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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
補充の章それぞれの『克服』
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3.四朗様の為とは言え、無理なものは、無理。

 向き合って、お腹は無理だから、あの青い部分だけを‥

 動かないでね‥。

 ぱっしと掴んで、ぽいっと捨てる、

 そして、私は頼もしい微笑みを浮かべて

「もう大丈夫ですわ」

 それを見たら、きっと四朗様は「ありがとう、君はなんて頼もしいんだ」ってほれぼれしちゃうわ。

 きっと。

 だから、今は、先ずこいつを掴めるようにならなきゃ‥。

 脳内でのシミュレーションはばっちりだ。

 さあ、‥さあ。

 ごくり、

 でも、さっきから、手も足も、動かない。



「菊子。ホントにお前は‥。もうちょっと大人になりなさい。いつまでもカエルなんかで遊んでないで‥。おやつの時間だけど、手を洗わないと駄目だよ」

 休日。

 珍しく家にいた相馬家長男・三郎が、しゃがみ込んででカエルと睨み合う妹を見て、呆れた顔をした。

 だけど、決して悪しざまにののしっている風ではない。

 ちょっと窘めているって感じだ。

 菊子と三郎は、9歳違い。

 年の離れた妹と三郎が喧嘩をすることは一度もなかったし、きつくしかったことも一度もなかった。

 武生ほどではないが、三郎も妹に甘い。

 さっぱりと髪を短く散髪した、すっきりとした一重の切れ長の目とすっと通った鼻筋、涼し気な顔だちは、武生と似ているが、武生より目つきが若干優しい。武生の様に、眉毛がくっと上がっていないせいだろう。意志が強そうな薄めの唇はそっくりだ。

 年中ちょっと日焼けしていて肩幅もあり、筋肉質な武生と違って、若干華奢で、肩幅も武生より狭い。身長も、武生より5㎝位低く、色白。不愛想な武生と違い、社会人らしく常に穏やかな微笑をキープしているため。武生より温和な感じに見える。 

 菊子は、二人の兄を区別することなく同じように慕っていた。

 この三人は、結構仲がいい。

「三郎兄さん! 私はカエルなんて好きじゃないです! だけど、淑女として突然迫って来たカエルをばっしと掴んでぺいって捨てられなきゃ、困るでしょう?! 」

 菊子が大声を出したので、カエルはぴょんと向こうに飛んで行った。

 それを、ちらっと横目で見ながら、三郎が首を傾げる。

「‥意味が分からないし、カエルが突然飛んでくることなんて、中々ないし、それをばっしと掴む女は俺は、嫌だ」

「‥嫌ですか? 」

 菊子が首を傾げる。

 ちょっと不満げ‥というか、不安げな顔をしている。「あれ? そうなのかな? 」って顔だ。

「嫌だろ普通」

 三郎も首を傾げる。完全に、胡乱気な眼差しを妹に向けている。「そんなこと疑問に思うか? 普通だろ? 」って顔だ。

「ああ、助かった。頼もしい、好き♡ って‥思いませんか? 」

 菊子は益々首を傾げて、不安そうな目で三郎を見上げる。

「思うわけないだろ? 」

 そんな妹の顔を見て、不憫そうな顔になる三郎。

「‥ならない、な‥」

 控えめに、援護射撃をする武生。

 今日は、紅葉が遊びに来ているので、おやつを食べた後お出かけをするようだ。

 で、中々部屋に入って来ない菊子を長男が迎えに来て、‥遅いから、武生も見に来て

「あんた、その考えは危険よ、すぐに捨てなさい」

 ついでに、母・紘子も見に来て、

「‥あの‥。私もならないかと‥」

 武生とセットの紅葉も見に来たわけだ。

「‥‥‥」



「紅葉、貴女の義妹になる子も面白いわね! 三朗さんも、手を洗わないと駄目だよって、ちょっと突っ込みおかしいし。もう、貴女の家族最高ね! 」

 休日明け、紅葉からその話を聞かされた桜は「ほほほほ」と朗らかな笑い声をあげた。

 で

「お父さんとかは普通なの? 」

 と、興味は尽きない。

「普通ですよ! 」

 紅葉としては、「面白い」とか言われるのは不本意なんだけど! 

「その時いなかったの、お父様」

「ええと‥。おられました」

 首をちょっと傾げて回想する。

 ‥ちょっと、相馬父は影が薄い。他のインパクトが強すぎるから。

「菊子、カエルの持ち方は、こう。しかも、カエルには毒を持っているものもいるから気を付けなさいって言ってらして‥」

「ほほほほほほほ」

「うふふふふふ! 」「紅葉様! 絶対幸せになれますわ! 」

 と一緒になって笑っているのは、小菊だ。

「ところで、どうして妹君はカエルをばっしと掴んでぽい、されたかったんですか? 」

 桐江が話しに加わる。桐江がここに居るのは、実は珍しい。この頃は、後輩の小菊に紅葉関係の仕事を任せることが多く、紅葉が来ているときは、大概下がっていることが多い。

 今日は書類仕事があったらしく、今まで部屋の隅で書類を書いていたようだ。

「それは‥」

 ちらっと紅葉が桜を見る

「四朗君が、幼少期、突然飛んできたカエルに驚いて「わっ」っといって逃げたから、らしいです」

「そりゃ、逃げるわよね‥」

 驚いて。

「もしかして‥」

 桜が紅葉を見る。

「ええ、菊子ちゃんは「四朗様はカエルがお嫌いなのかしら、では、菊子も嫌いだけど、四朗様をカエルから守る為には、菊子がカエルを」」

「みなまで聞かないでも分かるわ‥」

 桜が微妙な微笑みを浮かべる。

 ‥変な子‥。

 思ったが、それは言わない。菊子ちゃんなりに息子のことを大事に思ってくれているんだ。感謝しよう。‥やっぱりちょっと変なんだけど。しかも、さんざん、紅葉の家族になる人を面白がるのも、ちょっと‥ね? 

「つまり、相馬の人は、皆ちょっと面白いって話ですね」

 ふむふむ。と遠慮なく面白がってるのはのは、まだ若い小菊だ。

「武生さんは普通ですよ」

 ちょっと、むっとした顔になった紅葉が反論した。

 ‥認めたわね。しかも‥「武生さんは」、って。

「武生さんは‥。その中でも、平和に暮らしてるんだから、変な人に免疫が付いた、筋金入りの変な人ってことになりません? 」

 ふふ、と桐江が意地悪い微笑みを浮かべる。

「ええ!? 」

 まさか、桐江に意地悪をされるなんて思っていなかった紅葉が驚いて桐江を見た。

 桐江さんってそういうキャラクターじゃないですよね??

「四朗の親友だしね」

「あの、月桂と鮮花に認められた人だしね」

 ‥桜様まで‥。

 ああ、息子(と臣霊)の事だから容赦ないのか‥。

 小菊は苦笑いだ。

「えええ?! 」

 まあ、気持ちは分かる。

 ‥なにより、紅葉さんをからかうの、楽しい!! 



「四朗、カエル嫌いだったけ? 」

 ぼそ、っと急に聞いた武生に、四朗が眉を寄せて首を傾げる。

 ‥何、急に。

「え? なんで、別に好きでも嫌いでもないけど? 」

「そうだよな‥」

 自分で聞いておいて、武生は「別にどうでもいいんだけど」って顔だ。今だって、四朗の顔すら見ていない。

「え! なに、しんちゃんカエル好きなの! だっさ! 」

 聞こえてきた、面白そうな話題に、相崎がさっそく加わる。

 わざわざ駆け寄ってきてまで、だ。

 その瞬間、四朗の表情が凍る。

「うるさい、相崎」

 珍しく。‥ホントに珍しく四朗が、相崎を腕で払いのけた。

 いつもだったら、さらっと丸無視するところだ。

 よっぽど虫の居所が悪かったか、よっぽど相崎がうっとおしかったか(きっと両方だな)

「うわ、リーチ長! 」

 丁度通りかかった池谷がひゅっと口笛を吹いた。

「四朗君、カルシウム足りてない時は、小魚だよ。はい、「食べる小魚」」

 さっと、「食べる小魚」の小袋を差し出したのは田中だ。

(じいちゃん、持たせてくれて有難う‥! )

「あ、田中君ありがとう」

 四朗が「見られたか」という恥ずかしそうな顔をする。

 ‥何を、かわい子ぶってる‥!

 相崎がぎりっと奥歯を噛みしめ、四朗に胡乱気な眼差しを向ける。

 俺には、あの態度する癖に! 皆さん、騙されないでください~!

 騙されてる皆に言ってやりたい。ってか、気付けよ!

「はい、武生君も」

 しかし、そんな相崎の脳内テロには気付かない(皆さん同様恐ろしく四朗に好意的な)田中は、にこにこと武生にも小袋を配っている。

「‥ありがとう」

 若干ポカンとしながら、武生もそれを受け取る。

 と、

「はい、相崎君! 」

 やたらいい笑顔で、田中が相崎にも小袋を差し出して来た。

 周りでは、‥そういえばそう見ない「普通の」「裏表のない眩しい笑顔」に相崎はすっかり毒気を抜かれた。

 眩しいい‥!

 ちょっと‥癒されたかも!! 

「‥田中っていい奴だな」

 ちょっと、じいんと来る。

「え? 」

 こてん、と田中が首を傾げる。

「友達になって? 」

 気付けば相崎は田中のふっくらとした手を取ってそんなことを言っていた。

 手がふっくらしてるっていって、別に田中が太っているわけではない、ただ、剣を握れば剣ダコも出来る(だから、四朗の手も、武生の手も恐ろしく硬い)、ペンを握ればペンダコ、相崎の手だって、テニスやらスポーツで、硬い手をしている。

 そういうのが、田中にはない、というだけの話。

 横で、池谷と佐藤がぎょっとしている。

 四朗と武生は、無視して小魚をつまんでいる。

「勿論だよ! 」

 間髪を入れず、さっきの眩しい笑顔で田中が了承した。

 周りはそれといって音がない。ぽりぽりと、小魚を咀嚼する音が響く。

「田中って、男前の心の隙間に入り込む才能あるな」

 ぽつり、と佐藤が呟くと

「‥羨ましいか羨ましくないかは、よくわからないけどな。どっちかというと、美女の心の隙間に入りたい」

 池谷が感心した様な顔で相槌を打った。で、

「あ、田中。小魚俺もたべる。くれ」

 田中に手を差し出す。‥なんか、食べてる二人見てたら食べたくなった。それは佐藤もだったようで、一緒に手を出して来た。

 ぽりぽり、ぽりぽり

「きっと、田中なら(美女の心の隙間にも)入るな。深層の令嬢タイプな。あと、‥ツンデレも攻略できそうだけど、普通の美女は無理そう」

 と、佐藤。

 ぽりぽりぽりぽり。

「そうだな。とにかく、癖のあるタイプしか無理そうだな」

 とは、池谷。

 ぽりぽりぽりぽり。

「癖があっても、いい‥。羨ましい」

 佐藤が、うんうんと頷く。

 ぽりぽりぽりぽり。

「え?! なに、妄想で羨ましがらないで?! 」

 田中が真っ赤な顔して、わたわたする。

 ‥一体何!? 

「あははははははは」

「相崎さんが爆笑している‥!」

 初めて見たあ! 

 武生はお茶を買いに行ったらしく、そこには居なかった。いたら、「笑うな気持ち悪い」と容赦ない突っ込みが入っていただろう。

 とにかく、相崎が爆笑している光景は、佐藤達には珍しかったらしく、三人は目を見開いてぽかんとした、

 と、

「ふふ」

 四朗の微かな笑い声が後ろで聞こえた。

 ゆっくりと振り向くと、口元に軽く握った手を添えて、微かに微笑む四朗が目の端に入った。

「‥(赤面)」

 四朗君が笑うと、めちゃ癒される。

 すっごい可愛い。

 目、細めて笑うんだあ。

 お肌すべすべ、睫毛長い。

 萌え~。

 佐藤と池谷はもうメロメロだ。

 ここにきて、ちょっと慣れてる田中は、フリーズを免れた。しかしながら、この二人の反応には相変わらず「気持ちは分かるよ」なのだ。

「‥まあ、菊子はいい子だなって話なんだけどな」

 四朗にペットボトルのお茶を差し出しながら、武生が言った。

 あ、帰って来た。

 お茶は既にちょっと減っている。先に飲んだらしい。

「ん? 菊子ちゃん? 」

 相崎が四朗の持っているお茶を先に取りながら首を傾げた。

 ‥みんな、小魚で喉が渇いていたみたいだ。

 そうだよね、小魚、それが欠点だよね。

「ああ、菊子は、四朗が子供の頃、飛んできたカエルに驚いたのを見て、「カエルから四朗様を守って差し上げなきゃ」って思ったそうだ。‥優しいな菊子は」

 ふむふむ、と武生が小さく頷く。

「ああ。だから、俺にカエルが嫌いか、って聞いたのか‥」

 四朗が納得した。

 が、なんだそれは‥

「‥(武生君って、この前も思ったけどすっげ、シスコンだよね)」

「‥(ってか、武生君の妹さん変わってるよね)」

 と、池谷、佐藤のアイコンタクト。

「いい子だね。しかも、四朗君愛されてるね」

 にっこり笑う田中。

「そうだね、ありがたいね」

 って、四朗君半笑い~!!

 武生が四朗を睨む。

 そして、目の前でにこにこと眩しい笑顔を浮かべる「純粋にいいひと」田中を見る。

「田中‥。お前いい奴だな」

 ‥田中、武生君攻略終了。

 田中凄すぎる。

「あ、田中さん。この前借りた本面白かったです! 続きありますか~」

 中等部と高等部を繋ぐ渡り廊下の二階部分から、博文が田中を見つけて、ひょっこりと顔を出して叫んだ。

「あ、博文君。うん、あるよ~。四朗君に渡しておくね~」

 手を振りながら、田中が機嫌のいい笑顔を博文に向ける。

 相生弟まで攻略されてる! 



「田中、凄いわね。凄すぎるわ。私たち、田中にジェラシー燃やしてる間じゃないわね」

 四朗・相崎親衛隊における田中の立ち位置が変わったのは、その直後だったという。

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