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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
十三章 未来を想う
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8-1.四朗・また修行

 暫くして正気に戻った親戚たちは、狐につままれた様な顔をしながら帰っていった。

 そして、後継者候補たちが「私たちには、到底務まる気がしません」と結果を聞かない前に、辞退したのを受けて、桜が「実力不足を自覚できるだけ、立派なものだわ。是非、修行し直してリベンジして欲しいわね」なんてニコニコしてたけど、

 なんてことはない。

 狐狸魍魎の巣なんてまっぴらごめんだ

 って言われただけだ。

 ただ一人、西遠寺 春彦少年だけは俺に、

「やい、妖怪。お前は、一体何が目的なんだ」

 って聞いてきた。

 失礼な奴だなと思いながらも、

 自分が相生という家に生まれた跡取りで、将来は相生の為に働きたいということを告げた。

「その力を、誰かの為に使わなければ、とか思わないのか? 俺は、誰かを救うために西遠寺で働きたいと思うが、お前のその仕事で誰かが救えるのか? 」

 挑むような目を向けてきた。

 ‥誰かの為?

 如何にも青臭い子供の主張に聞こえたが、

 自分には相生が総てで、相生の皆の為に働ければそれで十分だし、自分に出来ることはそれ位だ。

 と真面目に答えていた自分がいた。

 あの目は、突き動かされる。

 参ったね。

 春彦少年は、不満なような、まだ何か話したりない様な顔をして、帰っていった。

 ‥何となく、彼とはまた逢う日が来るような気がする。


それは、それとして。

「で、西遠寺の力は? 」

 呑気に目の前でお茶を飲んでいる桜に、四朗が不機嫌な顔で聞いた。

 ‥このまま何も言わなかったら、無かったことにされかねない。

「いるの? 四朗なら「自分で身に着ける」っていうと思ったんだけど」

 にやり、とこっちの自尊心を試すような顔

 ‥挑戦的なのは、一族の性質か。

 さっきの春彦少年の顔を思い出し、ちょっとイラっとした。

 が、

「相生四朗である限り、それは無理だって分かった」

 正直に言う。

「ああ‥まあ‥そうかもねえ」

 でも、そうあっさりと認められたらちょっとショックなんだけど‥。

 すっと腰を上げて、西遠寺にある道場で待っていろと指示された。

 着替えに行くらしい。

 暫くして、白い道着に着替えた桜が道場に現れた。

 向かい合って座ると、四朗に手を合わせて

 押し返してみて? 

 と、推す手に力を入れた。

 手のひらから、力と一緒に何か違うものが自分の体に入ってくるような感覚が来て、四朗は眉を寄せた。

 桜の穏やかな声が聞こえている。

「相手の意識を読み取るんじゃなくて‥、相手の意識に潜入する感じで。でも、相手の意識を邪魔しないで感じ取って‥。出来る? 相手の呼吸に合わせて‥」

 どこか遠くから聞こえてくる様で、

 それが余計に気持ち悪くさせる。

 桜の目が真っ直ぐ、四朗を射止める。

「気持ち‥悪い‥」

 合わせている手から、何かを吸い取られる様な感覚がしてきて、でも、手が離せない。

 押しているのか、押されているのか

 もはやそんな感覚ではない。

 ただ、力を入れていないと、正気を保っていられない‥

 そんな恐怖がじわりじわりと体をむしばむ。

「慣れるまでね‥」 

 桜の声は、あくまでも静かだ。

「っつ、う‥」

 今すぐ手を離して蹲ってしまいたい気分になる。

 ‥気分が悪い。

 苦しい‥。

「そして、ぎりぎりまで合わせて‥、最後に、隙をみて、攻撃する。はい、やって」

 呪文の様な桜の声から、今は取り敢えず逃れたい。

 その一心で、夢中で体をよじって手を離す。

 その場で、崩れ落ちると、今までの事が何だったのかと思う程、楽になった。

「‥まだ‥無理。気持ち悪い‥」

 後ろで見守っていてくれた紅葉ちゃんが駆け寄ってくるのがかすかに見えた。

「負けてるわよ。私の意識に。気合に呑まれてるともいえるわね」

 目の前の桜に、四朗を心配するような様子はちっとも見られない。

「読むのは、脳の情報じゃないわ。意識よ。読み込みじゃないの。侵入」

 寧ろ、蔑むみたいな目で四朗を見下ろしている。

 冷たい目。

「プログラムと一緒。変に侵入したら、プログラム自体が変になっちゃうんでしょ? 」

「‥そんなこと、したことないから‥わからな‥」

 睨み上げながら、そう反抗する位が精一杯だった。

 ‥我ながら情けない‥。

「楽しすぎよ、相生四朗。今日はここまで」

 最後に「情けない」と、ため息をついて、桜が腰を上げた。

 後は、四朗を見下ろして

「明日またやるわよ。でもここに四朗を泊めるわけにはいかないわね。夜は、男子禁制だから」

 冷たく言い放った。

「息子だけど‥」

「例外は一切なし。貴方だって夜這いにかけられたくないでしょ? 」

‥そっち?! 

紅葉は心の中で、ひそかに突っ込んだ。

そして、桜はさっきまでと全く違う、優しい‥いつもの表情で

「紅葉、四朗を泊めてあげて」

 穏やかに、紅葉に話しかけた。

「わかりました」

 紅葉は慌てて返事した。

「蕗子には、私から連絡しておくわね」



「紅葉? さっき、桜から電話があったんだけど」

 やっと落ち着いた四朗と一緒に家に帰った紅葉を玄関先まで迎えに来たのは、母親の蕗子だった。

 実は、桜の姉だ。

「母さん、この人、桜様の息子さん。‥公にはしてないんだけど」

 まるで「内緒なんだけど」というように、小声で紅葉が話した。

 ここでは誰に聞かれて困るってわけでは、ないんだけど

 何となく、大声で言うことでもない。

「‥初めまして。桜にそっくりなのね」

 蕗子が四朗に微笑みかける。

 その顔は、成程一度見た桜の素顔に似ていた。

「そうなの? 」

 そういえば、私は桜様の素顔を見たことはないな、と紅葉は今更のように思った。

「目がね」

 ふふ、と笑って蕗子は言ったが、それ以上は何も言わなかった。

「四朗君は、相生のおじい様にそっくりだよ。‥この前、会ったんだ」

 紅葉が、いろいろと事実隠蔽をしながら言った。

「家族だから、どちらにも似ているんでしょ? 」

 蕗子は、しかし別に何も気にしていないようだ。

 と、その時階段の上から、

「根暗。‥大丈夫? 顔色悪いわよ。ホントにいつも、無理ばっかりしてるのね、あんた」

 千佳の声がした。

 声がしたので見に来たのだろう。

「千佳」

 紅葉が驚いて千佳を見る。

 ‥根暗、って変なあだ名付けてる‥!?

「ちょっとは、楽する方法覚えた方がいいわよ」

 千佳は、そんな紅葉の非難的な声も、気にしている様子はない。

 紅葉を無視したわけではない。千佳の四朗に対する態度を「紅葉の非難したこと」を無視したのだ。

「千佳ちゃん‥」

 四朗が苦笑する。

 蕗子が、「ん? 」という顔をする。

 ‥なんで、この二人、いつの間に知り合いになってるの?

 という、もっともな疑問だ。

 そして、それは紅葉にとっても疑問だった。

 ‥四朗君、四朗君として紅葉にあったことあったの?

 瞬時に、月桂と鮮花に確認する。

 二人が、微妙な顔で頷く。

 ‥四朗がへまして、バレたんです。

 あんまりな報告をしたのは月桂だ。

 その間数秒。紅葉の表情は、何の変化もない。

「だけど、それこそあんたには無理な相談なんだよね。だから、疲れたら、精一杯頑張って疲れたら、休みなさいよね」

母親と紅葉の疑問を、何も気にする様子もなく、千佳が続ける。

そんな千佳に、

‥千佳~。なんてあなたはいい子なの! こんな優しいこといわれたら、四朗君、千佳の事好きになっちゃうわよ? 貴女ってば、いつの間にこんなに小悪魔になっちゃったの?

シスコン気味な姉、紅葉は萌え死にそうになって

初対面の人(だと今まで思っていた)に失礼なことをポンポンいう千佳に、蕗子は青くなり

 ‥なんて、不器用な優しさ。ツンデレって奴なのかな? 紅葉ちゃんの生温かい笑顔が気持ち悪い。

 唖然として、そして居心地悪くなっている四朗。

 三者三様の感想をもった。

「‥ありがとう」

 だけど、千佳ちゃんにちゃんとお礼を伝えたくって、微笑んで言った。

 素の顔でお礼言うのって、ちょっと‥照れてしまうから。

 途端に、千佳ちゃんの顔がげんなりした不機嫌顔になった。

‥そういえば、この子、相生の笑顔に何故か耐性あるよね? 今まで一緒に暮らしてきたからかな?? でも、今までは紅葉ちゃんとして微笑んできたのに。

 その時は、こんな顔されたりはしなかった。だのに今は‥

 げんなりな顔、そして‥

「笑顔がチャラい。キモイ」

 ん? この言い草‥。

「武生か! 」

 気が付いたら、叫んでいた。まるで、漫才の「突っ込み」みたいだ。‥ちょっと恥ずかしい、って思った瞬間

「あ、そうか! 武生さんってちょっと、千佳に似てるんだ! 」

 ‥今まで見た中で一番、輝く笑顔の紅葉ちゃんを見たのだった。

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