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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
十三章 未来を想う
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4.次世代

「相馬の次男が、西遠寺の縁者と婚約したようだね。‥家柄や、そういうことには興味が無いように見えていたけれど、中々ちゃっかりしていたということかな」

 朝食の席で、当代の相崎総一郎がコーヒーを片手に、機嫌のよい声を出した。

 そこには、

 お前はどうなんだ? ちゃんとしているのか?

 と、頼りない長男を窘める様な響きはふくまれてはいない。

話題の相手が同級生で幼馴染なわけだし「もうそんな話をするような年になったんだね。早いものだね」という位の他愛もない世間話だ。

 だがしかし、相崎にはそう聞こえてしまう。

「‥武生はそんな器用なこと出来る男じゃないですよ」

 言葉少なく、不愛想に答え、パンとコーヒーを先程より早めに口に運ぶ。

「そうか。まあ、お前ものんびりしていられないな」

 と、これも別に意味のある言葉ではない。

 ただ、「武生君うまくやったね」って位の言葉だ。「君にも、恋人がいるかい? 」。元々相崎家も、女性によくモテるし、そんな話は家庭内では割とフラットにしてきた。

しかしながら、今回のことは「ガールフレンド」という話ではない。将来の伴侶の話だ。しかも、どう考えでも、武生は「うまくやった」。

 ‥紅葉ちゃんが西遠寺の縁者だったなんて! そんなこと知らなかった。

 色々ちゃっかりしている四朗ならまだしも、恋愛に疎い朴念仁と思っていた幼馴染に「うまいところ持っていかれた」というショックは、相崎の中でずっとくすぶっていた。

そんなときに、父親からのこの話題だ。

 ‥やっぱり、言われると思ったよ。

 になるのは、彼の中で自然なことだった。

 彼だって、分かっている。

 「そんなこと」考えての行動だとは、やっぱり武生に限って思わない。‥でも、結果として「そうなっている」。その一言に尽きるわけで‥。

 このことを知った時、「やられた」とまず思った。「武生がねえ」って幼馴染を冷やかすより、‥祝福するより先に。普段の相崎なら、きっとまずからかって、もしかしたら、「恋愛経験豊富な相崎信濃様がアドバイスしてあげるよ」なんて言ったかもしれない。そして、満面の笑みで「よかったな」って。

 相崎は、けっして嫌な奴じゃない。

 だけど、‥だのに、だ。

 そんな自分は、だけど、嫌だった。そんなこと、自分に考えさせる武生に対しても‥。八つ当たりみたいな感情が起こる。

「‥わかってます」

 父親の顔も見ないで、相崎は食べ終わった皿とカップを自分で流しに下げて、コーヒーのお代わりを注ぎに来たお手伝いさんにも、ダイニングの扉を出たところですれ違った父親の秘書の佐々木に、挨拶すらすることなく相崎は足早に部屋を出た。

「‥全くあいつは、いつまでたっても子供で困るな」

 苦笑いで、相崎総一郎は、ちょっとカップを上げ、お手伝いさんからコーヒーのお代わりを受ける。

「若様も、頑張っておられますよ。‥だから、いろいろ気にかかるんでしょう」

 年の頃は50代後半といった、相馬の現当主より年上の秘書が穏やかな微笑みを浮かべる。

 それこそ、前当主の代‥昔から相崎家に住み込みで働く佐々木にとっては、相崎はいわば自分の孫や息子の様なものだった。

 そして、それは相崎にとっても、だった。相談をすることも少なくなかった。相崎にとって、彼は自分の父親や祖父よりも話しやすい、頼れる家族だった。

「頑張っているのは、知ってるさ。‥足りない知識を他で補う為の、人材の開拓。今、あいつが一番力を入れていることだろ。自分で出来ないなら誰か出来る者を。‥今までの四家では考えられなかった方法だが、正しいと思う。今までの四家だったら、出来て当たり前、出来るまで努力しろ。と言っただろうし、まあ、問題なく出来る者は多かった。そして、出来ないものは家を去った」

 現当主である総一郎氏にとっても、佐々木は頼れる相談相手で、友人だった。仕事仲間とは違う、それこそ、息子のことについても話せる唯一の親友だった。佐々木にとって、‥出来のいいとは言えないあの息子は、大切な自分の家族に過ぎず、だからこそ、佐々木には何でも話せた。

 ‥まったく、出来の悪い息子で恥ずかしい限りですよ。

 なんて言わないで話せた。

 ‥あいつも頑張っているんだ、って。

 親バカ? 何が悪い? 親が認めてやらなくて、誰が認めてやるんだ。手伝えることなら、なんでも手伝うさ、それがあの子の為になるんだったら。一番の理解者だとは思ってもらえなくても、一番信じていることは、分かっていて欲しい。それが、一番の愛情だと信じている、

「そうですね」

 佐々木は、ゆっくりと頷いた。

「‥悲しいかな、あれは頭脳明晰タイプとは言い難いし、努力が出来るタイプでもない。でも、人を惹きつける何か‥魅力があるし、人を見極める才能もある。人を使う才能もある。彼は、あれで自分のことをよくわかっている。そうさ、次世代を作るのは彼と‥新しい跡取りたちだ」

 心配はしていない。

 きっと、彼は彼なりに上手くやる。彼しか出来ない『次世代』を切り開いていく。

 そんな風に思うのや、やはり『親バカ』なのかな、とも思いは、するんだけどね。



「俺は! ちゃんと出来る‥! 」

 翔の運転する車に乗り込むと、つい口から呟きが漏れた。

「正光君。荒れてるね」

いつものように聞かなかった振りをする翔は、その呟きには答えない。ただ、荒れてる相崎を宥める。

「で、今日はどこに? ジムに行って汗を流せばスッキリするんじゃない? 」

 仕事の話は、するべきではないし、しても分からない。相談に乗れるなんて思わない。自分はただの運転手で、それ以上の面倒は、‥ごめんだし。そう割り切ってもいる。

 親しいけれど、だけど、相崎は彼の「友達」にはなり得ない。

 父親と佐々木の様な、雇用関係を超えた付き合いを出来る程の信頼関係は翔と相崎の間にはない。

 そして、それは「ケジメ」だ。親しいからって言って、何でも話していいはずがない。

 生まれてからずっと、相崎の跡取りという環境に生きてきた彼は、「ケジメ」や他人との線引きが自然に出来ている。

 そんな相崎が、

「‥相生の家。四朗に会いに行く。四朗に今日は出かけない様に連絡しておいて」

 ただの友人のように今まで接してきた翔に、こんなことを言ったのは、今まで初めてだった。

「え! 俺が?! 」

 部下に指示を出すように。

 そんなこと今までになかった。

 そんな彼の変化に、しかし翔は、「え? 何。面倒はごめんなんだけど」としか思えない。

 相崎の意図がわからない。

「携帯番号は、これ。っていうか、これでかけて」

 にこり、ともせず、淡々と指示を出す。

「えええ‥」

 そして、翔にはそれに対しての拒否権も、拒否するだけの勇気もなかった。

 ぼうっとしてるようでも、‥流石は旧家の跡取り様ってわけか‥、生半端な気持ちでバイトもしてられないな。

 翔はそんなことを考えていた。



 果たして、今翔は四朗の家の程近くの喫茶店で車を止めてお茶を飲んでいる。

 相生家のリビングでは、四朗と相崎が難しい顔をして何かを一言二言話し、お茶を飲んでいる。四朗の家族は、相崎と四朗という今まで見たこともない組み合わせに、目を丸くしている。

 仕事のこと、それに対する自分の考え、‥今までの四家という役割に囚われない新しい仕事の受け方。そんなことを誰かに話したのは初めてだ。

 ‥話しながら「あ、これ違うかも。これじゃ無理かも」そんなことも、考えた。だけど、話し切った。四朗も、その間ずっと相崎の話を聞いた。一度も「無理だろ」なんて突っ込みを入れることもなかった。

「いいんじゃない? 新しいこと考えるの」

 否定をするでも、肯定をするでもない四朗の返事は、しかしながら、ついさっき「あ、これちょっともう少し考えた方がいいかも」と自分の不備に気付いた相崎にとって現地点で「正しい」返事だった。

 別に、四朗の意見が聞きたかったわけでもない。そして、多分今は四朗の考えを受け入れるだけの心のゆとりはない。そして、四朗は自分の考えを人に押し付けたりするような人間でも、人の意見にケチ付けるような人間でもない。

 現時点の「自分の本気」に上から目線で「机上の空論だ」って言われても嫌だし、「それは素晴らしいね」なんて心にもない賛辞を述べられるのも、嫌だった。だけど、誰かに話したかった。自分の考えを知って欲しかった。

 認めてもらいたい、理解してもらいたいわけではなく、知ってほしかった。

 仲間だから?

四朗が相崎に対してそんな感情持つわけがない。四朗は、相崎のことが嫌いだから。‥それは、相崎だった同じだ。ライバルだし、特に自分から関わりたい人間でもない。

だけど、悔しいかな、四朗と武生のことは普段から一目置いている。

武生には今絶対話したくないし、こんな話するなら、同じ跡継ぎである四朗だろう、と思って、四朗に話しに来たのだ。

そして、話は、「結婚」の話になった。

 紅葉ちゃんの話しから、なわけだけど。

「四朗は、どう考えてるんだ? 将来の事。‥結婚の事とか、子供のこととか。養子を貰うのか? 」

 別に答えを求めているわけでもなく、何となく聞く。

「さあてねえ、俺は結婚のことすら考えられないよ。仕事のことは精一杯やるよ。俺としてはね。でも、跡取りとしては‥俺の代で終わらせるのも‥どうかと思う。だから、博史に形だけでも相生を継いでほしいって頼んだけど断られた」

 そして、四朗に勿論答えなんか、ない。

 だけど、それはお互い、多分初めから分かっていた。

 さっきから、そんなのばっかりだ。

「形だけって、失礼な話だな」

 と、まあこれは本気だが。

‥失礼な話だろ。ホントに。

「‥でも、それしか思い浮かばない」

 しっかりしている幼馴染にも、何とも出来ないこともある。彼も、ただの人間なんだ。

 だけど、だからといって親近感を持ったわけではない。四朗とはこれから先もライバルだし、気にくわない相手だ。‥ただ、今日は愚痴を言いたかっただけだし、幼馴染の間抜け面が見たかった、ただそれだけなんだ。

 『次世代』なんて、俺が‥俺だけが創るわけでもない。だけど、『俺たちが協力して』創る必要もない。俺たちは、もっと自由になってもいいんじゃないかな。四朗もそう思ってるんだと思う。‥それの確認が出来ただけで、今日は意味がある一日が過ごせた気がする。

 翔は‥、でも部下にするには、今のままではちょっと頼りない気もする。それが分かったのも、今日の収穫だ。

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