表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
十三章 未来を想う
112/165

9.足りない言葉を足していけばいい

今日、一応完結です!

 家に帰ったら、清さんにそのままダイニングに通された。

 ‥母さんの説教かなあ。

 なんてちょっとうんざりしながらダイニングに足を踏み入れた四朗を待っていたのは、

「父さん‥。と、おじい様」

 久し振りにおじい様を家で見た。

「四朗。ちょっと」

 相変わらず、厳しい顔をしている。

 が、その顔は、常の厳しい顔とは少し違った。

 その顔は、怒っているようにも見えた。

 ‥何か悪いことしたか? 無断外泊か? それをおじい様に言われるいわれはないが‥

「はい‥? 」

 訝しそうに、四朗はダイニングに入った。

 ダイニングには、他に両親もいたが、祖父は二人に部屋から出る様に指示した。

 ‥何?

 四朗は訳が分からなかった。

 ダイニングの引き戸が閉まったのを確認し、おじい様は一つ、長いため息をつくと

「この前言っていた、紅葉嬢が相馬の次男と婚約したらしいではないか」

 真剣な顔で四朗を見た。

 否、真剣に怒った顔をしている。

「はい、よくご存じですね。まだ公にはしていませんのに」

 何だ? 何かしたっけ?

 頭では必死にそんなことを考えていたが、四朗の表情は常のまま平然としている。

「相崎の当主も知っていたぞ」

「地獄耳ですね。あの方は」

 淡々と返すが、お互いにとって、こんなことはどうでもいい話だってことぐらいわかる。

「それより、いいのか」

 おじい様が、周りを気にする様子を見せてから、声を落とす。

「何がですか? 」

 自然に四朗も小声になる。

「本来なら、お前は責任を取って然りな立場ではないのか? 」

「は? 」

 ‥責任?!

 依然、小声で話しながら、つい大声をあげそうになったのを、四朗は辛うじてとどまった。


 とたん、キッチンから「ぶはっ」と、吹き出す声が聞こえた。

 ‥!

「博史! 」

 いたのか!

 キッチンにいたらしい博史が牛乳の入ったコップを片手にダイニングに来た。キッチンは、ダイニングから完全に死角になる「つくり」なのだ。

 ‥いつからいたんだ? 

 おじい様も気づいていなかったらしい、目が見開かれている。

 そして、反対に博史の目には、笑いを堪えているからであろう、うっすら涙が浮かんでいる。

「‥おじい様、兄ちゃんは、‥そういうのじゃないです」

 そう言った後は、堪えきれない様に爆笑し始めた。

「博史も知っているのか? 」

 おじい様が目を見開いて、ちらりと四朗を見る。

「ええ」

 四朗が、微かに頷く。

「信じられん」

「まあ、とにかく、兄ちゃんはそんなんではないです」

 しこたま笑って満足したのか、博史は指の背で涙を拭いながら言った。

 ‥笑いすぎて涙出る程って、どんだけだ‥。


「兄ちゃんは、おじい様とは‥、いえ、普通の男とは違います」

 口の端に、軽く弧を描きながら、博史が、今度は落ち着いて言った。

「‥女性に興味がないのか」

 おじい様が、ゴクリ、と唾を飲む。

 博史が首を振って否定する。

 ‥当たり前だ!

「興味がないのは人間全般です。所詮、他人なんて兄ちゃんにとっては、利用できるか出来ないかの区別しかないです」

 ‥おい。博史。お前は俺を何だと‥

「いや、流石にそこまで酷くはない」

 と、それは否定させてもらう。

 しかし、おじい様はなぜか納得している。

 ‥そこまでは酷くないだろうと思ってるんだけど。‥まあ、責任取るような事態にはなっていないってことは伝わった‥のかな?

「俺にとって紅葉ちゃんはそんなんじゃ、ないんです」

「‥邪まな感情を持ったことはないって意味か? 」

「ありません。この名に誓って」

 おじい様は、信じられないという顔をしている。

 博史は、四朗の横に座って牛乳を飲みながら、黙って面白そうに二人を見ていた。

「紅葉ちゃんもないと思います」

 博史も、頷く。

 依然、面白そうに。

「言い切れるのか」

 真剣な顔で四朗を見る。

「ええ」

 その目を見ながら、四朗が頷く。

「言うならば、彼女と俺は同じ人間なんです」

「? 」

「それ位近しい存在なんです。兄妹より近しいくらいかもしれません」

「だけど、そういう風に自覚し始めたのは、つい最近です。それまでは、他人という自覚さえありませんでした。紅葉という人間が、別のところで俺として生活しているということすら、忘れていさえしたかもしれません。‥そして、紅葉ちゃんが恋愛対象になんてなり得ないという感情だけはずっと心の中にあったし、今も変わりません」

「お前の言っていることはよくわからないな」

「でも、俺も‥何となくわかる気がするな。紅葉さんは絶対他人って気はしなかったもんな」

 博史が、コップを机に置いて、小さく頷く。

「あれだ。同じ目標の為に戦う、同士みたいなもの? 」

 そして、博史が思い付きで言った言葉に、「あ! それだ! 」って初めてしっくりきた。

「そうです」

「‥ふうん? 分からんなあ」

 おじい様はまだ納得できない、というように首を傾げていた。

 まあ、俺も説明できる気はしない。

 ‥博史も分かったような顔をしてるが、多分、博史にも伝わってはいないだろう。

 俺は、桜の母さんの中の「楓像」で、紅葉ちゃんは、楓さんの生まれ変わり。

 それは、違うものだ。

 そして、桜の母さんは「紅葉はでも、楓とは違う」と言っていた。そして、きっと俺も楓さんとは違う。

「というわけで、俺には、何らやましい思いもないし、武生に「あの事」をこれからも言う気はないし、紅葉ちゃんも言わないだろうし、問題はないんです。あの二人は、とても、お似合いだと思ってます」

「惜しいな」

「え? 」

「四朗の嫁になってくれたら、私も安心だったんだが」

「‥兄ちゃんと紅葉さんが結婚するなんて、想像も出来ないけど‥」

 ‥俺も嫌だ‥。

 ふふ、と心の奥の方で、華鳥の笑う声が聞こえた。

 


 ‥どんな未来がまっているのでしょうねえ。



 楽しそうに笑う。

 ‥これから、思い出をいっぱいおつくりください。過去なんて気になさらずに。これから、いっぱい。

 そして、まるで母親みたいに、優しく、慈しむ様に言った。



「俺の事より、おじい様。そろそろ本格的にこちらに帰って来られたらどうですか。‥そろそろおばあ様に愛想つかされますよ」

 と、これは四朗のささやかな仕返し。

「兄ちゃん?! 」

 博史が焦る。

「おばあ様とのこと、勘違いだって分かったわけだし、父さんに誤解されたままなわけだし。これからは、家族の中での誤解を解く時間を取ってかないといけないんじゃないですか? 」

 冷たく、わざと突き放すように言う。

「勘違い?? 誤解?? 」

 博史は、そんな四朗の行動にも、言ってることにも驚いて、さっきから、二人の顔を交互に見比べている。


 おばあ様と結婚したのは、家の為ではない。

 きっと、これはおばあ様に伝わっていない。

 父さんの結婚は、父さんの為になると思ったから。

 ‥でも、これも多分父さんにつたわっていない。


 父さんは自分に相生の能力がないことを気にしていた。

 それならば、結婚相手には能力が高そうな相手を、と考える。

 そんな折の西遠寺からの打診だ。

 おじい様にとって、それは願ったりだろう。だけど、それ以上におじい様はこの話は父さんにとって、いい話だと判断した。


 これで、父さんの気も晴れるんじゃないか、って。


 ‥俺たちは、こんなのばっかりだ。行き違い、誤解‥。言葉が足りない。



「大丈夫です。その内、時が何とかしてくれます」

 と、四朗の顔に穏やかな笑いがこぼれた。

「いつの間に、そんな呑気になったんだお前は」

 あきれ顔のおじい様は、でも、穏やかで、博史が今まで見たことのない様な表情だった。




「俺は、相崎 総一郎を継ぎません。そんな、一族が同じ名前ばっかりで誰の事言ってるんだか分からないふっるい習慣。俺は」

「俺は相崎 正光です」

 今日こそ言ってやろうか、と思う。

 でも、

「継がないってか、継がさない。お前はまだ、跡取りにふさわしくないだろ。認めてもらえないからって、‥逃げるのか」

 と言われるのは、嫌だ。

 ‥他の奴にも認められて、俺に選択する資格が出来るまで、我慢だ。

 ‥それにちょっと、‥ほんのちょっと、「相崎 総一郎」には未練があるんだよなあ。

「まあ、考える時間はまだまだある。それまであがくさ! 」


 

 武生と紅葉は相変わらずだ。

「あ~。なんか君は見てて、緊張しないね。やっぱり、普通の顔ってのが一番だね。見てて安心するね。この前来た四朗君は男前すぎて、父さんちょっと緊張しちゃったよ。やっぱり普通が一番だね」

 紅葉の父親が武生に失礼なことをつい言ってしまい、紅葉に目をむいて怒られたり、千佳が武生にライバル心むき出しにしたり、それを見て蕗子が笑ったり。武生はそれを見て、ちょっと困った顔をした後、優しく微笑むんだ。



 これからも、悩んだりうまいこといかなかったり、言葉が足りなくて誤解させたりすることも多いだろう。

 だけど、その都度足していけばいい。

 やる前に悩むんじゃない。

 失敗して、皆に助けてもらって。

 喧嘩して。

 その都度足していけばいい。

 


「そういえば、菊子ちゃんが田中さんって人に、凄いライバル心燃やしてるみたいなんだけど、田中さんってどんな人? 」

 博史が聞いた。

「彼は、深いよ。もう、弱ってるときに聞いたら、ちょっと依存しちゃいそうになるような深い言葉をスラって言うね」

 ふふ、と笑って四朗が言った言葉に、おじい様がちょっとびく、っとなる。

 ‥なんだそりゃ。

「怖いこと言うなあ」

 博史は呆れ顔だ。

 相変わらず、兄ちゃんはメンタルが弱いなあ、って思って心配になってくる。

 ‥変な女に騙されるタイプ。

 そんな博史の心配も知らず

「知らなかった時の方が、寧ろ知ってたような気がしてたって、‥深くない? 」

 依然、ニコニコしている四朗が続ける。

「知れば知る程知りたくなるってこと? 深くはない気がするけど」

 胡乱気な目で博史が不服をいう。

「いや‥その解釈は違う気がする」

 不満げな四朗が首を傾げる。

「どんなに長く付き合おうとも、真の意味で知っているとは言えないのかもしれない。寧ろ、良く知らない時の方が、何も考えず知っているって言える、みたいな感じかな? 」 

 ダイニングの引き戸が空いて、父さんが入って来た。

「お父さん、お話は終わりましたか? 」

 と、おじい様に確認を取ってから、おじい様の隣の席に座る。

「父さん」

「あ、ごめんね。博史が混じってるのがガラス越しに見えたから、僕もいいかなって思って」

 穏やかな笑いを浮かべる。「別に盗み聞きはしてないよ」ってわざわざ言ったのは怪しい限るだけど、多分聞いても分からなかっただろう。

 ‥まあ、聞かれたい話でもないが。


 ふふ、と父さんが笑う。

「篤博、口説かれてるのかい? 」

 いたずらっぽい顔を四朗に向けて笑うと、四朗が父親を睨む。

 父親が篤博の名で自分を呼ぶのは珍しい、が、多分ここにいるのが博史を除き、全員同じ名前だからだろう。

「‥田中君は男です」

 低い声で、きっぱりと否定する。

「おや。それは悪かった」

「いい友達になれるといいね」

「そうですね」

 そんな話が淡々と続けられる横で、

「やっぱ(口説かれてるって)思うよなあ‥」

 しみじみと博史が言う。

「まだ言うか」

 四朗は、居辛そうな顔をする。

「とにかく兄ちゃんは、そんな上級者向けより先に、高校生活を楽しむことを覚えて下さい」

「普通に」

「普通に? 」

「スキル取得目的関係なしに、スポーツに汗を流したり、買い物行ったり。今度、服でも見に行こうよ。俺、兄ちゃんが制服か道着以外の服を着てるのあんまり見たことないんだけど」

「普段着位持ってるけど」

「それ、母さんが買ったやつじゃない。自分で買いに行ったりするの」

「ふうん? 」

「で、誰と。博史行ってくれるの? 」

「‥いいよ! じゃあ、スケジュール空いてる日教えて、俺合わせるから」


 ‥不毛なのには変わりないな。僕と(私と)同じ顔してるけど、僕は(私は)こんな青春過ごしてなかった‥。


 父と祖父は思った。

 二人とも、常に彼らを慕っている女の影があったわけで‥。

 二人とも、結婚前はそれはモテた。

 それは、四朗だって変わらないんだけど、四朗は‥この調子だ。

 ‥なんだろ。何があったんだろ。

 首を傾げる父と祖父だった。



「‥わざわざ知ろうとしないでも、まあ、興味が在れば自然と覚える。四朗は、もう少し人間に興味を持たないといけないね」

「父さん」

 祖父がぼそり、と言った言葉を、四朗の父が拾った。

 祖父が、自分の息子を見て、珍しく目を細めて笑う。

「お前は、静さんのお陰で表情が豊かになったな」

「‥篤博や、博史、勿論父さんも母さんも僕にとっては大切な家族ですよ。そして、篤博を生んでくれた桜さんだってね。桜さんには、篤博がこの頃は、何度か会いに行っているようですね。‥遠慮して四朗は僕たちには言わないんですが」

 ‥この頃‥。

 祖父は、だがそこで何も言わない。

 ‥言えるわけがない。

「篤博は、聡い子だから、苦労が絶えないね」

 代わりに、ふふっと笑って言った。

「本当に、無理ばかりさせています」

 四朗の父がため息をつく。

「あの子は、自分が幸せになることに、臆病になっている。‥もっと楽に、自分の幸せを求められるようになれないと、私は安心が出来ないよ」

 とは、祖父の言葉。

「親なんてものは、どんなときにも安心なんて出来ないと、僕はあきらめていますよ」

 はは、と軽く笑って父が言い

「至言だな」

 と、重々しく祖父が言う。

 そんな目の前で繰り広げられる深いというか濃いいトークを耳の端に入れながら


 ‥真面目過ぎるのは、血筋だな。


 そんなこと思って、ちょっと可笑しくなる四朗と博史だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ