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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
十四章 幼馴染
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2. これまでの篤博、その後の篤博。

 篤博に「残して行っていいもの」を考える為に、まず、篤博を分析してみることにしました。

 四歳の篤博は、今、子供らしく私の横で眠っています。私は、篤博の枕元に座って、彼が眠るのをぼんやり見ていた。

 別に、川の字で眠ているわけではありません。

 そもそも、出張が多い四朗様が篤博と眠ることは少なかったですし。

 だから、今までは私が篤博と並んで眠っていたのですが、(私が西遠寺に戻ると決まってから)一人で寝るのに慣れるようにと、篤博はこの頃は私とも寝所が別になっていました。

 清さんが、

「もう坊ちゃまも大きいですから、いつまでもお母様と一緒に眠るわけにもいかないですしね」

 と篤博に話すのを、篤博はただ

「うん」

 と短い返事をして頷いていました。

 まあ、‥別に一緒に眠らないと寂しいとかいう『普通の子供』の感覚はないでしょう。(やっぱり臣霊ですから)

 だから、私の方が、そんな『普通』のことに考えが及ばなかった。

 ‥いけないいけない。「子供」の親としてそれでは‥まずいです。

 そして、冒頭の

 篤博の能力の確認なのです。



 その中で、残して行って問題がないものは(+)ダメなものは(-)とチェックを付けようとおもいます。


 体力: 普通の子供並み。ただし、やたら訓練されているので、同年代の子供と比べて高め。(ですが、彼自身で身に着けたものだから問題なく(+))

 特殊身体能力: 半端ない条件反射。これは、臣霊としてのモデルになってる(私の亡き妹)楓の影響。楓は、病弱だったんだけど、反射神経だけは‥凄かったんです。その能力は大嫌いだった虫を発見した時に、いかんなく発揮されてました。 (これ位はいいでしょう。(+)急に襲われたりしたときに便利ですしね)

 特殊身体能力: 剣術 (彼自身で身に着けたものだから問題なく(+)ですが、臣霊「楓」時代に学んだような特殊な技術は流石にヤバいですね。‥暗殺術っぽいのもあった気がします(-))

 特殊身体能力: 相生としての教育(問題なく(+))

 知能: 西遠寺 楓としての記憶。(間違いなくまずいです。(-))

 知能: 一般常識、語彙力、倫理観(残しておこう‥。これは、ちらちら披露しちゃってますし、まあいいでしょう‥(+))

 知能: 西遠寺家の歴史、常識(消去‥(-))

 知能: 語学(彼自身で身に着けたものだから問題なく(+))


 四歳児としてはまずいものも多いが、まあいいでしょう‥

 


 次に、これがもっとも問題な、『臣霊』としての標準能力・特性


 特殊能力: 鏡の秘術 (間違いなくまずいです。(-))

 特殊能力: 隠密   (残しておこう‥。(+))

 目的・目標: 式神の一種であるから、これが勿論必須。因みに、桜が四朗に望んだのは(最終目的地)「誰からも認められる相生家の次期党首」(これは、絶対。(+))

 標準特性: 唯一と決めたマスターの身辺警護及び、サポート。(間違いなくまずい。(-))

 標準特性: 唯一と決めたマスターの命令が絶対で、マスターを溺愛する。(間違いなくまずい。(-))


 多分、こんな感じだと思います。



 自分で作っといてなんだけど、「作ってはみたけど、その実どういう状態かはよくわかんない」って感じなのだ。‥今まで、そう臣霊っていなかったらしいから、記録もあんまり残ってない。‥そもそも、都合よく使うだけで、分析はしてこなかったんでしょう。‥私だって、こう形になって四六時中「可視状態」じゃなかったら、「時々話を聞いてもらったりする便利な存在」って認識しか持たなかったでしょうし‥。

「多分、これで「私にしか懐かない」って状態ではなくなると思うんだけど‥」

 彼の中から、「唯一」を取る。

 それが、彼にどのような影響を与えるか、‥私はその時考えもしなかった。



 朝、目が覚めた篤博は、ただ、ぽかん、とした。

 自分が何のために起きたのかすら分からなかった。

 今までは、マスターである桜を守るという目的があった。

 マスターを守る為に、剣術を習い強くなろうとした。

 そして、マスターが望むから、相生の跡継ぎとしてふさわしくなろうと思った。

 だけど、自分には‥どうしてもマスターが思い出せない。

 果ては、自分の生きていく意味が分からない。

 愛やらそういう感情ではない。それこそ、唯一の存在意義‥。

「坊ちゃま、起きて下さい。剣術のお稽古のお時間ですよ。おじい様が道場でお待ちですよ? 」

 篤博は、

 ああそうか、‥忘れていたのはそれであったか。

 と、納得して用意をして木刀を持って道場に向かった。

「強くならないと、自分の身が守れないからな」

 と彼の祖父に言われ、

 ああそうか、剣術の稽古は保身の為か。

 相生の次期当主たるもの、自分の身は自分で守らなければならないからな。

 そこに、それ以上の感情はない。


 悲しいも、しんどいも。「何故」って疑問も。嬉しいも、楽しいも。

 今まで、桜が微笑み返してくれたから、微笑み返していた。だけど、別に臣霊である篤博には、「面白い」とか「悲しい」なんて感情は、どうでもいい。

 どういうとき人は悲しいのか、泣いてる人を見たらどうするのか、笑う、泣く、怒る‥総ての感情は知識としてあるけれど、それを行動に移す必要性が分からなかった。

 自分が笑えば桜が笑うから、喜ぶから笑っていたのに過ぎない。

 「正しくない」ことには、声をあげて反論したら、桜は懐かしそうな顔をして「そういうところかわらないなあ」って、モデルになっているらしい楓のことを思い出し、嬉しそうに目を細めた。‥なんてことはない、別に記憶があるわけではない。ただ、そうすると桜が喜ぶなら、する。

 だけど、これからは「相生の男子として清廉潔白・公明正大・公序良俗を心がける」のがその目的。

 彼の生きる意味は、「誰からも認められる相生家の次期党首」に完全にシフトチェンジした。

 特に変わらない。彼自身は、‥少なくとも見た目はちっとも変わらない。

 ただ、ずっと喉が渇いたみたいに、何かを欲していた。

 何か物足りなかった。

 だけど、それの答えは彼の中になく、‥そのことにも彼は不機嫌になった。

 自分は大層物知りで、いろんな知識があるのに、よりによって自分の不快感を表し得る言葉を持ち得ていない。言葉の正体が分からない。

 ‥ちょうどいい言葉が思いつかなくて、でも、辞書で調べる術もない。あの、「イライラ」だ。

 桜のことは、マスターではなく「ただ、自分の世話をする人の一人」に変わっていた。

 だから、自分の前からいなくなっても、悲しいとは思わなかった。

 いっそ、明日から別の人に変わったとしても気にしなかっただろう。

 家族ですら、「ああ、この人たちは相生の家の人たちなんだ」って客観的に見ていたくらいだ。

 ‥桜が思っている以上に、臣霊はドライで‥無機物なんだ。

 そんな、データが飛んだ状態の臣霊は、しかしながら、彼の年齢が小さく、母親がいなくなったという状況もあり、周りの大人には大層「いたたまれない」ように見えたらしい。

 ‥やっぱり、お母様がいなくなって寂しいんでしょう。

 ‥強がって、可哀そうに。

 ‥今まで以上に、勉強や剣術に熱心になったのは、寂しさを紛らわせるためだろう。

 同情する代わりに、家族はより一層、篤博に構った。そして篤博は、はぐんぐん能力を開花させていった。

 そして、五歳になった時、篤博は正式に「相生 四朗」を襲名した。

(以降、篤博のことは、四朗と呼ぶ)

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