1-2.紅葉の決断と武生の将来
状況説明
一部、相崎目線。
紅葉が西遠寺の当主である桜に申し出た「お願い」。
それは、西遠寺家の今までの伝統やなんかを覆すものだった。
「私は、新当主には春彦君が相応しいと思う。だけど、彼一人で出来るとは‥思わないし、今はそんな時代じゃないと思う。相談するのに、男だから信頼できるとか、当主を支えるのは妻の仕事って、そういう時代じゃないと思う。私は今まで学んできた知識と経験でもって春彦君を助けて行きたい」
事実だけ言うと、紅葉が結婚して、武生と跡継ぎになり西遠寺家を継ぐのだったら、実は今までの歴史からいって変化した点はない。
紅葉が実は、桜の姉である蕗子の娘だと公表すれば、血縁を後継者にとこだわる者たちも納得するだろう。
そして、実力的にも、教育‥という面で見ても、誰も文句は無いだろう。
それは、紅葉も納得している。そして、母親の件は、公表してほしくはないと。
曰く、
公表すれば、父親が嫌な思いをするのは分かっているから。それに、‥家族みんなが今まで通り過ごせない、と。妹も、西遠寺家と無関係とはいられなくなるかもしれない。それが嫌だ。
桜は、その点は納得できた。
西遠寺桜の姪ではなく、西遠寺 桜の養子であり秘蔵っ子。
それを納得させること位なら、出来る。
しかし、その後だ。
紅葉は何と言っただろうか。「当主を支えるのは妻の仕事って、そういう時代じゃないと思う。私は今まで学んできた知識と経験でもって春彦君を助けて行きたい」とは?
春彦君を助けて行く?
「ごめんなさい、ちょっと言っていることがわからない‥。あなた結婚はどうするの? 武生さんは? 」
「武生さんとは結婚したいです。その上で、私だけ、西遠寺に当主の補佐として、就職するという形を取りたいと‥。この先、西遠寺の当主は直流ではなく、実力のある者がなっていくように変わっていけばいいな、と思います。春彦さんにも春彦さんの家庭があって、私にも私の家庭があっても、問題はないと‥」
「‥まあ‥そうよね‥」
実際、親戚の中には直流にこだわっている者も少なくない。この前、四朗があの場にいたと伝え聞いた者たちの中には「桜の息子である」四朗を次期当主に、と言うものも確かにいた。
‥実際にあの場にいた者の中には、(四朗を押すものは)いない、というのが流石、四朗という感じだ。
‥確かにあれは、爽快な光景だった。
思い出して、桜は思わず、くくっと笑った。
「桜様? 」
「ああ、ごめんなさいね。この前の、四朗劇場を思い出したの」
「ああ」
ふふと紅葉も笑う。そして
「四朗君を当主にっておっしゃる人もおられるという事ですね? 」
‥さすがね、紅葉。
桜は、満足げに笑みを浮かべた。
「そう。でも、それは不可能。本流は私で終わり。そうね。これからは、実力主義であるべきだわね」
ふふ、ともう一度笑った桜は満足そうにうなずいた。
「いいわ。私がその話を通しましょう。最後の仕事、それだけはしてみせるわ」
そう約束した桜の言葉の通り、西遠寺 春彦が当主、柊 紅葉がその補佐という事になった。
だが、春彦はまだ幼い故、もう少し、こちらで修業を積んでから、という話になった。
「柊じゃないわね。もうすぐ、相馬 紅葉ね」
「桜様‥」
真っ赤になって紅葉が顔を隠した。
可愛い。ホント、可愛い。娘がいて良かった(注 紅葉は桜の姪であって娘ではない)
四朗だったら、しらっとした顔で顎をくいっと上げて、絶対零度の視線ね、絶対。
‥いや、にっこり笑って「その当たりはお答えしかねます」の方が怖いわね。‥やるわ。あの子なら。
我が子が怖いって、まあ、時々思うもの‥。
それで言ったら、この前会った相馬君も怖かったわ。
そつがなさすぎるし、隙が無さすぎるし、面白くなさすぎるし。なんといっても、あのメンタル。
親戚連の、ひそひそに眉毛一つ動かさなかったわよ。
あれは、武士ね。四朗は、軍師とかそんな感じで、相馬君は武士ね。武将。いや‥筆頭家老とかそんな感じ。なのに、紅葉に対しては、すっごく柔らかく微笑みかけるんだ。
ツンデレ! (あってるかしら)
鉄板ね! 周りには見たことない感じだわ。(四朗(父)はそんな感じではなかったらしい)
ん~キュンキュンするってやつね!
後で小菊もきゃあきゃあ言ってたわ。
「ギャップ萌えですわね! 」
‥私たち、無理して現在っぽい言葉使うのやめましょ?
この頃は、結構武生と紅葉ちゃんはラブラブだと思う。
相崎は、今までの幼馴染の様子からは想像もつかない状況を、ぼんやりと眺めながらそう思った。
‥目と目で会話をすることなんて、結構しょっちゅうだし、武生が紅葉ちゃんの頭に手をぽんってのせてるのも割とよく見るし。
電話とかもマメにしてるみたいだ。‥デートは寺巡りで全然色気ないんだけど。
まあ、卒業式前で、自由登校だから、エレベーター式で大学進学が決まってる紅葉ちゃんは、良くこっちに遊びに来て、仕事で欠席しなければならない四朗の代わりに学校に来たりしてる。(四朗、それはどうだと思うぞ。仮にも幼馴染の婚約者だぞ)
しかもそれは、どうやら武生を介しているわけでもないらしい。(四朗と紅葉ちゃんはどういう関係なんだろう。今までも時々変わってもらってたみたいだし‥)そういうの、武生的にいいんだろうか。
まあ、それは‥よくわからないし、分かったところでどうにもならないから、別にいい。
とにかくそんな時、武生には、どうも四朗の変装している紅葉ちゃんの変装を取っ払って、ただの紅葉ちゃんにしか見えないらしく、いつも通り、甘い雰囲気を出している。
「武生。今紅葉ちゃんは、今、しんちゃんの恰好をしているんだが、それは問題ないか? 」
って俺が親切に教えてやると、はっとした顔をして
「‥‥‥」
無言で離れる。それで、学校が終わってから、紅葉ちゃんに戻った紅葉ちゃんに(変な表現だ)もう、めちゃ悪かったって顔して、謝る。
(付き合いが長い俺だから「めちゃめちゃ謝ってる」って分かるだけで、昨日今日の付き合いの奴には分からないだろう)
紅葉ちゃんも、困ったみたいに(全然困ってないってのは分かるんだけど)笑って、終わり。
で、見つめあってほのぼの、だ。
‥この場には俺もいるんだけど、それは問題ないか?
ったく、イチャイチャする武生を見る日がこようとはなあ。
相崎は、大袈裟に肩を挙げて「やれやれ」という顔をした。
「あ、紅葉ちゃん。手合わせお願いできないかな」
相変わらず色気ないしんちゃんは、紅葉ちゃんを見つけたら、剣の手合わせをお願いしている。
「俺も見たいな」
と、剣術マニアな感じで三人が道場に向かうの見ると「え~今、何時代? 」とかって思う。
カラオケとか、映画とかいかなさそう。
四朗なんて、こないだ兄弟で服見に行ってたの見たぞ。‥どうかと思うぞ。
「四朗君にも恋人が出来たら、ダブルデートで海に行こうね」
とか、紅葉ちゃんが言ってたけど、絶対なさそう。
若者だのに。
それに、そんな話どうでもいいし、興味ないし
だから、さっさとそんな話は切り替えて、有意義な話に変えることにした。
俺たちは、3年生だから、まあ、進路とかだろう。
「武生。お前、推薦入試は受けないんだな」
因みに、俺は推薦入試だ。
成績は良くないから、まともに試験を受けて通る気がしない。内申は‥それでも、真面目に生活しているから‥大丈夫かな? 小論文は、書類を書くことも多いから訓練してるんだ。昔から、ね。
武生は、
「国立狙う。センターの結果も悪くなかったから」
って言った。正直、予想通りだった。
でも、関西圏の国立を狙ってるのが、ちょっとやらしい。
一人暮らしして、下宿から通学するんだろう。
関西だったら、今より頻繁に紅葉ちゃんに会えるだろうし。
いっそのこと同棲すればいいのに、ってあの二人にはそんなの有り得ないだろうなあ。
大学卒業後の進路希望が、相馬関係でないのが驚いた。(親戚だから、そんなの聞こえてくるんだ)
まあ、長男じゃないし、それは、ね。
勿論、相崎は紅葉の決断については知る由もない。
西遠寺の最有力当主候補だという事も。(西遠寺の縁者って位は知っているのだが、だ)
「紅葉ちゃんは、西遠寺の縁者なんだよね? じゃあ、将来的には武生と二人で西遠寺に関わってくって可能性もある? 」
と、相崎が聞くと、紅葉は、ふふっと笑い、
「それはないわ」
とだけ言い、武生に向けて
「今までの伝統を無視するつもりはないけれども、形に囚われ過ぎてもいい結果はない気がする。まずは自分たちらしく‥だと私は思うの」
にこり、と笑う。
だけどその後、
「子供もいっぱい欲しいしね。私たちのことだって、忙しいもの」
て無邪気な笑顔で言ったのには、武生はちょっと固まっていた。
「そこで固まるなよ。むっつり。あんな素直な笑顔で紅葉ちゃんが言ってるんだから、「そうだね」ってにっこりわらってやれよ。むっつり」
と、相崎。
「武生さん何を想像したんですか。むっつりなんですか」
と、博文。(おお、いつの間に来てたんだ。中等部からわざわざ‥)
‥何。話が合うの君たち、兄ちゃんはよらないぞ
博文と相崎が笑いあい、
「ね」
なんて四朗に同意を求めている。
四朗は、複雑な顔をして‥最後は苦笑いしている。
「子供‥」
‥子供。その内二人は「あの二人」なんだろ。気が重くなりそう‥。
「お? 四朗もむっつりか? 」
違う!!




