を付けてでもさっさと仕事をさせたいと思う程‥。流石に五歳は早いが、早いうちには「見習い」と称して仕事を見せられる。襲名しなければ「職場」にも連れていけない。

「相崎の坊ちゃんも誘っていくといいよ」

 相生の息子のことは気になった。でも、息子には勿論そんな話はしない。

 表情にすら出ていないだろう。

「あいつは、あんまり好きじゃないです。家の自慢ばっかりでつまらないし、趣味も合いません」

 武生は、相崎の名前を聞いて、顔をしかめた。

 そんな、(当たり前だけど)「普通の子供」な息子を見て、思わず顔がほころぶ。

 しかし‥、「趣味が合わない」って‥。

「‥うん‥。武生と趣味の合う子は‥五歳児では珍しいんじゃないかな‥」

 五歳児の武生の趣味は、狛犬ウォッチング、石切、あとは子供らしく、鬼ごっこやドッチボールだった。遊び相手が集まれば、鬼ごっこやドッチボールもするが、一人で遊ぶときは、大概河原で石切をしていた。

「相崎は、女と遊ぶけど、俺はそういうの好きじゃない。女は面倒くさいし。相崎みたいな奴、チャラいって言うんでしょ? あいつがテニス始めた理由ってのも「モテるから」ですよ? 」

「‥‥‥」

 分析を始めた‥。

 うん、四家普通の子供いないね‥。相崎君は‥辛うじて普通の子供なのかな‥。(いや、マセ過ぎてるか? )

「まあ、とにかく相生の坊と相崎の坊と一緒に行ってよ‥」

「‥‥」

 相馬・父の呆れた様な顔の「お願い」に、武生はしぶしぶ頷いた。



「‥‥」

 さて、今目の前で正座して顔を少し伏せて師匠を待っている少年を見て、武生はただ黙って、苦い様な複雑な表情をした。

 ‥なんだ、このやったら白い奴は。ちゃんと運動してるのか? ‥外にすら出てないんじゃないのか? しかもやたら細っこいな。ちゃんと食ってんのか? なんだ、その髪型、女みたいだな。男らしさってのが、まるでない。

 短く髪を切っている武生と違い、当時の四朗の髪型は、女の子のショートカットに近い髪形だった。サラサラの黒髪を眉に掛からない位に伸ばして、サイドも耳に掛からない位に伸ばしていた。

 貴公子然とした、正統派「お坊ちゃま」の四朗に、武生は閉口した。

 ‥相崎と同じようなタイプか? 顔やら髪にばっかり気をつかってる奴っぽい。

 そういうの、一番嫌いだ。

 隣の相崎は、四朗を見ていない。(四朗を一度偵察しに行っているので、相崎は四朗のことを見知っている。だけど、そのことは武生は知らない)

 同類だから嫌悪してるのかも

 と、思った。

「よろしくお願いします」

 四朗の、思ったよりしっかりした声にはっとして武生は顔を挙げた。

 いつの間にか師匠が来られていた。

 ‥しまった。よそ事に気を取られていた。

 慌てて「よろしくお願いします」と頭を下げる。相崎も同じように頭を下げる。

 それに比べて四朗は、最初っからよそ事になんて気を取られていなかった。

 さっきまで俯いていた顔をあげて、今は真っ直ぐに背筋を伸ばして、真っ直ぐ前を向いている。

 その目は、鼈甲の様に美しかったが、強く前を見つめる視線は、意志が強そうに見えた。

「今日からお世話になります、相生四朗です。よろしくお願いいたします」

 よく通る声で、丁寧に堂々と師匠に挨拶をする五歳児の四朗を見て、他の子供‥小学生くらいだろうかは目を丸くした。

 ‥なんだ、この「子供らしくない」子供は? って感じだろう。

「相馬武生です。よろしくお願いしたします」

 武生は、皆の様子をちらりと見て、視線を前の師匠に移すと、しっかりとした口調で言った。

 思ったより、堂々と言うことが出来た。四朗と比べたら、勝ってるとは言えないだろうが、五歳児にしては上々だろう。

 その表情は、四朗同様、無表情。

 なんとか、四朗に対する驚きやらその他の感情を表には出さずに済んだ。

 ‥そんなかっこ悪いことだけは嫌だからな。

 師匠が苦笑いしたのが分かった。

 まあ。可愛くない子供たちだよね? 

「相崎信濃です。よろしくお願いします」

 そんな中、相崎だけがにっこりと(主に女の子の方を向いて)笑顔で挨拶したのに、武生は何故だか安心した。

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