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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
補充の章それぞれの『克服』
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6.恋愛は別として、結婚に一番縁遠い人 (下)

 恋愛は別として、結婚に一番縁遠い人って、誰だろ。

 昔は、武生さんだって思ってた。

 でも、今武生さんは一番結婚に近い。

 兄ちゃんも縁遠いって思うけど、兄ちゃんさえ了承したら、明日にでも菊子ちゃんと結婚出来るだろうし、きっと、それなりに上手くやっていきそう。

 俺も、‥どうやら、恋をしているらしい。

 きっと松原とだったら、堅実な結婚生活とか送れそう。

 きっと、上手くやっていけそう。

 そういうの、松原とはわりと‥想像できる。

 河合みたいに「次に何するか分からない」トリッキーさが、松原にはない。

 面白くっていい奴だけど、凄く常識的なんだ。

 そういうのって、安心できる。

 相崎さんには、きっとそこまでの子、いない。

 そこまで信頼してる子、いなさそう。

 だから

 きっと、恋愛は別として、結婚に一番縁遠い人は、今横にいる相崎さんだ。



「一緒にジムに行って汗でも流そ? 話はあとで聞くよ。あ、お家の人にはさっき俺の方から連絡入れといたから大丈夫だよ。ま。気にするなって。幼馴染じゃないか」

さっきから、黙ってちょこん、と後部座席の、相崎の横に座っている「借りて来たネコ」みたいな博文に、相崎がフランクな感じで言った。

「スミマセン‥」

 ぺこ、と博文がお辞儀をする。

 ‥しかし、なんでこんなことになった??

 幼馴染っていっても、年が同じで幼馴染なのは、兄の四朗だ。博文と相崎は「まあ、偶には一緒に遊んだ」位のものなのだった。

 ‥俺、相当弱ってる。

 そんなことを移動する車内で考えた。



「あ、翔。ジムじゃなくて、あそこいってよ」

 と、翔が信号待ちで車を止めたときに、相崎が言った。

「え? 」

 後部座席にふと目をやった翔の耳元で相崎が指示を出す。

 こそっと。

 ‥なんで、こそっと。

 博文は胡乱気な目でそれを見た。

「ふうん、はいはい。ま、方向一緒だからオッケーっしょ」

「お願いね♪」

 ‥しっかし、この運転手の兄ちゃん、相崎の友達か? すっごい喋り方とかフランクなんだけど‥。

 車は、どう見ても相崎の家の車なんだけどなあ‥。

 だけど、それを聞くことも、外に相崎と、何かを話すわけでもない。

 博文は、ぼんやり窓の外の景色が流れるのを見ていた。

 ‥こんなところ来たことない。

 そもそも、学校と家の往復、たまにそれにスイミングだとか習い事が加わるくらいだ。

 それは、兄ちゃんもそう。

 兄ちゃんはもっと酷い。

 学校帰りに友達と遊ぶとかって考えたことなかった。

 ‥部活の打ち上げで食事に行くとか、カラオケに行くとかは普通にあるけど‥。それは、そんな「特別なこと」だった。

「ひろ君は学校帰りに寄り道とかしないでしょ」

「しませんね」

 相崎の問いかけに、博文が即答した。

「どうして? 」

「どうして、って、別に‥。そんな必要ないし」

 どうしてって、‥どうしてだろ。

 別に兄ちゃんもそんなことするタイプじゃないし、初めからそういうことするって考えがないっていうか‥。

「やりもしないで、面白くないって思い込むのはもったいないよ」

 ‥別に、したくないし。

 仮に、そのことが面白くって部活動や勉強をおろそかにするようになったら、俺は自分がきっと嫌になる。‥でも、俺はもしかしたら、‥そう決めつけているのかもしれないな‥確かに

「まあ、いろいろやってみればいいし、いろいろな人と話してみた方がいい。自分の考えが総てじゃないって分かる。四朗も色々な人と話してるけど、‥仕事で知り合う人と、プライベートで‥特に学校での友達って、特別だよ。全く違うものだ。確かに、人生については語らないだろうけど、‥もっと特別な時間が過ごせる。そんな時間をはじめっから無駄にするって、勿体ない」

 ‥相崎の癖に、なんか実のあるっぽいこと言ってる。

「その時その時しかない経験を、その時その時全力でするってのが、この先の財産になってくんじゃない? 先取だけじゃもったいない。背伸びしてちゃ、見えない足元の花だってあるでしょ」

 ‥足元の花‥。

「恋だって、がっちがっちの硬い頭じゃ、出来ないよ」

 ってにこり、頼もしいような笑顔。

 相崎の「仕事用スマイル」なんだろう。

 兄ちゃんの仕事用スマイルは、怖い程綺麗で目が離せないけど、それとは違う頼もしい笑顔。信用できる笑顔。

 ‥敵わないなあ。

「さて! 着いたよ。ひろ君。体育館。バトミントンしよう。ひろ君ならテニスでしょって思ったけど、でも、全国大会出場のひろ君にテニスで挑むほど、俺は馬鹿じゃない。ってか、俺も負けるのは嫌だ」

 で、バトミントン。

「バトミントン‥」

「ひろ君対、俺と翔のペア。ダブルス方式ね! 」

「完璧、俺が不利なんですけど。それに、バトミントンの細かいルールとか知りませんよ」

「大丈夫、俺もあんまり知らない。まあ、いいじゃない! 」

「‥‥」

「それ! そうやって考えずに、身体動かそう! 」

 そう言い残すと、相崎は体育館を借りる受付をする為に走って行った。

 ここ、いくらくらいするんだろ。後で聞いて、半分払わなければ、そんなことを考えていると

「いいんですいいんです。気にしないで、中学生でしょ? 」

 って、翔が笑った。

「ひろさんでしたっけ。正光君のいう事そんなに気にしなくていいよ。あの人、ちょっと無責任なこと急に言うから。‥でも、面白いいい奴だろ? 」

 翔がぼそっと、博文に言って、苦笑いした。

 ‥いい奴

 そんな風に言われたら、確かにそんなに嫌な奴じゃないかも、って気がしてきた。

 (洗脳か? )

 でも、翔がすぐ

「ま。正光君の恋愛観を真に受けるのは特にお勧めしませんね。あの人、独身貴族最有力候補ですよね」

 ってけらけら笑った。

 やっぱり、親しい友達にもそんなふうに思われてる。

 ‥でも、いい友達だな。いい友達がいるんだな。

 今まで、相崎はチャラいって先入観で見てたけど、‥結構色々考えてるかも‥だし、そんなに嫌な奴じゃないのかもしれない。

 でも

「で、失恋したの? ひろ君」

 って、受付を済ませた相崎がにやにやと聞いてきたのには、思わず年上だというのも忘れて

「してねーよ! 」

 叫んでしまった。

 いや、やっぱり微妙かも!!



「あのさ、松原‥」



 昨日、結局博文は、相崎たちと夜8時くらいまでバトミントンして、で、ちょっとお茶飲んで、帰ったら9時を過ぎていた。

 結論からいうと、別に悩みは解決しなかったけど、楽しかった。相崎のことも、前ほど苦手じゃなくなった。それは、収穫だった。

 でも、ベットに寝転がったら、また、あれこれ考えてしまった。

 四朗は寝ているのか、身じろぎ一つしない。寝息すら聞こえない位で「ホントに生きてるの? 」って心配になる。と、思い出したみたいにちょっと寝返りを打った。それには、かなり驚いた。

 その後またあれこれ考えて、結局あんまり寝ていない。

「博文、あんた顔色悪いよ」

 って松原が叫んで、今博文に付き添って保健室に向かっている最中だ。

 授業中だから、周りは教師の指導する声位しか聞こえない。

「大丈夫? 」

 って、松原が下から博文の顔を覗き込む。黙って博文が頷いたら、また前を向いて歩き始めた。

 松原は博文より身長が頭一つ分以上低い。

 博文がぼんやり松原のつむじを見ていたら、

「何、博文」

 って、軽く睨まれた。

「あのさ、松原」

「うん」

「昨日、七尾さんに謝った」

「? うん」

 なんでそんなこと言い始めたんだろう? って顔で、松原が首を傾げて博文を見た。

 博文は、松原を見ていなかった。ただ、俯き加減に、ちょっと困ったような顔をしていた。

「なんか違うなって、柏原さんの告白も断った」

 柏原は、一昨日教室に来てた子だ。やっぱりあの子も告白だったのか、と松原はぼんやり思った。

 でも

「うん‥」

 何が言いたいのだろう、って顔で松原は首を傾げた。博文はやっぱり俯き加減で、声にも元気がない。

「どうしたの? 」

 松原が、そんな博文の顔を覗き込んで、はっとして、そして、

「泣きそうな顔してる‥」

 心配するような顔で言った。

 心配されてる‥って思うと、ちょっと嬉しい様な、情けない様な、恥ずかしい様な複雑な気持ちになって

「俺さ‥」

 博文は松原の顔を見た。

「うん」

 真剣な顔をして、松原が博文を見る。

 二人は、階段の前で足を止めた。

 ここからは、教室の声もなにも聞こえず、ただ静かだった。

 博文は松原を真剣な顔で見下ろして、松原も同じように真剣な顔で博文を見上げた。

「俺、松原のことが、女子の中だったら一番好きだ。‥だけど、そう思うだけ。付き合いたいとか、そんなのはよくわかんないけど‥俺、松原のことが一番好きなんだ」

 博文の声は、大きくなかったけれど、だけど、よく通った。

 ただ、博文の声だけが松原に聞こえた。

「‥‥‥」

 松原の目が見開かれる。

 そして、ゆっくりと俯いた松原の顔は、

 真っ赤だった。

「そっか‥」

 そっか‥、と二度ほど繰り返す。

 なんか、松原のこと、困らせてるなあって博文は思った。

 でも、「うそ、ごめん」って誤魔化すのは嫌だった。

「ありがと‥。うん、あたしもよく、付き合うとか‥そういうのは、まだよくわかんないけど、‥博文のことはきっと、‥男子の中で一番好きだ」

 俯いたまま、松原が言った。

「そっかぁ」

 ぽつり、と博文が呟いた。

 もう、それだけで充分だった。なんだか、笑いだしたいくらいくすぐったい気持ちになった。

 そっかあ、ともう一度繰り返す。

「それだけか」

 松原が真っ赤な顔のまま、ちょっと怒ったふりをした。

 松原が顔をあげたので、目がちょっとあった。

「!」

「!」

 で、お互いびっくりしてすぐ目を逸らした。松原はまた下を向いて、博文はつい横を向いた。

 でも、松原が下を向いているのを確かめると、またゆっくりと顔を前に戻して、また松原のつむじを見た。

 なんか、これ可愛いって思った。

「‥なんか嬉しいなあって」

 つい、呟く。

「そだな。なんか、嬉しい。‥でも、なんかやたら照れるね」

 松原も言って二人で笑った。

「なんか、調子も良くなったし、教室戻るか」

 って照れ隠しに提案してみたら、松原が呆れた様な顔で博文を見て

「‥博文、顔が真っ赤で、確実に前より調子悪い人みたいだけど‥」

 って

 そういった松原の顔も、真っ赤で

「これは、このまま帰ったらまずい奴だな」

 って大爆笑。

 こういうのが、まだ、俺たちにはちょうどいい距離なんだろう、って思った。



「ふうん、弟さんがねえ」

 今日は、紅葉の家族と武生の家族とがお食事会をするって言うので、紅葉たちの家族がこっちに来ていた。

 で、うちに今いるのは

 千佳ちゃんだ。

「根暗の家、見たい」

 っていう千佳ちゃんのたってのお願いで、今は紅葉ちゃんたち一家が家に来ている。

 言った覚えは‥ないんだけど、千佳は紅葉と四朗の入れ替わりのことについて何かを知っている。多分、何かちょっと気付いているんだろう。

 で、紅葉が住んでいた家や、家族を見てみたくなったんだろう。

 同じ年の弟が居るのには、驚いていた。

 紅葉ちゃんは、博文に「博文お勧め料理本」なんかを見せてもらっていた。紅葉ちゃんの両親は、相生家ご自慢の庭を見ている。

 相生家は、部屋数はそう多くないけど、部屋は広いし、結構人がいっぺんに入れるんだ。

 庭も大きいし。

「付き合うとかそんな感じじゃないけど、そんな感じの子が出来た」

 って、博文が四朗に報告したのは昨日の事、で、今日、四朗は千佳にちょっとそんな話を何となくしてしまったったんだ。

 ホントに、何となく何故か、だ。

「寂しい? 」

 千佳が、ちょっと意地の悪い様な顔で四朗を見上げる。

 この顔は、八年間、千佳の「姉」をしていた時には見なかった顔だ。

 でも、四朗にはそういえば、よくする。

 まあ、いうなれば、四朗限定の顔。

 それは嬉しいのか悲しいのか。

 (紅葉の話を聞いても、あんな態度をとるのは、どうも、四朗限定らしい)

 それって、特別相手にされていないのか、特別意識されているのか(ツンデレ? )どっちなんだろう。

「何故? 嬉しいよ」

 四朗が首を傾げる。

「冷めてる」

 ふふ、と千佳が笑う。

 ずっと女の子だった千佳は、紅葉より、女の子らしい。

 紅葉は「カッコいい」し、「綺麗」だけど(時々は可愛いけど)、千佳は、ただ、可愛い。紅葉に憧れて、紅葉っぽく振舞っているけど、やっぱりただ可愛い。釣り目勝ちのところだとか、意志の強そうな眉毛だとか、顔も似てるけど、雰囲気は全然違う。

 ヒョウと、ヤマネコ位違う。(家ネコという感じはない)

 千佳を見た時の、博文の「え! 」って顔は笑った。

 で、四朗と普通に話す様子を見て、今度は両親、祖父まで千佳を二度見した。

「四朗」

 何も言わなかったけれど、皆の言わんとしていることは、普通に分かった。

 ‥千佳ちゃん、うちの家族にロックオンされましたよ‥。

 とは、言わないでおいてあげる。(きっと嫌がるだろうから)

「そうかな? 」

 四朗が首を傾げて、さっきの沈黙を誤魔化す。

「次は学校行ってみたい」

「学校? 」

「四朗。案内してあげなさい」

「でも、紅葉ちゃん家族でご飯食べにいくんでしょ? 」

「あ、いいのよ。千佳」

「行っておいでよ」

 と言ったのは、紅葉母と紅葉で、紅葉父は確実にショックを受けている。だけど‥女性陣の決断には口出せないのだった。(確かに、父さんにはそんなとこ、あった)と八年間「娘」をしてきた四朗は苦笑いした。

「ここが学校」

 学校は、日曜日だったから、勿論校門も閉まっていが、

「おもってたより、小さい」

 って千佳はご機嫌だった。

「他の学校って、ちょっと気になるよね。文化祭とか行ってみたかったなあ」

「うちの学校の文化祭は、他校生入れないんだ。他の学校に比べて地味だし」

「へえ」

 千佳がちょっと驚いた顔をする。

「相崎なんか、「出会いがないなあ」って不満で」

「相崎? 」

「幼馴染。チャラいんだ」

 四朗が眉を寄せて言うと、

 あはは、と千佳が笑った。

「あんたとは正反対だね」

 って。

 眩しい笑顔を向ける。

 気付けば、前に紅葉(の振りした桜)と語った並木道に来ていた。

 桜の木の葉から、木漏れ日が光のシャワーみたいに降り注ぎ、緑の葉が眩しい。

「綺麗! 素敵ね! 」

 千佳がくるりと回ると、高く括ったポニーテールがふわっと揺れた。

 四朗が微笑んで足を止める。千佳が、四朗を振り向く

「ね、根暗。あんたって女の子口説いたりするの? 」

 ん? 

 四朗が首を傾げる。

 なんだ、急に? って顔をしている。

「‥したことないけど‥。まあ、仕事でそれっぽいことすることは、‥まあ、ある」

「ふうん、なんか寂しいわね。そういうの」

 苦笑いして言ったけど、今日の千佳は機嫌がいい。

 にこにこと、四朗の顔を見て、

 ふうん、顔はいいのにね、

 ってぼそっと付け加えた。その声は、でも四朗には聞こえていないだろう。

「そう? 」

 四朗が眉を寄せる。

 ‥一体千佳ちゃんはどうしたんだろう? ってちょっと戸惑う。

 千佳は、そんな四朗に、にっと

 小悪魔な笑みを浮かべて、下から見上げる。



「ね、口説いてみてよ。試しに、私の事。普通に、仕事とかじゃなく」

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