表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
十三章 未来を想う
104/165

6.千佳と四朗と菊子と四朗

 菊子ちゃんと四朗君。なんだかんだ言って、いいコンビかもしれない。武生さんはなんだかんだ言って、菊子ちゃんに甘いし。菊子ちゃんが「どうしても!」って言えば、四朗君をなんだかんだ言って丸め込んで結婚させちゃうくらいしそうだ。四朗君なら、何の文句もないわけだし。別に、一緒に住むわけではないんだし。‥でも、千佳と四朗君だってきっと、いいコンビになれそうな気がするんだけどなあ。

 この戦いだけは、いくら、武生さんとは言え、私負けるわけにはいきません。

 そんなことを、常日ごろ思っていたら

「四朗は、この頃落ち着きましたね」

「え? 」

 武生さんが急にぽつり、と呟いた言葉に思わず驚いて聞き返してしまった。

 武生さんは、穏やかに微笑んで、だけどもう一度同じことを言うことはなかった。

「四朗君‥ですか? 」

 あの「臣霊」事件の事以降のことを言っているのだろうか? だけど、あれは本当に「あの時」だけのことで、四朗君は(相崎が関わらなかったら)基本的に落ち着いている。それに、武生さんがわざわざ「この頃」というだろうか?

 しかも、あの頃の四朗君だって、そういえば悩んではいたが落ち着いていた。

 ‥元気になった、っていうのならまだわかるけれど、落ち着いた‥?

 ‥この頃? 

 私とずっと一緒にいた月桂や鮮花も首を傾げている。今では当たり前のようになった『臣霊』のいる生活だが、あの時以降、それ以上の感情を持っている。内緒だが、鮮花はやんちゃな妹、月桂は私にとって頼れる兄の様な存在だ。だけど、私が悩んでいたら何かと相談に乗ってくれる頼もしい仲間でもある。

「‥私は、実は四朗君のことをそんなに知らないんです」

 いい加減に答えたくなかったから、私は、武生さんに言うことにした。

 今度は、武生さんがちょっと首を傾げる。

 まあ、たしかにこの頃私は四朗君といることが割とあった。だけど、驚くほど話をしていない。

 ‥四朗君は、そんなに世間話をする人ではないんだろう。(武生さんも聞かなければ自分のことを話してはくれないから、男の人ってそういうものなのかな? )

「従兄弟って言いますが、‥最近まで会ったことはなかったんです」

 四朗君と、というか、誰とも特に会ってない。

 武生さんが頷く。

 武生さんも納得したのだろう。

 私は、四朗君の離婚した母方の従兄妹だ。そう会わないだろう。

 それに、時間的にも私と入れ替わって以降の四朗君は、習い事に仕事にとプライベートで殆ど人と会う時間なんてなかった。仕事でのことは、三郎さんを通して、武生さんも聞いているだろう。四朗君は、「親しい人間」というのが、幼馴染の二人以外は殆どいなかったのだ。そして、その一人が月桂が洗脳した武生さんで(本当にすみません)もう一人が男に興味がない相崎だったのは、本当に幸いだった。

 女の勘は侮れない、と鮮花が菊子ちゃんとの接触を妨害してくたのも良かったんだと思う。

 学校にいる時は、フォローの為なんだけど、(※これも月桂の洗脳が原因)ほぼほぼ武生さんと一緒だったわけだし。

 ‥そういえば、意識していなかったとはいえ、私はほぼほぼ武生さんと一緒だった。

 意識したらとんでもないなあ!

 私の臣霊たちが認めてくれたのも、そんなどんな時でも、真面目で誠実な武生さんのことずっと見てきたからだろう。※注 月桂達は、後から認めたわけではなく、初めから武生に目を付けていた。そして、武生に気に入らない点があったら、付きっ切りで訂正させて、「理想の(つがい)」に育成して来たのだ! おそるべし月桂、鮮花。

「‥だけど、会ってみたら、四朗君と私は似ているところも多くて、弟みたいに思えてしまうんです。不思議ですね」

 因みに、四朗は紅葉のことを「妹みたい」と思っている。しかし、紅葉には兄のように思われていない不思議。

「そうですね。兄か弟と言われたら、弟ですね」

 武生さんの表情は変わらなかったが、その口調はすこし楽しそうだった。

「ええ」

 紅葉は微笑んで武生に応えた。

「だから、でしょうね。四朗君が笑っていると、本当に安心します」

 でも、これは本当。四朗君が笑っていると、自分の事のように嬉しいし、悲しそうだったら、凄く心配だ。

 だから、この前も堪らなくなって、ここに来たんだ。

「これから、もっとずっと笑って欲しいって思います。‥本当に、姉みたいな感情を四朗君に持ってしまうんです。‥ほんとに、不思議ですね」

 恋人とかそんな関係でもないのに、だけどもしかしたら兄弟以上のような感情。入れ替わりをしていたからかな?

 それと、「桜様の気持ちがわかるから」もあるだろう。私はきっと、四朗君に感情移入しすぎている。‥悪いことだとは、だけど思わない。恋人の武生さんに後ろめたいとか、そういう感情でもないわけだし。

「‥だから、俺も、もう四朗は大丈夫だと思うんです」

 静かに武生さんが言った。

 だから? 

 ああそうか、これはさっきの「四朗はこの頃‥」の続きなんだ。

 この頃落ち着いている、だから、四朗はもう大丈夫。

 でも、武生さんは「どうして」大丈夫だと思うんだろう。私にはそれが分からない。「なぜなら」私は四朗君が「この頃」落ち着いたと、いった武生さんの意図が分からないから。

 だから

「え? 」

 私はまた聞き返してしまった。

「この頃の四朗に、昔みたいな不安定さがない。昔‥もっと、小さかった頃の四朗みたいな不安定さが」

 淡々と、独り言みたいに。

「泣くとか喚くわけじゃない。四朗は、ずっと前を向いている。‥奥歯を噛みしめて、たった一人でね。ずっと、誰にも頼るかって目をして」 

 今日の武生さんは、いつもより口数が多いみたいです。

 昔のことを思い出しながら話す武生さんの顔は、苦しそうで、どうしてだろうか懺悔しているように見えた。

「‥昔、何かあったんですか? 」

 なんだか、その「らしくない」様子に、私は気が付けばそう聞き返していた。

 目を少し伏せて、口を閉ざした武生さんに、すぐ

「あ、いいんです‥」

 と言おうしたら、

「‥傷つけてしまったんです。四歳かな五歳‥小学校に入る前位の頃でしょうか。本当に何気なく、酷いことを言ってしまったんです」

 武生さんが、ぽつり、と話し始めた。

「‥四朗君はもうそんなこと覚えていないと思いますよ」

 武生さんの顔が、本当に苦しそうで、つい「気休め」を言ってしまう。

 身勝手だって思うけど、私は、武生さんが苦しそうなのをもうそれ以上見ていたくなかったんだ。

 武生さんが、静に頭をふって否定する。

「忘れないと思います。あの言葉は、四朗の「心の傷」そのものだ。それを、俺が言葉にしてしまった。心の傷が、「他人からも言われた心の傷」という記憶に塗り替えられて、四朗の心をもっと深く傷つけた‥。そんな時、両親が離婚して、親父さんが再婚したりして、四朗は益々閉じこもっていった‥四朗が少し笑うようになったのは、博史君が産まれてからです。だけど、その際、どんなに辛かろうと、四朗は俺に何も言わなくなった。‥話しかけもしなくなっていた」

「その傷は、癒えないものなのでしょうか。‥今まで、四朗君と武生さんが過ごして来た年月と信頼してきた絆では」

 ただ、武生さんを助けたかった。その一心で、私はそんなに考えることもなく言ってしまっていた。

 と、その瞬間「あ」と気付く。

 ‥あ、「今まで」武生さんと過ごして来たの、私だ。

 その間、二人の間の溝は埋まるはずもなく‥。

 さーと血の気がひいていくのが分かった。

「俺は、その傷を半分肩代わりしていけたらな、って思ったんだ。あの時はね。それしか、四朗に対する謝罪は出来ないって。だから、四朗と菊子と結婚して義理の兄弟になるんだったら、それでもいいとも思った。あの時は。

でも

今は思わない。それは四朗に対して失礼だ」

 武生さんが私を振り向いて、ふっと微笑んだ。

「‥‥」

 私は、何も言えなかった。

 いいえ、失礼なこと思っていたのは、私だ。

 武生さんに優しく微笑みかけてもらう資格なんてない‥。

「四朗は大丈夫だ。四朗は‥頑張ってる。だから、そんなこと、俺が思うのは失礼だ」

 もう一度、武生さんが今度は自分に言い聞かせるみたいに呟いた。

 気付いたら、涙が流れていた。

 ああ、本当に私も‥。

 ごめんね。四朗君、千佳。

「そうだね。本当に、そうだね‥。私も、四朗やら、千佳のこと心配で、失礼なこと考えてた。彼らの事、信頼してなかった。みんな、一人で自分の事考えて自分で一生懸命生きているんだよね」

 武生さんは黙って私の話を聞いて、そして、微かに微笑んでくれた。

 微かで、でもあたたかい微笑み。

 そして、私の頭に手を微かにポンって置いて、「行こうか」って手を引っ張ってくれた。

あ、手

 肩越しに見える武生さんの顔はちょっと赤くなっていたけど、引っ張った手を離すことはなかった。

 手を繋いで歩く街並みは、今まで見たどんな景色より綺麗で、また泣きたくなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ