8-2.四朗のお泊り。 ~かって知ったる家~
「何、兄ちゃんお泊り? どこで? 」
電話が四朗からだったらしいことが、母親・静の話しぶりから分かった博史が、静に聞いた。
博史の声がきこえているのか、静は眉を寄せて考え込む様にちょっと首を傾げている。
「また、ひいじいちゃん家? 」
その様子から、「違うな」と思いながらも、一応一番ありそうな可能性を挙げてみた。
「なんでも、紅葉さんのお家にって」
そこでやっと静が博史を見る。
「紅葉ちゃん? 」
博史がきょとんとした顔になる。
それは流石に予想になかった。
明日は日曜日だ。確かに、今日泊って明日帰ってきても問題は無かろうが、問題は宿泊先だ。
女の子の家はまずいだろう。
しかも、彼女はよりによって幼馴染の婚約者だ。
‥そりゃあ、まあ今までだってそこに住んでたわけだけど‥。
そんなこと思って、「あ、そうなんだなあ」
って今更のことなんだけど気が付いた。
‥紅葉ちゃんがここに、兄ちゃんとして住んでた時、兄ちゃんは紅葉ちゃんの家で、紅葉ちゃんとして暮らしていたんだ。
なんか、不思議な感じ。
紅葉ちゃんにも妹がいるって言ってた。じゃあその妹は、兄ちゃんのことを姉だと思ってて。
うわああ、姉とかってない。
考えただけで、ない。どんな顔して、兄ちゃん、「姉」してたんだろ!
いや、落ち着け落ち着け。どうせ、今とほぼ同じ感じだ。姉でも兄でも特に変わらない安定の無性別生活してるんだ。考えてみろ、兄ちゃんだぞ。
そんなことより。
‥じゃあ、兄ちゃん今日、紅葉ちゃんのとこに行ってたのか??
「ちょっと行ってくる」
ってぶらっと出かける距離じゃないでしょ!
‥これからは、どこに行くか確認しよう‥。
と、まるで気分は保護者だ。
「どういうことかしら、幼馴染の武生さんと婚約もされたお嬢さんのお家にお泊りなんて‥」
静もやっぱりそれを気にしている。
そうそう。多分それを気にしないの兄ちゃんと紅葉ちゃんだけだよ。
「間違えても、『間違え』なんて起こらないと思うけど‥」
「え! 」
間違え!
静が恐らくな何気なく言った言葉に、博史は盛大に赤面した。
狼狽える博史に、静が驚いて「いや、あらごめんなさい」とつい謝る。
「ないとは思うけどね」
「ないでしょう! 」
博史は断言し直す。
心臓をバクバクさせながら
「気になるなら、武生さんに知らせて置こうか? 」
と、取り敢えず口を出た言葉に、我ながら名案だ。と一人で納得した。
「‥そんなことして、喧嘩にならない? 」
静が心配そうな顔をする。
それはそうかも‥。
「兄ちゃんに相談してみる」
そう、最初に兄ちゃんに電話して聞いてみればよかったんだ。
‥紅葉さんとのことではない。
なんで、俺に言わずにふらっと出かけたんだ、ってことを。
俺はちょっと怒ってるぞ!
いやいや、違う。「武生さんに言っといた方があとあと良くない? 」だ。あとでぽろっとそんな事実が露見したら「なんで黙ってたんだ」って話になって、そういうのってなんか誤解を与えて‥。
まあ。あんまり良くないって話。
「そうね」
静は、納得して頷いた。
で、今の電話に至ってる。
「へ? 武生に? 何で? 」
電話口、やっぱり何も考えていない四朗の声。
でも、暫くして「ああ」と一人で納得した様な声を出す。
「ああ、そうね。まあ、一応そうかもね‥」
博史に「武生に一応言っておく」と約束して四朗は電話を切った。
四朗から電話で、今回の事情を知らされた武生は驚くほどあっさり「わかった」と頷いて了承した。そして
「紅葉さんにご迷惑を掛けないようにな」「あとでお礼をするように」
と、まるで保護者の様な事を言った。
‥そんなこと言われなくても分かっている。
ため息で四朗が通話終了ボタンを押そうとすると
「四朗。‥無理するなよ」
電話口から、武生のため息交じりの声が聞こえた。「呆れた」と言う様な口調。
「武生が俺の事心配するなんて珍しいね」
くす、っと笑って四朗が返事をすると
「別に心配なんてしてないけどな」
ちょっと機嫌が悪くなったらしい声が返ってくる。
「はいはい」
このツンデレ。ホントに千佳ちゃんに似てるな~。




