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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
補充の章それぞれの『克服』
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4.食に対してのこだわり云々。

「紅葉さんが努力をしてくれるのは、嬉しいけど、無理はしなくていい‥。紅葉さんも忙しいのに。特に家庭料理にこだわりがあるわけではないし」



「好きな料理は何ですか? 」

 って武生さんに聞いた時言われた。

いつもみたいに、ぼそっと。

「我が家の‥おふくろの味‥。何でしょうか」

 って菊子ちゃんも首を傾げてたし、

「お弁当は、大きな塩お握り3つですよ。いつも。ラップにくるんで持っていくんです。‥中学生の頃は気にならなかったんですが、高校になったら、何だかおかずがないのがさみしくなって自分で卵焼きを焼いて持っていき始めました。だから、卵焼きだけはうまいんです。今では、弁当箱に卵焼きと蒲鉾を入れてるんですよ。‥ご飯はバラご飯ですが」

 は、三郎さん。

「昼食を外に食べに‥ですか? 行きませんよ。職場の周りにはお店は何もないんです。コンビニ位ですかね‥。学生時代も‥学食には行きませんでしたね。混むし、うどんとラーメン、A定食、B定食しかないしね」 

ふふ、と三郎さんが言うと

「あれは嫌だ」

 武生さんも頷く。

 因みに、うどんとラーメンの出汁は一緒ならしい。つまり、麺が違うだけ。武生たちの学校は私立だというのに、学食が充実していないようだ。あとは、調理パンを別のカウンターで売っているだけのものなのだが、それでも昼食時には学生でごった返しているらしい。

 確かに武生だったら、人でごった返す学食でラーメンを注文するより、おにぎりを選ぶだろう。

 三郎も、どうやらそんなタイプらしい。

 三郎のことは、まだまだよくわからない紅葉も、「そうなんだろうな」とさっきの話を聞いていて思った。

 紅葉の「四朗時代」は一人で、「いつもの場所」で食べていたが、今、四朗はどうなんだろうか。武生と食べたりしているんだろうか。武生に尋ねたら

「そんなことはしない」

 ってあっさり、しかも、露骨に眉をしかめられた。

 武生や四朗も、どうやら一人でご飯派らしかった。

「私もお友達とは食べませんね。お食事の時間くらいは一人でゆっくりしたいですもの」

 毎日が戦い、皆がライバルな(という気持ちで臨んでいる)菊子にとって、昼食時まで気を張るのは精神的にも美容的にも良くない、らしい。

 魔法瓶に、あったかいジャスミンティーを入れていって、塩お握りと一緒にゆっくりと昼食を食べるのが日課らしい。

 ジャスミンティーは、朝自分でティーパックで入れていくと言っていた。

「成程‥」

 つまり、この家は誰もそんなに食にこだわりがない‥。

 因みに、紅葉の学校にも学食はあるようなのだけど、紅葉は行ったことがない。卒業までに行っておこうか、と思ったけれど、お弁当もあるのに‥と思うと、なんとなく行くことはなかった。それに、確かに混雑する学食というのは、行くのに勇気がいる。小西たちも弁当派だから、余計だ。



 さて、武生たちの母親の紘子の得意料理は、鍋だ。

 得意料理というか、鍋料理以外の手料理が食卓に上がった覚えがない。

 大きな昆布を沈めた土鍋に、白菜だのネギだのを彫り込む鍋は、相馬家の冬の定番料理だった。味付けは特にしない。皆各自、ポン酢など好きなものにつけて食べる。最後には、その昆布も食べる。

 夏の定番は、豚しゃぶに湯豆腐だ。

「鍋は、‥体にいいわ」

 が、彼女の口癖であり、自論だ。

 未来のお姑さんだから、よいしょするつもりはないが

「そうですね」

 まあ、確かに体にはいい気もする。

 そしたら、隣で出汁を取っていた博文が呆れた顔して(博文が呼ばれたときは、博文が味を付けて寄せ鍋にしているようだ)

「‥煮物も、いいと思うぞ。ってか、揚げ物だって、それぞれに良さってものがある」

 と、言った。

 しかし

「そうねえ。あと。‥鍋は‥自由だわ」

 紘子はそれを丸っと無視して、鍋礼賛を続けた。

「スルーはやめてください」

 博文は更に呆れ顔になる。

「うるさい‥」

 ぼそり、と博文の横で、紘子が(博文しか聞こえない様な超小声で)呟いたのは、紅葉には聞こえていなかったようだ。

「自由」

 紘子の横で、野菜を洗いながら紅葉が首を傾げた。

「そう。何をどう入れる、じゃなくって、鍋が‥いつも奇跡を起こしてくれるわ」

 紘子が、どや顔で言った。

「奇跡」

 よくわからなかったけれど、まあ、確かにそうなのかもな、と紅葉は思った。



「貴女のお姑さんは相変わらず面白いわね。紅葉」

 紅葉の話を相槌を打ちながら聞いていた桜が、ほほ、と朗らかな微笑みを浮かべて言った。

 そんな桜を見ていて、紅葉はふと

「‥桜様はお料理はなさらないんですか」

 そんなことを聞きたくなった。

 しかし、「しないだろうなあ」って思ってはいる。

 ‥だけど、一時は結婚されてたわけだしなあ。

 だが、答えは、

「しないわよ。お料理なんて出来る人がするものよ? 」

 って。「何故そんなこと聞くの? 」って顔だ。

 ‥予想通りだった。

「‥‥‥」

 まあ、‥そうだろうな。

 それで、紅葉は話を変えることにした。

「桜様は、お料理だったら何が好きですか? 」

 お料理のレパートリーも増やしたかった紅葉は、最近これも皆に何となく聞くことにしていた。名前が分かれば、パソコンのレシピサイトなり、料理の本なりで調べることが出来るから。

 桜は、きょとん、と一度目をぱちくりさせてちょっと首を傾げる

「海老真薯」

 しかし、考える時間も特に取らず言った。

 えびしんじょ?

「‥‥どうやって作るのでしょう」

 ‥そもそも、どんな料理でしょう。

 ‥海老‥っていうからには、海老が入っているんですよね? 

「しらないわよお」

 ころころと桜が朗らかに笑う。

 ‥まあ、これも予想通りだ。



 でも、料理をしよう、って意識すると今まで見えなかったことが見えてきたり、今まで気にならなかったことが気になり始めたりしてきた。

 博文のこともそうだ。

「博文君は何故料理をしようって思ったの? 」

 たまたま話す機会があったから、紅葉は博文に聞いてみた。

 博文は、「え? 」って一瞬きょとんとした顔をしたあと、「うーーん」とちょっと考えて

「一人暮らしして、困るの嫌じゃないですか。だから、かな。今時男も料理位できないとね」

 て、笑った。

 この答えに、首を傾げたのは紅葉だった

「でも、一緒に暮らしてた時はしてなかったよね? 」

 と、紅葉はそのままストレートにさっき感じた違和感を口にした。

 結構つい最近まで、紅葉は「四朗として」だけど、博文と一緒に暮らしていたんだ。その時、博文が料理をしていたことなんて一度もない。

「一緒に暮ら‥! 。駄目ですよ、紅葉さん、武生さんが聞いて誤解するようなこと言っちゃ」

 博文が周りをきょろきょろして、(周りに誰かいないか確認し)盛大に赤面しながら、慌てた声を出した。ここは、相生家で武生がいるはずはないけど、ちょっと焦った。(まあ、両親やなんかに聞かれて誤解されるのもいやだ)

「あ、ああ。そうですね‥」

 紅葉も慌てる。

 確かに「一緒に住んでいた」はない。まるで同棲していたみたいだ。

 慌てふためく紅葉を見て、博文が「まったく、紅葉さんは相変わらずだなあ」って笑う。

 そして

「そうですね、し始めたのはつい最近ですね」

 と、頷いて言った。

 確かに最近、だ。

 友達に「家で大根が良くできたから、ひろぷーもよかったら」って野菜をおすそ分けしてもらって、それを清さんに渡しながら「俺も、何か作ってみたい」って頼んで煮物を作ったんだ。そしたら、それを兄ちゃんがおいしいって言って食べて。

 それが、やたら嬉しかった。

 それからだ。博文が料理をし始めたのは。

 元々凝り性だから、それからどんどんのめり込んでいったのは、想像に難くない。

「‥で、あんなに上手に出来るようになったりするものですか‥」

 と、聞きたいのはこれだ。

 つい最近、ちょっと始めた位で。あの味が出せる‥才能なんだろうか。ジェラシーを隠せない。

「舌で覚えてたら出来るんですかね、俺もそれはよくわかんないです。ただ、清さんの作ってたものをまねする感じから始めて、ここはこうしてみよう、とか、こんなの作ってみよう、とか。あとは、兄ちゃんが美味しいって言ったら、またつくろうとか。面白いですよね、料理。まだ、包丁とか使うのはそんなに上手じゃないから、千切りとか大きさがバラバラだし、時間もかかるから‥そんなに上手ってわけではないですよ」

「はーー。才能の差でしょうか‥」

 紅葉が「はあ‥」ってため息をつく。

 はは、と博文が微笑んで

「味の好みって、人によって違いますからね、これから先「これだ! 」って思うものを紅葉さんが紅葉さんなりに見つけていくといいですよね。作るのが苦手で嫌いなら、‥作らなくたっていいとは思うんですけど、紅葉さんは作りたいんでしょ? 」

「ええ。武生さんに作りたいんです」

 紅葉が大きく頷いた。

「武生君は愛されてるなあ。羨ましい。まあ、でも誰かの為に作るって楽しいですものね」

 博文が微笑んで言った。暖かい笑顔に癒される。

 本当に、博文は今でも紅葉のいい弟だ。

「でも‥作れないんですよ‥」

 紅葉は、ふう、と小さくため息をついて肩をすくめた。

「作れるものを作ってたら、そのうち作れるものが増えてますって。ね。武生君の好みなんかも聞いて‥」

「‥! そうですね! 好みはありますものね! 」

 急に食いついてきた紅葉に、博文がちょっと驚いた顔をする。

 ‥ん? 何か食いつくようなこと言った?

 だ。

 ‥「武生君の好み」‥かな?

「武生君脂っこいものがだめ、ってのは分かってるわけだから、あっさりしたもの極めるといいかもしれないですよね」

 だから、博文はそう言葉を続けてみた。

「むつかしいですよねえ‥」

 ほお、とため息をついたものの、紅葉は「幸せそう」に見えた。

 ‥ほんと、なんか惚気られてるみたい‥。

 幸せオーラに、ちょっと酔いそう‥。

 ま。こんな話、恋人もいない中学生がするのも変な話だ。さっさと切り上げるに限る。

「考えないこと、ですよ。今は情報もあふれてるから、ひとつづつ作っていくのも楽しみですよね」

「そうですね」

 そう頷く。と。

「ただいま‥。あ。紅葉ちゃん。武生も今帰って来たよ? 今日は、博文に用事があったのかな? 」

 玄関先で座って話し込んでいたらしい。紅葉が四朗を見て、赤面し「あ、すみません」と慌てて立ち上がった。

「いえ。丁度お家の前で博文君と会ったから、お料理の事教えていただこうって思って」

 てれてれと笑う。

「そう」

 ふふ、と四朗が笑った。

 ‥四朗君。この人も、食にこだわりがないんだよね。‥もしかしたら、武生さん以上かも‥。でも、清さんの美味しい料理食べて育ってきたのに、‥失礼な話だよねえ。‥うちの母さんも料理は上手だし。

 そう思うと、なんだか‥ちょっと意地悪を言いたくなった。

「四朗君は、別に好き嫌いとか、ないっていうか‥食にこだわりってないんですよね? 」

 博文がぎょっとした顔で紅葉を見る。

 急にどうした? って顔だ。

 四朗が首をちょっと傾ける。

 ‥この話は、前にもした。

 その時には、気付かなかったけど、だ。

「嫌いな食べ物。あったんです。あれ以来‥それとなく意識して考える様にしてきたから」

 ちょっと四朗が、得意げな顔をした。

 ‥おや? 

 紅葉が驚いて四朗を見る。と。それは博文も同じだった。

 ‥どうした、何があった。どんな心境の変化だ? 

 だ。

「いくらはちょっと、触感があのぷちっとが‥」

 ん? いくら? 博文はがくっとなりそうになった。(いや、実際ちょっとなった)

「ああ‥。あと、ちょっと、ブリは脂が‥」

 ぼそぼそと、恥ずかしそうに羅列していく。

 ‥やけに細かいなあ。

「兄ちゃん!! 案外嫌いなもの多くない?! 実は‥」

「言えるときは、言っときたいよ! 言えない時はあるんだから」

 ちらっと、通りかかった先代コンビを四朗が見た。

 祖父と、父が立ち止まる。

「因みに、何がいつ嫌だったの? 」

 博文が、はあ、とため息をついて聞いた。

 ‥きっとくだらないことだろうけど! 

「前の接待の時の、フォアグラ。それと、この前の、あんきも。キャビアも、ちょっと‥」

 ‥くだらないというか、非日常的なことだった‥。

「‥あ、それ、僕も駄目だ」

 は、父。

「私も駄目だ」

 と、祖父。

「‥‥‥」

 食べたことないけど、多分、俺も駄目そう。まあ、日常で食べる機会なんてないに等しいから、いいんじゃないかなあ。

「四朗君。食にこだわりが出来ただけでも、一歩前進だね! 」

 そんな三人を見ながら、紅葉は何故かぱっと花が咲くような微笑みを浮かべた。

 ‥そうかなあ、一つ我儘になっただけな気もするなあ‥。

 ちょっと腑に落ちない博文と

「ホントに、四朗と結婚してほしかった‥」

 と残念そうな、先代コンビだった。

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