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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
十三章 未来を想う
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5.博史は、だけど恋にはまだ興味がない。

 相崎さんが、今帰っていった。

 正直言って信じられない。あの、相崎さんが兄ちゃんと喧嘩をすることもなく(‥別に談笑もしていなかったが)普通に真面目な話をしていくなんて‥。しかも相崎の将来のことを考えていたなんて。

 ‥なんだかんだ言って、あの人も相崎の人間なんだな。

 なんか安心した。

 普段あんなだから、正直「大丈夫か? 」なんて思ってたけど‥。俺とは違うんだな、って今更の事だけど気付かされた。

 将来かあ。

 なんか、想像つかない。

 


 今、将来について一番キラキラしているのは、やっぱりこの人、だろう。

 俺は今、武生宅に遊びに行く前に「相談が‥」と相生家に寄った人物を、ぼんやりと見ている。

 なんだか、またちょっと綺麗になった気がする。いや、元から綺麗だったんだけど、今までの「クールビューティー」って感じじゃなくって、こう輝くようにきれいになった。

 今まではちょっと表情とかに、少年っぽさがあって、それが兄ちゃんと似てるように見せてたんだけど、今の紅葉さんにはそれがない。もう、ホント、女子にしか見えない。

 恋の力って奴なのかな。

 あの無表情な武生さん相手だのに、‥恋ってすごいなあ。

 さらに、その相談ってのも「くっだらない」。もう「リア充爆発しろっ」ってよく言われるのが「わかるわかる」な感じのくっだらなさだ。

「武生さんって、何が好きなんでしょう? 」

「好きって、‥食べ物だよね? 」

 それに、いつもと変わらない真面目な口調で「相談」に乗ってる、兄ちゃんマジ半端なく、大人。ホント、兄ちゃんは凄い。顔とかもだけど、俺は兄ちゃんの方がお勧めだと思うよ。優しいし。頭いいし。運動神経だっていいし。‥ちょっと悩みがちだけど、思慮深い方がいいでしょ。‥いや、支えてあげたいなってことで‥。母性本能くすぐらない??

 まあ、ともかく。

 紅葉さん、言っちゃなんだけど、趣味わかんない。‥まあ、俺も武生さんはいい人だとは思うけどね(兄ちゃんには劣るけど)しっかりしてるし、頭いいし、運動神経だっていいし。顔面鉄仮面で、表情からは何考えてるかわかりにくいうえに、言葉での意思疎通もそんなに出来てないし、さりげなく気が利くとかもないけど。

 まあ、だけどこの相談。兄ちゃんには無理だろうから、俺が代わりに乗ってあげた方がよさそうだ。

「武生さんの好きな食べ物‥。そういえば、聞いたことない‥」

 ‥ちょっと、俺も気になるしね。興味本位って奴だ。

 だって、あの武生さんが‥。好物食べるときってどんな顔するんだろ。‥いや、きっと素だ。絶対変わらない。「うまい」とか言わなさそう。そういうのって、作りがいがないよねえ。

 そんな俺の横で

「昔からよく一緒にいるけど、俺も、そんな話はしたことない」

 兄ちゃんが眉間にしわを寄せて首を傾げている。

 そうだろうそうだろう。何故って、その理由俺はわかるよ。

「兄ちゃんは、普段から食事に興味がないから気が付かないんだよ。そういうことに目が向かないんだよ。それどころか、自分の好きなものも分からないんじゃない? ましてや、人の好みなんてわかるはずがないよ」

 つまり、これだ。

「え? 」

 兄ちゃんにはこの「当たり前の事」が分からないらしく、ぽかん、とした顔をしている。でも、まあ、これも想定内だ。

 兄ちゃんは、普段何でもわかるのに、こういう「当たり前の事」が分からない。流行りやら、女の子の気持ちも分からない。そんな兄ちゃんを見たら「全くしょうがないな~」って思う。※注 博史も女の子の気持ちが分かるとは言い難い。

 こういうところは、俺が何とかフォローしてあげないとね、って思う。

「え? 四朗様そうなのですか? 」

 と、ここで菊子ちゃん登場。うん、ちょっと早かった。

「え? 」

 ってまた首を傾げる兄ちゃんに「俺がさっきメールして呼んだんだ」と説明する。「ふうん? 」って兄ちゃんは首を傾げる。「それはそうとさっきの‥」と兄ちゃんが俺に向き変える。

「人を味音痴みたいに言わないでくれ。美味しいと思うことも、ある(多分。いや、あるだろう)」

 きっぱりと、頼りない言葉を断言する。

 なんだそれ、器用だな。

「うわあ、すごく自信なさげだな」

 あ、つい言っちゃった。

「そんなことは、ない」

 と、これもまた断言。ちょっと目が泳いだけど。そして、ふと思い出したように

「あれ、あの煮物、昨日の。あれは美味しかったと思う」

 昨日って! 「昔から好きだった」ってものないの、兄ちゃん!

 それに、昨日の煮物と言ったら‥

「あ、あれ作ったの、俺」

 ちょっと、にやり、ってしてしまう。

「え! 」

 と、それに驚いたのは、女性陣、菊子ちゃんと紅葉さん。その反応も、でも想定内だよ。お約束だねえ。

「博史君、お料理するんですか! 」

 紅葉さんが驚いて、そしてキラキラとした尊敬の眼差しで俺を見る。

 ‥この顔は、可愛い。こんな顔されたら、男はもっと頑張っちゃうと思う。

 「俺、頑張るから、見ててね! 」って言っちゃうと思う。

 だがしかし

「俺のことはいいです。武生さんですよね。今は」

 話はとにかく続けたい。

「え! あ、はい」

 紅葉さんが慌てた様な顔で、力いっぱい頷いて、「すみません」ってちょっと謝る。

 うん。これも可愛い。

 もうホント、可愛い。ホント、今すぐ武生さんの恋人、やめないかな。

「ここで、いろいろ言ったところでこのメンバーじゃ答えは出ないだろうから菊子ちゃん呼んだんだ」

「あ~。成程ですね‥」「兄さまの好きなもの‥。そもそも、母さま、鍋料理位しか作らないからなあ」

 菊子ちゃんが、「成程なるほど」と二度ほど頷いてから、首を傾げる。「ホント、そういえば‥なんだろ」と、本気で困っている。

 ‥そうだ。敵は手ごわい。兄ちゃんほどではないだろうけど。

「そうだな、紘子さん鍋好きだよな」

 兄ちゃんが頷いている。でも、俺はここでちょっと疑問が。鍋‥

「好きかって言われると‥違うんですけど‥」

 やっぱりね!

 紘子おばさん、あんまり料理得意そうじゃないもんなあ。‥筋金入りのお嬢様育ちだし。同じくお嬢様育ちのうちの母さんも苦手だし。っていうか、うちの女性陣ほぼ全滅で、結局お清さんが作ってるし。相崎のうちなんて、お手伝いさんがそれこそ沢山いるから、たぶん奥さん料理作らないだろうな。

 これからは、男だろうがお嬢様だろうが料理はできんといかんな!

「‥多分あんまり好き嫌いは無い気がします。ええと‥そうですわね。バターのにおいのするものは、多分好きじゃないんだと思います。バタークリームとか、クロワッサンとか、バターケーキとかいうのは、一切手を付けません。でも、ちょっとくらいなら大丈夫なのか、マドレーヌ位なら食べます。甘いものが嫌いってわけではないんですよ」

「甘いものばかりだね‥」

 兄ちゃんが苦笑いをする。聞いてるだけで、甘ったるくなったんだろう。だけど、それは俺も一緒だ。紅葉さんだけは真面目な顔してメモを取っている。

「私がお菓子作りをしたときなんかに食べてもらうんです」

 私、お菓子作りが趣味なんです。アピールなんだろう。菊子ちゃんが兄ちゃんを見ながら言った。兄ちゃんは、「へえ」って頷いてるだけだけど。‥兄ちゃん。その顔が無かったら、モテてなかったよ‥。女心わかんなすぎ‥。

「‥ご飯類は、なんでもよく食べるんですけどね。母さまは作らないですけど、‥外食したりはしますし」

 苦笑いで撃沈した菊子ちゃんが、「そういえば」と、付け加えた。

 ‥おお、身内を呼んだ俺のチョイス、ナイスだ。こういうの、身内じゃないと分からないもんな。

「あ、あと生クリームも嫌いだよな」

 おや、兄ちゃん。発言したね? 見てることもあるんだね?

 ‥生クリーム? 二人で甘いもの食べに行った?

「それは‥、ケーキについてる位なら食べていたような気がします」

「プリンアラモードだっけ、昔相崎の親父さんが御馳走してくてた時、武生殆ど何だかんだ言いながら菊子ちゃんのお皿に生クリーム置いてってたなあ、って思い出して」

 ああ、‥すごい昔の記憶だなあ‥。なんか、あった様な気がするけど‥っていう位昔の記憶だねえ‥。

「ああ、あれ‥ホイップクリームだったんです」

 そして、それについ昨日のことのように対応する菊子ちゃん。‥流石だ。

「ホイップ? ああ! 武生。ホイップも嫌いなんだ? 」

 植物性、動物性の違いの話してる? つまり、脂っこい甘いものがニガテって話でしょ? つまり。別に不思議でも何でもないよ? 兄ちゃん。

「はい‥」

 菊子ちゃんも、それは気付いたみたい‥。ちょっと困った顔して頷いた。

 兄ちゃん、ホントに食事にもうちょっとでいいから、興味持って‥?

「バターとホイップがダメ。後は? 」 

 だから! 「俺は覚えてたぞ」みたいなドヤ顔しない!

「後は、多分ないです」

 菊子ちゃんがいい笑顔を兄ちゃんに向ける。はい、菊子ちゃんの今日のお仕事終わり。紅葉ちゃん連れて、武生さんのとこに帰っていいよ! 

 ‥俺は、「兄ちゃんご用達」の煮物でもつくるか! 



 博史君はまだ、恋愛には興味がないようです。

 


 ‥今のまま、何となく時が過ぎていけばいいのにな。無理だって分かるけど、せめて今だけはこのままでいたい。兄ちゃんが、これから先幸せに暮らせたらいいのに、って思う。その手伝いが俺に出来れば、って思う。

 だって、たった一人の大切な兄弟なのだから。

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