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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
補充の章それぞれの『克服』
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10.紅葉父、憧れの父親風吹かせる。

 武生さんが、私にとって戸籍上の兄になると同時に、父さんにとって武生さんは戸籍上息子になるわけだ。

 かって、母さんと駆け落ちをした、愛に生きる熱い男‥っていうイメージは、‥今まで父さんに感じたことはない。

 ただの、子煩悩の父親だ。

 特別夫婦仲が良くって、情熱的な大恋愛の末って感じも、まあない。

 だから、母さんが西遠寺のお嬢様で、桜の姉で、父さんはそんな母さんを西遠寺からさらったって聞いた時、目が飛び出すほど驚いた。

 ‥もしかしたら、駆け落ち当時は、情熱あふれる「愛に生きる熱い男」だってのかもしれない。(想像つかないけど)

 まあ、‥でも多分父さんは普通の人だったんだと思う。

 ただ、プロポーズして、お互いの家族に挨拶して、それで結婚って感じになる。その、相手の家族に挨拶ってのが、とてつもなく高いハードルだったってだけなんだろうと。

 聞いてすらくれなかったかもしれない。

 多分、でその状態に切れたのは、むしろ母さんだったんじゃないかな。

「もういいわよ! 家なんて捨ててやるわ! 」

 って感じが容易に想像がつく。

 ‥実際は、蕗子が徹を頼って、家族に何の相談もすることなく家を出たのだ。

 つまり、駆け落ちではなく、家出だ。

 でも、父さんは何度か挨拶に行こうとしていたらしい。

 だけど、母さんは、それに反対した。

「居住地等が知られると、まずい。どうせ、話し合いにすらならない」

 って。

 もしかしたら、母さん(紅葉祖母)と、外でなら会えるかもって母さんは思ったらしいけど、母さん(紅葉祖母)に秘密を持たせるのも可哀想だって思ってやめたらしい。

 ‥桜にはこれから迷惑をかけるのが、目に見えてるから、‥どの面下げて会いに行けようか‥って感じだし。‥桜には本当に悪いことをする。とは、思ったらしい。

 紫苑兄様に続いて私までだものね。

 ‥まさか、西遠寺が桜たちを離婚させるとは思ってなかったけど。‥そこまでするとは、正直思ってなかったけど‥。

 本当に、桜、ごめんね。

 母さんは、懺悔する様に私たち姉妹に話してくれた。

 ‥だから、母さんはくれちゃんが、あの魔女の元で修行することに口が出せないんだろう。

 いつか、総てのわだかまりが無くなって仲良かった姉妹に戻れるといいな、って思う。

「桜との関係は、‥別にこんな感じでいいわ。西遠寺が関わって来なかったら悪い様にはならない」

 って母さんは言ってるんだけどね。

 ‥名門旧家って大変だ。

 我が家は、そんな感じじゃ勿論ない。

 ホント、ただの一般家庭だ。

 姉妹ともども、小中高大一貫の私立の学校に通っているが、別に金持ちとかではない。

 そこが母さんの母校で、母さんが

「成績が良かったら、奨学金が出るし、受験してみて」

 っていうから受験したら、奨学金の基準をクリアー出来た。ただ、それだけのこと。(母校に自分の娘たちを入学させるって、隠す気あるんだろうか)

 そりゃあまあ、制服だとか教科書以外の教材だとか、公立よりお金がかかるが、それ以上のものは吸収できたと思う。やっぱり、それだけのことはあるんだ。

 いい友達にも恵まれた。

 庶民感覚(ってか、100%庶民だ)の私には庶民感覚の友達が何となく集まってきて、貧乏人って虐められることも勿論なかったし、話が合わなくて悩んだってことも、ない。まあ、そんなの今時、考えられない。(だけど、関わって来なかったけど、どうやら、今時そんな感じの人も一部にはいたようだ)

 ただ、庶民感覚ってだけで、その友達が実は社長令嬢だったってことは、結構ざらだったけど。

 まあ、そんなの関係はないことなんだ。

 思えば、四朗君も武生さんも、所謂お金持ちだけど、そんな感じじゃ全然ない。

 いい服着てってのもないし、外食が高級レストランってのも全然ない。(‥そもそも、外食とかあんまりしないらしい。武生さんのほうが、外食は多いらしい)

 でも、‥確かに仕草だとか、そういうのが「洗練されてる」っていうのは、思う。

 そういうの、ただの金持ちより「リッチ」な感じがする。

 この前、四朗君の実家に遊びに行った時

「じいさんは、外食とかってタイプかも」

 って四朗君が言っていた。私たちが通っている大学は関東にある。四朗君は電車で通学していて、私は佑奈たちとルームシェアしているんだ。

 で、たまに四朗君のおうちに遊びに行く。

 今では、家族同様だ。

「清さんのご飯美味しいです」

 ってにこにこで、千佳が相生家の食卓に混ざっている。

 それから、話題が何となくご飯の話になって、

 ‥今に至る。どういう流れで「外食」の話になったのかは、今となっては分からない。

「割烹料理屋とか連れて行ってもらったことある」

 って四朗君が言うと、博文君も頷いて

「あと、美味しい蕎麦屋とかね。おじい様は美味しいものをよく知ってるよね」

 ってにっこり。

 色街にお友達がいて、よくそこに入り浸ってるらしいし。(色街っていって、そんじょそこらの色街じゃない。それこそ、芸者さんがいるようなとこらしい)

 お友達‥。

 後日会わせていただいた四朗祖父は‥、凄い麗人って感じのおじい様でした。芸者さんに友達も納得の「粋でいなせな」って感じ? 

 ‥一番名門旧家よりの人でした。

 でも、(奥様である)おばあ様から白い目で見られて、ちょっと居心地悪そうな感じとかは、ちょっと人間っぽくてかわいかった。

 こんな感じでも、仮面夫婦とかってのでは、無いらしいし、恋愛結婚らしいと聞いてなんかほっこりした。

 二人は幼馴染らしく、四朗君曰く「じいさんはおばあ様に頭が上がらない」らしい。

 だけど、きっと仕事では、それはそれは有能なんだろう。

 それは、四朗君も四朗父も同じ。

 ちょっと、見てみたい。

 でも「働くパパはカッコいい」ってイメージでは、多分こんな感じじゃない。将来、子供たちが見ても「働くパパかっこよかった」って感じはしない気がする‥。

 ‥むしろ「父さんの事、ちょっと軽蔑しそう」って感じになりそうで嫌だな。(千佳のイメージでは、四朗の仕事は、ほぼ「ホスト」‥あながち間違いではない)



 今日は、柊家だ。

「君が家に初めて来たときは、‥こんなこと想像できなかったよ」

 ダイニングのテーブルで家呑みの用意をしながら千佳の父・徹が言った。手にしているのは、徹自慢の琉球ガラスのビアグラスだ。家族用に4色あるが、千佳も紅葉も飲まないので、いつもは、内二色しか使われることがない。特に、どれが誰って決めてはいないらしいが、徹はいつも緑っぽいグラスを、母・蕗子は赤っぽいグラスを使っている。徹は、四朗用に青っぽいグラスを用意した。これからは、これを四朗の専用にしようとか思いながら。

 冷酒用のガラスのお猪口も並べる。

 徹は、(そんなに強いわけではないんだけど)お酒が好きなのだ。いろいろをちょっとずつっていうのが楽しい。

 おつまみには、特にこだわりはない。冷酒を主にするときは、刺身にする時もあるが、今回はビールが主になるだろう。クラッカーとスライスしたゆで卵やなんかを机に並べる。

 徹と蕗子が一緒に家で飲むときも、おつまみの用意をするのは、徹だ。

 今日は、蕗子もチーズやなんかを机に並べる。

 四朗もそれを手伝いながら

「そうですね‥」

 って、ちょっと申し訳なさげに笑った。

 まあ、そうだな。

 あの時は、「桜の縁者」として泊めていただいた。それも、急にだ。

「あの時は、本当に申し訳ありませんでした」

 畏まって頭を下げる四朗に、

「まあまあ、いいさ。硬いことはなしにしよう。君は僕にとって甥だし。もうすぐ息子になるんだし」

 息子って言葉を口にした徹は、ちょっと寂しそうというか、複雑な表情をした。

「すみません‥」

 つい、四朗も謝りそうになり、徹に慌てて止められる。ふふ、と横で蕗子が笑う。

「まあ、いいさいいさ。四朗君も武生君もしっかりしたいい子で、正直、出来過ぎた息子って感じがするよ」

 なんだかご機嫌な徹は、

「うちは、女の子ばかりだから、息子とお酒を飲むのが夢だったんだ~」

 なんてべたなことを言ってる。

 そして、ちょっと口を閉じ、ふっと静かに微笑む

「仕事やら人間関係やら。君にも大事なことは沢山あると思う。君は僕から見てたら、‥正直凄いなって思う。だけど、家族を持つ者としては、僕の方が年長者だ。僕は家族を愛しているし、いい父親だと自分では思っている。‥そういう気持ちでもって生きてきた」

 穏やかにゆっくりと語る口調は、何かを噛みしめているような、自分に言い聞かせているようなひびきがあった。

「はい」

 四朗が手を止めて、徹を真っ直ぐ見て話を聞く。

 そんな四朗を見て、徹が四朗に微笑みかける

「これからは、君も家族だ。‥千佳を大切にしてやって欲しい。それと‥、何でも僕を頼ってほしい。僕も君の父親になるんだからね」

「ありがとうございます」

 四朗が深めにお辞儀した。

 それを見て、千佳は妙に恥ずかしい様な気持ちになった。

 ‥なんか、変な感じ。

「うんうん。さ、呑もう! 」

 照れた様な顔になる徹は‥、ちょっと威厳が無さすぎる様にも千佳は感じた。

 ‥いいこと言おうとしてるんだったら、もうちょっと最後までビシッといって欲しい‥!

 ふわりと笑い、徹が例のグラスを四朗に渡し

「はい」

 四朗も笑みを返す。



 小一時間後、徹は机に突っ伏して眠ってしまったようだ。

 徹を蕗子に断って部屋に運ぶ四朗を見て、千佳が呆れた様な顔になる。

「‥根暗、あんたお酒強いんだね」

 足元もしっかりしているし、それどころか顔色一つ変わっていない。

 顔色どころか、赤くすらなっていない。

「接待で飲むことが多いからかな。あと、‥あんまり飲まないで合わせるって癖がついてる」

 まったく危なげない感じで徹を背中に担ぎ上げると、二階の夫婦の寝室に運ぶ。

「そんな感じだよね」 

 ‥さすが、一流のビジネスマン‥。

 スピードだとか、会話だとか、‥確かに四朗は徹と同じペースで飲んでいない。

 そんな話をしている間に二階について、紅葉は四朗の前にいく。今まで、一応四朗の後ろで徹が落ちないか見ていたのだ。

 実際、危ないなんて思いもしなかったんだけど。

 前にでた千佳が夫婦の寝室の扉を開けたりなんかする。

 二階には、千佳の部屋と紅葉の部屋、夫婦の部屋が階段を囲むようにある。夫婦の部屋の奥にレストルームがあり、千佳の部屋と紅葉の部屋の奥に大型の物置がある。計5部屋だ。

 父親を布団にいれると、千佳と並んで階段を下りる。

「ご家族、みんな強いの? 」

「皆‥どうだろう。まあ、ひいじいちゃんもじいさんも強いね」

 ‥そもそも、臣霊だから、かもしれないけど。

 ‥そう言えば、母さんや祖母が飲んでいるのは見たことがないな。博文と飲むことも、今までなかったから、わからない。

「ひいおじい様‥。曾祖父ってこと? 」

 だれだろ、会った覚えがないけど‥会ってたかな?

 千佳が考えていることが分かったらしい四朗が頭を振る。「一緒に住んでいないよ」

「そうだね。今度、一緒に会いに行こう。‥穏やかな人だから、千佳ちゃんとも話がきっと合うと思うよ」

「ええと、‥まだお元気‥なんだよね。っていうか‥おいくつ? 」

 急に歳を聞くのも‥普通は変なんだけど

「ん? もうすぐ70になる‥かな? 」

「‥‥(曾祖父でこれだよ‥。70っておじいさんでも、若い年だよね‥)」

 ‥相生家、結婚早すぎ。

 つい黙ってしまう千佳だった。

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