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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
十三章 未来を想う
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7-3. 私のヒーロー 跡取り選考会の開催

「はあ、そっちに行くのはいいんですが、何故です? 何か企んでます? 」

 電話口で、四朗が大袈裟にため息をつくのが聞こえた。

「あら、母が息子に会いたいと思うのに、何か理由がいる? 」

 しかし、そんなことを気にするような桜ではない。

 ふふ、と笑って機嫌のいい声を出した。

 最近、とうとうスマホを持つようになった。だけど、その番号を教えているのは、紅葉や四朗といった親しい者たちだけだ。それ以外の者との通信手段は、依然部屋の隅に電話台の上にきちんと設置された置き電話だ。

 電話は、きちんとした姿勢で受けるべし。が、先代のモットーだった。だから、今も紅葉は置き電話で通話をする時は、姿勢よく立って通話している。

 しかし、今はスマホだ。

 脇息にもたれながら、リラックスした姿勢で電話をする桜の姿が、この頃たまに見られるようになった。

「母、ねえ」

 桜の受話器から聞こえてくる四朗の声は、相変わらず呆れた様な声だ。

 そんな声を横で聴きながら「四朗様も大変ですね」と、小菊がつい呟いている。まあ、その意見には同感だ。(わざわざ言わないけど)

「まあ、そういうことで、来月こっちに来る予定をいれておいて? お家まで小菊を迎えに寄こすから」

「電車で行きますよ‥。あの黒塗りの高級車を家の前に横づけされると目立つんです」

 四朗の声のトーンが下がる。如何にも迷惑って声だ。

「あらあ? そう? じゃあ、切符を送らせるわね」

 対する桜の声はさっきと変わらず、機嫌よさげだ。

「新幹線のグリーン席とかも、いいです。適当に乗って行って‥後で請求します」

 そう言って、四朗の電話が切れた。

 ‥請求はするのね。しっかりしてるわ、四朗様。

 桐江はそんな四朗を頼もしくも思った。

「‥もう、つれないわねえ」

 桜が、またふふ、と機嫌よさげに笑った。

 ‥照れてるとか思ってるんだろうか。あれは、単純に面倒くさがられてるだけだな。

 今度は口にはださずに、小菊が苦笑いした。

「スケジュールの調整をして、日程が決まり次第、親戚と両親たちに知らせておいて。それから、その親戚たちが推してる「跡取り候補」にもね。‥そうね、あと何人か、貴女たちの方でも、よさそうな子見繕ってもらえる? 」

 す、と立ち上がると、桜が桐江に指示を出した。

「「畏まりました」」

 ビシッと桐江と小菊が姿勢を正してお辞儀する。



 ‥なにこれ。誰。

 跡取り選考会当日。

 西遠寺家を、初めて四朗として訪れた四朗は、その常とは違う様子に眉をひそめた。

 四朗として、ここに来るのは初めてだが、紅葉としてなら、七年以上ほぼ毎日ここに来ていた。

 その時の様子と今とはまるで違っていた。

 女中の数すら違うんじゃないかという感じ。

 いつもは静かな西遠寺家が、今は法事か正月かという程の来客でごった返している。

「いらっしゃい。四朗。紅葉も来ているわ。さ、入って。皆さんに紹介するわね」

 そして、玄関口まで四朗を出迎えるいつも以上に機嫌のいい、母・桜。

 はっきり言って嫌な予感しかしない。

「あの‥。今日は何があるんですか? 」

 玄関先で、四朗は立ち尽くした。

 ‥入れと言われても、入りたくない。

 絶対に。

「跡取り選考会よ」

 ふふ、と桜が爆弾発言をした。

「跡取り選考会? 」

 四朗が眉を顰める。

 ‥確か、西遠寺は四朗を跡取りにしない約束をしていたのではなかったか? 

 騙されたのか? 

 きゅ、と踵を返そうとする四朗を、桜が腕を掴んで引き留める。

 相変わらず凄い反射神経だし、そこそこ腕力がある。そして、眼力が凄い。有無も言わさない視線で四朗を威嚇して

「大丈夫よ、四朗には関係ないの。貴方は、今日の特別ゲストなの」

 にやり、

 悪い笑顔を浮かべる。

「特別ゲスト? 」

 四朗は、首だけで桜を振り向いた。

「ええ。といっても、特に何もしてもらうことは無いわ。挨拶しろとすら‥いえ、それはしなくてはいけないわね。人間として。ここにきているのは、貴方の祖父母や親戚よ。‥会うのが初めてなね」

 桜が、ふふ、と笑う。

「では、挨拶をさせて頂きます‥」

 祖父母を含めた近しい親戚、の一言に、どうやら腹を決めたらしい四朗が立ち止まった。

 桜は、またふふと笑う。

「本気で、ここの皆にご挨拶して? 取り敢えず」

 そして、そうもう一度繰り返した。

 にんまりとまた、悪い笑顔で。そして、四朗に中に入るように促した。

「本気で? 」

 四朗は訝しそうにしながらもそれに従う。桜はそんな四朗の手から上着を受け取り桐江に預ける。

 そして、四朗を従え前を歩きながら、桜は終始ご機嫌だ。

「まだよ、先に私の『御挨拶』があるから」

「? 先に、俺の挨拶をさせてもらえませんか? 」

 いいから、いいから。と桜は笑い、親戚が居るらしい部屋の隣の部屋に四朗を通した。

 しばらくして、障子の向こうから微かなうめき声やすすり泣きの声が聞こえてくる。

 ‥何事だ‥何があるんだ‥。

 もう、ぶっちゃけ帰りたい。

 そんな四朗に、四朗をよく知る小菊がお茶を出すなどして宥めた。因みに、服も今日の為に用意された背広に着替えさせられたが、なんてことはない。仕事で背広を着慣れている四朗は、所謂「七五三のような‥」にはならないのだった。桜が見繕ったらしい背広をビシッと着こなした四朗はいつもの二倍増しに恰好良かった(小菊談)

 四朗の着替えがちょうど済んだ頃をまるで見計らったかのように

「いいわよ」

 と、機嫌の好さそうな桜が四朗のいる部屋の障子を開けた。

「お父様、お母様、おじい様、おばあ様。私の息子の四朗ですわ。今日は、身内の一人として来てもらったんです。ちょうど、皆様がお揃いになる珍しい機会ですから」

 穏やかに挨拶をして、四朗を紹介し、四朗の耳元でこそ、っと耳打ちした。

「二・三時間この人たちの記憶を飛ばしてもいいから」

 ‥記憶、飛ばす? 

「そんなことできませんよ‥。人を犯罪者みたいに言わないでください」

 四朗が小声で反論する。

「いいから」

 ‥もう知らないからな!

 四朗は、すっと膝を進めて部屋に入る。

「初めまして、相生 四朗です」

 軽く会釈をした後で、顔を上げる。その眩しい笑顔‥。

「‥‥」

 ‥我が息子ながら恐ろしい。相生のおじい様どころの騒ぎじゃないな。ちょっと、私もぐらっと来た。あ、桐江まで固まってる。「四朗」を見たことない女中はもう、意識が飛びかけてるな。

 両親のこんな顔初めて見た。それでも、意識は辛うじて飛んでいないみたい。‥おじい様達は流石ね。表情も変わっていない。跡取り候補は‥、あら見てなかったのね。「関係ないか」という態度、腹立つわあ。

「これで、よろしいでしょうか? 」

 ‥ちょっと、‥その微笑みのまま、こっち向かないで。

 そして、桜はすかした顔でそっぽを向いている跡取り候補たちの保護者‥つまり、厄介な親戚たちだ‥の方にちらり、と視線をおくる。

「悪人を退治して」

「‥了解」

 何かを察したらしい四朗が、鮮やかに微笑む。

 ‥チャラい~。その微笑み。チャラいわあ。‥あ女中、とうとう何人かが倒れたな。見なきゃいいのに、見ちゃうんだろうなあ。

「楓ではなく、四朗としてその願い、承りました」

 と、今度はいたずらっぽい笑みを浮かべる。その顔は、懐かしい楓のもので、今までの動悸(! )は、一気に消し去られ、気付けば涙が頬を伝ったのが分かった。

 ああ、そうだ。『悪人退治』は、楓の口癖だった。

 ‥お姉ちゃんを困らせる悪人は全員退治するからね。

 楓は、私のヒーローになりたがった。否、‥ヒーローだった。



 数分後、『悪人退治』をした四朗はさっさと元の部屋に帰っていった。

 ‥ちょっと怒ってるんだろうな。やっぱり。

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